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【読書】周永河『食卓の上の韓国史:おいしいメニューでたどる20世紀食文化史』

 韓国の歴史を食卓でたどる本格的な一冊です。

国民的なメニューって、実は近代以降

 これは韓国も日本も同じなのかと納得しました。考えてみればそれもそうで、夏の冷麺にせよ、鮮魚を使った刺身や寿司にせよ、冷蔵庫がなければ成立しませんもんね。これは腑に落ちた。以前からモヤモヤした気持ちがあった。和食といえば寿司だと国際的にも広まっているけれども、一世紀前に内陸部に住んでいた私の先祖は、おそらく今の江戸前寿司なんて食べたことはなかったことでしょう。
 
 ヤンニョムチキンなんて、それこそアメリカ文化あってのもの。それをああも韓国風にアレンジしたところがポイントじゃないかと思っておりまして。あの韓国でチキンを食べる現象は興味深いんですよね。

 近代化もあって消えていったと嘆かれている、そんな本物のソルロンタンが気になって仕方なくなりましたよ。白くなければいけないと、ごまかすために小麦を入れたり、牛乳を入れたという話も。そういうことはありますよね。

キムチはやはり国民食

 韓流ドラマや映画を見ていると、冷蔵庫がでかい。そんな感想を聞いたことがあります。それもキムチを食べる量を知れば納得できました。どんなにごちそうが並んでいても、キムチなしじゃ始まらんなあ……そんな背景が説明されています。
 キムチは純粋に朝鮮半島由来か、いろいろ中国とめんどくさいことになるそうですけれども。ここまで食べているのだから、朝鮮半島の伝統食として認めるべきじゃないですかねえ。それでみな幸せになれるんじゃないのかと。
 そう思っていたら、朝鮮半島原産白菜か、中国産白菜か。そのへんで変遷があったとか。興味深い。

韓中日の肉のちがい

 東アジアの国々において、肉の優先順位はなかなかおもしろい。
 中国大陸は圧倒的に豚肉でしょう。豚の飼育システムがうまいことできていて、生ごみを食べさせることで循環します。豚の糞を肥料に野菜を育て、野菜かすを豚に食べさせる。そこには大いなるリサイクルシステムがあるのだ! 牛は農耕にも使うから、馬と同じでちょっと低くなると。

 日本は特殊。本格的に食べるのは明治以降ということで、関東は豚肉、関西は牛肉上位になりました。なんでもイギリスから洋食を学んだという誇りも絡んでいたりするそうですが。

 そしていよいよ韓国ですが。これは圧倒的に牛肉だって。その一例がこうだ。

カルビ=牛肉の部位
ダッカルビ=鶏のカルビ
デジカルビ=豚のカルビ

 牛肉が基準なのでこうなると。これは日本の関西もそうで、肉といえば牛肉なので、豚肉を入れる「肉まん」が「豚まん」と呼ばれると。

 驚いたのは鶏肉が珍しく、高級食材だったということ。鶏肉といえばかつては雉だったとか。ゆえに参鶏湯も近代以降普及したって。

おじさんの味だったマッコリも

 マッコリについても興味深い変遷を感じます。米を使って自分の家でも作る。そんな庶民的で、おじさんが飲むものであった歴史が語られます。
 でも、スーパーに行くと、かわいらしいラベルのついたピーチやマンゴーのマッコリボトルがある。これはかつてはなかったことでしょうね。韓国でそこまで女性の飲酒が認められるようになったのでは? 酒造会社も、女性需要を狙ったほうがいいと気づいたと。
 これは世界的な流れで、フレーバードウイスキー、ピンクジンも人気がでています。そういう歴史的な流れや、女性の権利についても考えてしまうのです。

フグ調理師免許があるのは日本だけだった

 日本の植民地であった歴史。これも食文化に大きな影響を及ぼしていると。本書でも指摘されているキンパなんて興味深い。日本から入り、韓国で作られるようになり、それが日本に入り……そういう歴史を感じます。韓中日が交わってできたチャプチェの話もおもしろい。
 そしてフグ。日本人が食べているからと真似て、食べ残しを貧しい人があさって……亡くなる人も出ていたと。フグ調理師免許があるのはそういえば日本だけだったと思い出したり。フグについて「こんなにおいしいのに毒があるとは!」と詠む詩が紹介されていて、これまたおもしろいのです。

アメリカの輸入が変えた韓日の食文化

 日本は第二次世界大戦後、軍事的に弱体化、骨抜きされました。憲法9条のせい? 左翼のせい? そういうことじゃないでしょうよ。島国なのに食料自給率がここまで落ちた。海上封鎖されれば終わる。そうなったのは、9条や左翼のせいではないでしょう。
 なんでこんなことをいうかというと、日本は米を食べずに小麦を食べるよう、さんざんアメリカにやられておりますので。インスタントラーメンが流行した背景にもそういうことはあると。

 これが韓国でもそうだったと本書で知りました。ともかく米を食べることにこだわっていた韓国。それが粉もん食文化が、アメリカからの輸入政策で根付いたとか。こんなところでも日本と似ていたのですね。

 食卓とは確かに歴史が凝縮されている! そう思える一冊。これは必読です。

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