『ゴールデンカムイ』第29巻加筆箇所覚書

この巻は無料公開中ですので、加筆箇所の修正が容易。かつ、本作の根幹にあるテーマが見えるものとなりました。歴史的な箇所がより重点的に加筆されています。

そもそも五稜郭は何だ?

最終決戦の舞台となる五稜郭。金塊をなぜそもそもここに隠したか? これに本作のテーマがあると思えます。
五稜郭とは何か?
実は五稜郭だけではありません。ヨーロッパから学んだ築城技術による城郭は、北海道に数カ所あります。北海道のこうした城郭と、本州以南の城はまるてちがう。
本州以北の城は、各藩の政庁であり、権威の象徴でした。それゆえ明治政府は容赦なく破壊し、遊郭に移築された上田城のような悲惨な礼もあります。会津若松城を筆頭に、こと新政府に楯突いた藩の城は景気良くぶっ壊されました。日光東照宮もぶち壊すリスト入りを果たしていましたが、明治天皇が止めています。
明治政府は廃仏毀釈もやらかすし、あいつら利権ばっかりで、文化財保護の観点すらないのだわ。文化大革命だのタリバンだの持ち出す前に、明治政府で事足りるし、同じ国の先例としてなら出す方がいいと思いますよ。誰が言ったか日本人は宗教に寛容! 戊辰戦争では東北の自社仏閣ぶち壊しまくりだろうが。

話を五稜郭に戻しますと。なぜできたか? 幕府がロシアに対抗するために作りました。東北諸藩を対ロシア警備に送り込み、統治させていたこともあります。
それが明治時代になりますと、東北諸藩や幕府の政策なんざ、明治政府は全部ひっくり返します。松前藩*も大概でしたが、松浦武四郎すら、絶望してとっとと職を辞すくらいお粗末な北海道統治政策の数々をぶちかますと。

長くなりましたが、五稜郭とはそういう幕府と明治政府の因縁がある場所なんですよ。土方歳三だけが由来じゃない。

※松前藩:永倉新八の出身藩、土方が作中で皮肉ったように、松前藩の生み出したよいものは永倉と松前漬けくらいというのはそうかも……。

榎本武揚と黒田清隆

榎本武揚の顔に表情がついて加筆。黒田清隆も登場。二代目総理大臣だな。
やっときたか……黒田清隆! こいつは道民の敵ですね。遊び半分で小樽漁師の家を艦砲射撃し、寝ていた漁民女性を殺害、もみ消しました(玄武丸事件)。酒乱で妻もDV殺人するも、これまた薩摩閥のコネで揉み消し。
そして北海道開拓使事件という、小汚い疑獄事件をやらかす。北海道開拓にまつわる諸々の利権を、お友達の五代友厚に格安で売っ払おうとしてすっぱ抜かれた事件です。北海道地元商人の声を無視して、五代をねじ込んだのだから言い訳はできない。教科書にも載っている事件ではあるのですが、どうにも近年これがおかしくなってきた。

NHKのおかげだね。2015年朝ドラ『あさが来た』と、2021年大河ドラマ『青天を衝け』でイケメンが演じて、冤罪だなんだとギャースカ捏造しまくったおかげで、なんかしらんが北海道開拓使事件もチャラになったみたいよ。
このへんの胡散臭さは『「明治礼賛」の正体』というブックレットにもまとまってます。

そういう胡散臭い明治礼賛路線の真逆をいくだけでも、『ゴールデンカムイ』は健闘していると思うわけですけれどもね。明治礼賛していたら、私はとっくに読むのをやめとる。

この場面では明治政府が汚い連中で、嘘つきだとバッチリ描かれている。アシリパは土地の権利書があったことに笑顔を見せるものの、現実世界ではそんなものは全く当てにならないことも証明されている。

この漫画で悪役の第七師団は、旭川をアイヌの土地にすると言う約束を反故にした結果、あの場所にいます。師団本営を建てようとしたら土地が高騰している。なら、アイヌとの約束を反故にすれば安上がりだと。

この前提がある限り、第七師団は悪役にしかなりません。野田先生はじめ、道民の先祖には第七師団兵が多い。それでも先祖を悪役にするのは、アイヌを描く上での最低限のケジメだと思う。

ケシの花で、、満洲を、埋め尽くすのだ

鶴見とケシの花。つまりは阿片は本作でよく出てくるモチーフ。少女漫画のパロディのようで、これまた重要な話だ。
満洲。阿片で権益を得てボロ儲け。
近代史でおなじみの極悪要素です。しかもこれ、実は現在進行形問題のパロディでもある。
満洲で阿片栽培してボロ儲けし、そのことをGHQにお目溢ししてもらい、日本の宰相になった人物がいます。その子孫もまた日本の首相をつとめています。さあ誰でしょう? わからない方は調べましょうね。
鶴見は作中、あと二週間で、裁きを下されることでしょう。けれども、そうでないものもいる世界をいまだに私たちは生きています。

29巻の加筆は、近代史と政治要素が多く、正直こう言いたくもなった。
「この加筆、よく通ったね!」
スペシャルサンクスをされている編集者さんも戦ったんじゃないですか。

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『ゴールデンカムイ』アニメ、本誌、単行本感想をまとめました。無料分が長いので投げ銭感覚でどうぞ。武将ジャパンに掲載していました。歴史ネタでより楽しめることをめざします。

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