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Amazonプライム『ジェームズ・メイの日本探訪』

 BBCをやめ、Amazonプライムに雇われたジェームズ・メイ。『ジェームズ・メイの料理に挑戦!』もなかなかよかった。続けてこちらも鑑賞してみました。
 結果からいうと、大当たり! おもしろいけれど、どこか苦い。コロナの今となってみると、コロナ前を切り取った貴重な番組になってしまうかもしれない。メイはまた日本に再訪できるのかどうか。そう暗い気持ちになりますが、ざっと紹介していきましょう。

エピソード1『行け!』

 北海道からスタート。むちゃくちゃ寒いと嘆くメイ。犬ぞり体験、雪合戦、タコ漁、屋台でのおしゃべり、ビールの飲み会、日本刀作りと盛りだくさんの挑戦をします。
 ちょっとスケジュールを入れ込み過ぎたか、ばんえい競馬がカットされたのは残念です。
 
 ただの日本スゴイ番組ではないので、課題も見えてきます。たとえば道の駅にあるような券売機。英語表記がないものだから、注文がまったくできないことになってしまう。日本は観光業に力を入れるとはいえ、こういうところがネックになっていると痛感できました。

 あの口の悪いメイが、ビールをほめたことも印象的。あのメイが素直にほめてる! きっとおいしいのでしょう。

エピソード2『ロールキャベツ』

  東北地方巡りだ。まずは出羽三山で山伏修行。露天風呂にも入る。濃い体験をしますねえ。メイの超解釈する山伏の説明がいい味を出しています。
 ロボット対決。相馬では馬追いの装束を着用。
 仙台ではご当地アイドル・ぜんりょくボーイズ早朝ライブに参加し交流。メイは口は悪いけど性格はよいので、彼らのことを心配しているし、なかなか感銘を受けていますよ。
 そんなメイが列車リバティ、会津鉄道というマイナーな路線にのる! ここでちょっとトラブルが発生しますが、情報伝達ミスまで放送しちゃうAmazonが太っ腹と言いますか。

 そしてこれがこの番組の良心だ。
 福島といったら、津波と原発事故は避けて通れない。メイは浪江町にもいく。放射線量が高いことをきっちり伝えてきます。そこで暮らす人に、どうしてなのか尋ねるメイ。彼のことを考え込むメイ。日本の番組ではできないような率直な作りにいろいろ考え込んでしまいました。

エピソード3『洗剤』

 関東です。東京なので、メイはわけわからんディープなオタク文化にアプローチします。猫カフェ、アニメスクール、声優養成学校、鉄道オタクとの交流。
 と、楽しいといえばそうなんですけど。メイはズバズバ切り込む。こういうジークな技術は20年前くらいは日本にしかなかったけど、今は割と多くの国であると……いろいろ考えさせられる言葉です。
 そして、むろんあの祭りに参加します。かなまら祭り――。男性器祭りだ。よかったですね、全世界にこれが発信されて……まあありなんじゃないかな!
 この回から出てくる、通訳の雄二朗さんが面白いのです。

エピソード4『ハイ、ビム!』

 なかなか痛いところをつくこの回。芸者が三味線を演奏するのはよいにせよ、愛猫家のメイは三味線が猫の皮でできていることに衝撃を受けます。そういえばそうだった!
 そして観光案内ロボの役立たずぶりにも突っ込む。日本のジークな技術のイメージと現実ギャップにいろいろ考えさせられるのでした。

 メイはヤマハがバイクと楽器を作っていることを褒めてくれるし、いろいろ体験もする。富士山のことも褒める。俳句も詠む。
 でも、メイは悪意はないのだろうけれども、いろいろと残酷な番組だとは思った。それは鈴鹿の軽自動車レースのこと。軽自動車がいかに安っぽくて、貧しいものかを思い出させてくれる。軽自動車ばかりが走っている日本って実は相当ビンボー……わかっていたけど、忖度なしにドーンと突きつけられた感はあるのでした。

エピソード5『桃太郎』

 関西です。大阪のくいだおれやお笑いを紹介するメイ。相撲体験もあります。マリオカートにウルトラマンコスプレで乗って「任天堂は無関係!」と主張したりめっちゃ笑えるけど……メイは忖度しないので。高級神戸牛を食べるけど、あんまりおいしそうにしていない。まあ、好み分かれるもんね。イギリス人は牛肉にこだわりがあるし、褒めるなら北海道のビールのような態度になるだろうから、あまり口に合わなかったんじゃないかなと。
 
 好みに合わないといえば、黒猫メイドカフェを断るメイも印象的。メイは本気で嫌がっています。彼からしたらペドフィリアじみていて嫌なのでしょう。落ち着いたスタッフの女性と酒を飲んだと締め括る。いろいろここも考え込んでしまった。

 桃太郎も銅像を見てわけわからん笑いのつぼに入る。まあ、知らないならそうなるでしょう。

 そして広島では極めて真面目に原爆について語ります。彼なりに外せないことがわかる。浪江と広島を見ていくと日本は一体何なのかという暗い疑念も湧いてきますが。

エピソード6『梅干し』

 最後は四国と九州。九州ではゆるキャラに戸惑い、過疎化についてビシッと指摘します。過疎化が進む村でメイかかしが作られる様は、ホラー映画テイストになっています。確かに怖いといえばそう。

 うどん作りやバイクの組み立ても経験し、最後は鹿児島で終わります。

忖度しないメイが見せる、特にスゴくない日本

 おもしろいし、見ていて楽しいのですが、苦さもある。そんな番組です。メイは何度も来日していて、彼から企画を持ってきた。面白くて不思議、ジークでよいバイクや車を作る日本を訪れたい! そういう善意が根底にあるし、日本人は真面目という前提もある。
 通訳やガイドも楽しんでいるし、すごく好意的に紹介しているのですが。それでも、日本の停滞や破滅の予感もうっすらと感じてしまう。

 原発。技術の足踏み状態。軽自動車が示す不景気。深刻な過疎化。
 便利なようで不便で、国際化に対応していない点。失われつつある個性や何か。
 じわりと暗い影があって、コロナの時代にこそ見るべき番組になったと思えてしまう。何か破綻の影が漂っている。それがコロナで底が抜けるのだとすれば、そういう日本の状態を知る資料にもなりそうな番組でした。

 日本スゴイ! そう浮かれていないからこそ見る価値はある。もっとも、メイのキツいユーモアセンスは予習しておくべきですが。笑った後ですっと寒気がするような番組でした。


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