2020−21 NHK年末年始ドラマ感想

実写版『岸辺露伴は動かない』

 はじめに言い訳がましいことを書いておきますと、私はそんなに濃厚なジョジョファンでもなければ、ジョジョ愛もありません。ジョジョの詳しいことは他の方にお任せします。

 漫画の実写版が成功したことがあったかどうか? こうなると、甚だあやしいものは漂っています。そもそも私はそういう作品はみません。
 本作がよいと思ったことは、脚本家の小林靖子氏が自分の色を出すより、原作を生かすとの旨を話していたことでした。実写版の嫌な兆候とは、ともかく有名な原作を俺色の染めるという野心が見え始めたあたりにあると思えるのです。

 とはいえ、原作そのままにはできない。まず、「スタンド」という言葉を封印する時点で難題がある。そのすり合わせをどうこなすか? 原作未読者でも通じるようにしないといけません。
 第一回冒頭の泥棒と露伴の場面は、原作を知らない人に露伴を紹介する場面として秀逸でした。無茶苦茶な性格だけど、愛読者には優しいとわかります。

 本作は漫画をそのまま再現するところに注目がいくとは思います。のみならず、衣装やセットをはじめとするアレンジも重要なのです。まず岸辺露伴役が高橋一生さん。高橋さんは、ジョジョ顔ではない。ジョジョ顔というと、もっと彫りの深い顔立ちの方が候補としてあがります。それをこの高橋さんという時点で,演技力重視だとわかる。実際、彼はうまいのです。
 高橋さんは、感じが悪くて癖の強い人物を演じるとうまいのです。彼を話題のイケてる俳優だからと、乙女ゲーじみた王子様にすると失敗するッ! 具体的なドラマ名はあげんけどなーッ! そう考えると本作は手堅いとみたねッ! 衣装にせよ,ポージングにせよ、目立ちすぎず、ディモールトにベネだったと思えます。撮影地もちゃんと杜王町、つまりは仙台らしさがあった。杜王町舞台なのに海外ロケするのは田ゴ作なんだよッ。

 子役の不気味さからしてスッキリしているのは、現場がいかに高レベルであったかの証明でもあります。高橋一生さんにせよ、森山未來さんにせよ、中村倫也さんにせよ。彼らプロがうまいのは当然なんですよ。そこを褒めるのは無駄だから嫌いなんだ無駄無駄。いや、実際素晴らしいんですけどね。彼らのように演技メソッドが未確立である子役が完全に没入しているということ。この時点で勝利でしょう。
 チャラチャラした女性キャラクターを相棒にするとなると、この時点で嫌な予感がするものですが、飯豊まりえさんはかわいらしく絶妙に京香を演じておりました。

 全般的に見事な出来ですし、実写版はこういう路線を目指すべきだという指標を示したという点で貴重だと思えました。
 実写化したらおもしろそうな漫画はありますし、連載終了後、世界の価値観が変わらないうちにそうすべきだとは思います。となれば、こういう作り方をすれば間違いはないと思えるのです。

新春時代劇『ライジング若冲』

 数年前のNHK正月時代劇は、見ていて憂鬱になるものでした。あまりに少ないエキストラ、和服の所作が全般的に汚い、撮影技術もいまひとつ、時代考証も無茶苦茶で、昭和のサラリーマンみたいな価値観が根底に流れている。時代劇を撮影できる人材が払拭したことを、NHKブランドや正月ムード、それにテレビ業界人の薄っぺらいノリで誤魔化しているのではないかと心の底から絶望しました。
 もう海外に時代劇スタッフは流れたのか? Amazonプライムの『MAGI』やNetflixにでも引き抜かれたのか? そう新年早々真っ暗な気持ちではあった。それが回復できたのは、2020年のおかげです。
 『柳生一族の陰謀』! 『十三人の刺客』! この二作をはじめ、満足がいく素晴らしいものがあった。時代劇復活かと期待がかかったものです。

 とはいえ、剣豪が暴れるものだけが時代劇でもない。文化面。市井の人々の生活も描かなければならない。人間の心情をしっとりと描く時代劇も必要です。そこを埋めてきたのが、『ライジング若冲』でした。

 天才が覚醒するというサブタイトルながら、劇的な場面ではなく、細やかな感情の動きを見せてゆく。若冲にある美しい才能を、大典が覚醒させてゆく。その仲立ちをする売茶翁。その才能に嫉妬する円山応挙となる青年。人間の機微、市井の息遣いが出ていて、見事でした。撮影技術、衣装、着こなし、所作。役者さんの一番綺麗な顔を撮影するという気合が随所にありました。
 美しい絵を描く人間の持つ美しさを追い求める、大変綺麗な時代劇でした。

NHKが今後めざすもの。育てたい役者やスタッフ。そんな未来までの希望や見通しもわかる。極めて秀逸な時代劇でした。こういうものが作れるのならば大丈夫.新年から明るい気分になれる傑作でした。


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