『虎に翼』第12回 上も下も、女は閉じ込められている

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2024/04/08 22:30

2024/04/30 23:30

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 演劇のための衣装が縫い終わりました。しかし、寅子は花江の言葉が胸にこびりついています。
 外には立派な自動車が待っています。中には涼子のおつきである玉が乗っています。私は勘違いしていましたが、彼女は涼子の侍女なのですね。その玉が、車をノックした相手に驚いています。
 ここで身分制度の補足でも。
 貴人にはお付きのものがつきます。『光る君へ』では、貴族女性のまひろには常に従者である乙丸が付き添っています。そのまひろも、将来的にはさらに上流のお付きになるわけです。これは長く続いていき、昭和になっても華族ご令嬢となればついていたのでしょう。
 寅子にはつかない。涼子にはつく。これが身分差です。

婿を取るために生きる男爵家令嬢

 謎の男は桜川男爵家の執事・岸田でした。執事がお嬢様にくっついているフィクションがいますが、あれは間違いで同性である玉のような侍女がつきます。執事は使用人を束ねる存在です。その執事がどうして来たのかということ。玉が驚いていましたよね。岸田は猪爪家に来て、高い菓子をはるに渡します。そして涼子を迎えに来たと断固たる口調で言います。これは『ダウントン・アビー』のようなドラマにも通じるお嬢様が発見されてしまったバッドエンドです。涼子は憂鬱そうな顔になっています。
 岸田は猪爪家は帝都銀行勤務だから安心だと言います。女子部には様々な階層がいます。下々のものとはつきあったらいけないと丁寧に釘を刺しているのです。猪爪家はアッパーミドルということですね。そのうえで学業に専念していないのかと嫌味を言い、玉の監督不行き届きを責め、監視しているとさらに言います。

 ここで家に戻ると、涼子の母は男爵夫人仲間の話をしてきます。話の中身は縁談のことばかり。美貌の涼子は多数あるようです。ここで父は見合いをやんわりと勧めると、母は金切声で止めに入ります。どうやら母は男爵家を継いだのは母らしい。父はその婿です。ゆえに発言権が弱く、さっと引っ込んでいきます。ここで母は冷たい目で娘を睨み、桜川家に生まれた役目を果たせというのでした。桜川家はここ三代男子がおらず、婿により家を繋いできたようです。涼子に妹がいるのかどうかも重要です。
 涼子は恵まれているようで、婿取りしか将来がない、籠の中の美しい鳥なのでした。
 これは戦前舞台の朝ドラでも無視されがちなのですが、戦前は家の存続のため、女子しかいないとなると婿取りが推奨されました。女子のみの家の長女と、長男は、結婚できなかったのです。涼子が他の男と駆け落ちなんかしたらそりゃ大騒ぎでして。ゆえに執事も目を光らせているのでしょう。ゆえにかつては婿入りする男性も多かったはずで、たとえば2018年下半期ドラマは、主人公の夫は主人公の家に婿入りしています。実際には夫が重婚なので婚姻関係が法的に不成立ですが、それはさておき、世間的には彼は婿です。それがドラマでは、彼の国籍ごと変えられていました。朝ドラは日本人を元気づけるだのなんだの言って、そういう「普通の日本人」だの「家父長制」だの、そういうものにチューンアップして歴史修正をしてきたコンテンツですので。
 ついでに言うと、当時の社会からして、このドラマ主人公である寅子の結婚相手はもう予測つきますよね。優三です。彼は孤児で立場が弱い。将来の姑はもう死んでいる。寅子はかわいげなない。当時の言い方だと「破れ鍋に綴じ蓋」。条件が悪い同士がお似合いということで、縁談が設定されることが予測できます。

 このあと、岸田が持参した「お口汚し」こと高いシュークリームを直道と直明が食べています。能天気なこの二人に対し、世間を知る直言は息苦しいお嬢様の身の上を案じています。寅子は涼子の記事に目を通し、ひどい書き方だと憤慨しています。

女には楽な稼ぎ方があるって? 


 上野のカフェーではよねが接客中。愛想が悪い、法律なんか勉強しているからだと酔客が言います。そんなことしなくても楽に稼げるとガハハ笑いする客に、よねは反論します。
「楽? どこがだよ」
 そこで上司が割って入ってごまかします。
 これも明治以降の価値観を覚えるものでもある。いや、それ以前からか。よねが働く上野は遊郭に近い、いかがわしい場所とされてきました。遊女の遺骸が供養された「投込寺」など見たら、よねは怒りに燃えたことでしょう。
 この遊女に対する姿勢は明治以降悪化した側面がある。江戸時代のエンタメである歌舞伎には、家族を養うために苦界に身を落とす遊女が同情的に描かれていたものです。そこには同情がある。それが明治政府は西洋列強の批判そらしに、遊女は自分の意思でそうしているとかなんとか誤魔化しをしたものだから、境遇は変わらないのに「楽して金を稼ぎたい女」という目線が加えられたのです。
 涼子とよね。社会の上か、下か。どちらにも抑圧された女の苦痛があります。

本気なんて、計測できない基準で決めたら駄目だ


 教室で衣装あわせをしてはしゃぐ寅子たち。しかし、よねは脚本に異議があるようです。なんでも終わり方が気に入らない。女子部の学生が並び、これからは女性弁護士が救うと明るく語るのです。胡散臭いコマーシャルじみたイメージ映像が並びます。
 よねの怒りはわかる。そんなわけあるか、女なんてそれこそ投込寺ルートばっかりだろ! そう思いますよね。よねはここで実際の判例では女の訴えなんぞ却下されると苛立って言います。
 涼子は希望を持たせるためだというけれど、よねは「書き直せ」と手厳しい。涼子はそれでも先生が練ったプロット通りだという。よねはかえって男の言いなりだという。そして怒りをこめて、時間稼ぎに使うなという。よねは涼子が結婚しないためのアリバイとして女子部にいることに苛立っているのです。
 愕然とする涼子。よねはさらに主婦の暇つぶしとか。興味本位とか。そう決めつけ,自分こそ、あんたらと違って本気だと言います。おおらかな梅子だって思うところはあるし、海を超えてきた香淑には覚悟があることでしょう。それでもよねはこう言ってしまうのです。
 本気で弁護士になって世の中を変えたいというよね。母と父の顔を思い出し、だまりこくり謝る涼子。確かに彼女は結婚から目を背けるために勉学に励んでいるのだと。
「はて?」
 寅子はここで自分もそうだと、結婚から逃れるためだと認め、それでも一生懸命勉強して次に進む道を探していると言います。寅子は受け止めて認めるほうが早い。反論するだけ時間が無駄なので、別の手段で前に進むタイプです。
 寅子は、よねの本気が勝っているからなんて誰かを貶していいものじゃないという。そんな目に見えないもので上下をつけることこそがくだらないという。機転がきく寅子らしい解決法です。論点ずらしかもしれないけど、寅子はしょうもないマウントを止めるからいいんですよ。よねも黙ったのでしょう。
 やはり寅子はセンスがいい。クラウゼヴィッツの『戦争論』にせよ、『孫子』にせよ、人間の行動で動機や士気みたいな、計測できない要素って過大も過小もしちゃダメなんです。数字できっちり割り切れる要素で考えないとね!


 このあと、花江がはると料理をする場面へ。どうにもはるは砂糖を多く用いる傾向があります。佐藤が高級品だった時代、ともかく甘くすることが高級感の出し方でした。それが抜けない地方はあります。そういう差異もあるし、かつ、花江の苛立ちも感じます。こうやって完璧な味を出したところで、それがどれだけ得点として褒められるかってことでもある。はるも思うところはあるようです。
 細かいところでは、はるの筆跡ですね。当時らしい芯の固い、小刀で削った鉛筆で、筆跡も見事です。朝ドラでも手抜きしていると筆跡がおかしいんですよね。この時代らしい、素敵な字を書いています。小道具さんが本気ですね。瓶のラベルなんかもいいんですよ。

卑劣な男どもの野次に阻まれる

 そしていよいよ、法廷劇本番です。
 寅子は新聞記者をみつけています。記者の狙いは涼子ですかね。寅子は下劣ゴシップを書く記者は嫌いで、顔にも警戒心が出ていますが、ここで追い出すわけにもいきません。
 寅子は脳なイメージとは異なり、主演の女給でした。歌劇が得意ですもんね。検事役のよねも凛々しくて立派です。
と、ここで、視聴者がイラつく、クズ男子学生がいます。ムカつくので箇条書きで。

・オールドミス、貫禄があるw→エイジズム
・結婚してくれ!ww→セクハラ
・法廷劇というよりおままごとだなwww→決めつけ
・母ちゃんにあんな格好されたら恥ずかしいよなwwww→てめえの母ちゃんじゃねえんだよ
・後輩があの男みたいな奴が上野のカフェに入って行くの見たwwwww→職業差別
・なんだよ女給かよwwwwww→職業差別
・そんな奴らじゃなきゃ魔女部に入部しないかwwwwwww→学生のくせに学校の方針にケチつけてんじゃねえぞ

 寅子は冷静になろうとし、退廷を命じます。しかし、ヒートアップしゲスな笑い声をあげる。

・こりゃ魔女部がなくなるのも時間の問題だなwwwwwwww→ここは穂高先生、止めましょうよ
・どうせ誰も弁護士なんてなれねえよwwwwwwwww→ここまで言われて止めないとなったら穂高先生もまずいですよ!

「おいっ! お前、今なんて言った!」
 よねが怒ります。
「撤回しなさい! あなたね、今私たちにその言葉を投げることがどれだけ残酷かわからないの!」
 寅子が言うと、観客席の客も起こります。
「あなたたち、恥を知りなさい!」
「わざわざ劇を台無しにしに来て!」

・うるせえな、だから女はwwwwwwwwww→性差別

 よねはつかつかと相手に歩み寄り、「お前の顔、覚えたからな!」と言います。小橋というゲスはよねを突き飛ばす。よし、暴行罪でお縄だ。
「ちょっとー!」
 ここで寅子が激怒し、怒鳴った!
 舞台を降りたら駄目! そうナレーションが突っ込みました。生理痛の次は物理攻撃ヒロインか、斬新だ、それでこそ虎だ!

現代にもあるある…

 しかし、小橋のリアリティったらないよね。
 今ではオフラインでなく、オンラインでこういうことするじゃないですか。女性政治家とか、研究者とかさんざんやられますよね。
 私はもういい加減嫌になっているんですよね。
 今でもものいう女は叩かれやすいなと。そして嘆かわしいことに、それをするのが男性だけでもないということ。歳をとるとは悲しいもんだと最近思ったのが、長年付き合いのある女性が立て続けに自分くらい若い年齢の女性叩きに賛同していたこと。で、態度が悪いとか生意気とか理由つけるんですけど、世の中女叩きがしやすくできていて、かつ、穂高ほどの人でも止めに入れなくて。寅子級のお節介な奴ばっかりがそこに割って入ったりなんだかんだして。寅子はスカッとするけど、現実世界でそれができるだろうか? することで嫌われないか? そういうことを考えてしまう。私は割と怒りっぽいというか、こういう女叩きが大嫌いなんでカーッとなって強い口調で嗜めるんですけれども。そのせいで「ブチギレられたw」とか言われて絶縁されることが立て続けに起きていて虚しいんですよね……そんなとき、この朝ドラの主題歌を聴くと元気がもらえます。
 今日は客席にいた、丸顔の少女の反応も切なくて。あれなんだよな。女叩きをされているとき、当事者でなくても、見ているだけでも悲しくなってくる。見えないところで、気づかないところで、ああいう子はいっぱいいるんです。あんなふうに女の子を悲しい顔にすることが正しいと思う? 私はどーしても思えないんですよね。悔しいなあ。とりとめのないことを失礼しました。

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