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重度知的障害の方との暮らし【1か月目】モヤモヤを消さずに残しておく

とうとう1か月が経った。今までシェアハウスはたけしのにおいがしていたのだが、とうとう何も感じなくなった。

1日目と比べると、モヤモヤを感じることがグンと減ってきた。1か月を通して、モヤモヤの正体に気づいたり、慣れたりしてきたからだ。前々回、前回ともに「たけしの気持ち」について触れてきたが、今回もその点について触れたい。

「気持ちがわからなくていい」となってきた


前回は、たけしの気持ちの見立て方についてのモヤモヤを書いたが、気がついたら気持ちがわからなくてもいいやとなってきた。そういえば、たけしからすぐに好かれることを諦めている。たけしとのコミュニケーションは気分が向いた時に関わるくらいになっていて、気楽に空間を共有している。そんなスタンスでいると、前よりたけしのニーズや感情を正確に分かろうとはしなくなった。ただ挨拶を交わすように、簡単なコミュニケーションを取るようになっていて、ちょうどいい距離感であるように感じている。

シェアハウスの住人の1人「りょうくん」の背中とたけし

「気持ちがわからなくてもいい」と考えるようになった時、試される自分の選択の動機

スタッフさんとたけしのやりとりを見ている時に、考えさせられることがあった。たけしがご飯をたくさん食べない時の対応だ。スタッフさんは食事の味付けを試行錯誤していた。なかなかたけしが食べないのを見て、僕は「お腹いっぱいなんじゃないか」と思っていた。しかし、しばらくして、たけしはごはんを食べ始めた。自分の見立てが間違っていたかもしれないことを知ってから、自分のたけしに対しての向き合い方について少し考えた。
このシチュエーションにおいては、どのような見立てをしても間違いとは言いきれないと思う。どんな見立てをしても確からしいとも言える時、もし自分がスタッフだったら、どんな基準で見立てを選ぶのだろうか。もし僕が疲れていれば、つい「自分が楽をすること」を考えて見立てを選んでしまうかもしれない。もし評価されたい人が近くにいれば、つい「認められやすいこと」を考えて見立てを選んでしまうかもしれない。そんな風に、たけしにすぐに好かれることを諦めた今の自分は、たけしに真っ直ぐ向き合えていないのではないかと考え始めた。自分はスタッフではないのだが、一緒に暮らしていると、つい自分もスタッフのような意識になることがある。ここで働くことも考え始めているので、この機会にスタッフとしての自分の立ち振る舞いについて考えてみる。

自分を叩くたけし。どんな気持ちなのか。。

たけしの前で露呈する至らなさを受け入れること

たけしと僕の間にはある意味大きな力の差がある。たけしの前では、嘘や誘導が通りやすい。力の差があると、相手を自分の都合のいいようにコントロールをし易くなる。そんな認識の中、意志の弱い自分がスタッフになった時、たけしと真っ直ぐ向き合うにはどうすればよいのだろうか?
実際に力の差を埋めることを考えた。少し調べてみたのだが、この力の差のことをどうも「関係の非対称性」*1と呼ぶらしい。よく調べてみると、関係の非対称性は、パターナリズム(強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉すること)を生み被介護者を抑圧する可能性がある。だから、それは解消すべきものとして捉えられてきた歴史があるんだとか。その為に、「介護の有償化」や「対話」が対策として考えれてきたようなのだが、そのどちらもたけしの場合だと難しいように感じる。どうも非対称な関係性は引き入れるしかないようである。
最近は、たけしの気持ちがすぐには分からなくてもいい前提に立ちモヤモヤが減ってきていた。しかし「気持ちがわからなくてもいい」という前提は僕を過剰に甘やかし、たけしの気持ちを抑圧し過ぎかねないと考え始めた。一体どうすればいいのだろうか?
納得できる答えは見つからなかった。暫定解としては、前回出した答えでもあるが、焦ることなくゆっくりとたけしの気持ちを分かろうとしていこうと思う。また、たけしの気持ちをわかろうとしても正確にはわからないモヤモヤとは付き合い続けていこうと考えた。このモヤモヤは、たけしと僕の間柄を全うに感じる関係で繋いでくれる。
納得する答えが見つかるまでは、自分がたけしに対して不誠実に向き合ってしまう可能性が十分にあることをしっかり自覚をしたいと思う。引き続き、このことは考えていきたい。

次回「【50日目】背中で語る『そのままでいい』と『そのままではダメ』」

今回の劇場

文章/写真:中原誠大

*1 深田耕一郎:「介護というコミュニケーション 関係の非対称性をめぐって」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jws/6/0/6_82/_pdf/-char/ja


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