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重度知的障害の方との暮らし【21日目】 慣れ始めて変化するたけし像

前回は、たけしのご機嫌と不機嫌がわからないと書いた。

たけしが自分を叩くことに対して葛藤をしたり、たけしと意思疎通がとれないことに対して悔しく感じたり、なかなかたけしを受け入れられずにいた。ちょうど、これらの点に関して少し変化があったので、それを共有したい。

風景化するたけし

たけしが自分の頭を叩いていても気にしなくなった。これといったキッカケがあったわけではない。たぶん単に慣れたんだけなんじゃないかな。また、たけしに興味を持ってもらえなくても気にしなくなった。相変わらずスキンシップは取っているが、一週間前と比べると気の抜けた感じでコンタクトを取っている。前より気楽な感じでたけしのいる空間にいることができ始めたこともあり、リビングにいる時間も増えた。
今まで「おかしい」と思って感情的になっていたことが「いつものこと」になって冷静に見ていられるようになってきている。また、今まで立ち会わなかった不思議なことが起きても、前より落ち着いていられるようになった。例えば、昨日はじめてたけしが服を脱ぎ続けるシーンに立ち会った。それも、すんなりと受け入れることができた。もはや、イレギュラーが起きること自体が「いつもの風景」だという認識に変わってきている。我ながらビックリだ。

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僕の机から見える景色 右はたけし 左はもう一人のシェアメイト舞ちゃん

秩序化するたけし

今まで全くたけしの気持ちが全くわからなかったが、時々気持ちが少し読み取れるようになってきた気がする。たけしに「理解できる変化」を感じられるようになってきたからだ。
2週間以上たけしの気持ちが読み取れなかったのは、たけしの表情がはっきりしないように見えるのもあるが、何よりたけしはずっと動きっぱなしだからだ。最初は、落ち着いているように見える時が全くなくて驚いた。また、その動き方の中に僕の知っている規則性を見出せなかった。だから、敬意を欠く表現になるが、無秩序に動き続けているようにしか見えず訳も分からず思考が止まっていた。しかし、たけしをずっと見ていると「いつも通りの無秩序」と「いつもとは何か異なる無秩序」があることがまずわかってきた。「いつも通りの無秩序の感じ」をなんとなく掴み始めると、少しずつ気持ちの予想が付き始めた。例えば、知らない人がいる時に動き方が変わることがわかってきた。知らない人がいると、今の僕ではまだ微々たる差にしか見えていないが、よりたけしは一層活発になる。この違いが分かり始めると「緊張をしている」と見立てることができるようになる。そうして、やっと初めて思考停止状態から抜け出し、自分がどうするか考えることができるようになってきた。

今日立ち会えたとてもうれしかったこと

そして、今日とてもうれしいことがあった。初めて、たけしの気持ちを共感的に把握できたのだ。
今日、たけしは珍しくマシュマロを手にしていた。スタッフさんいわく、マシュマロを買ったのは初めてのこと。それを食べるかと思ったらマシュマロを飴と混ぜて捏ね始めたのだ。この時のたけしは、とてもうれしそうにしているように見えた。たけしの感情をスタッフさんに確認することなく「間違いない」と思って読み取れたのは初めてだった。

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たまたま表情がわかりやすい写真を撮れた

確かに、たけしの感情が読み取れたのは、今日がたけしにとって特別なイベントで、いつもよりたけしがはしゃいでいたからというのもあるが、それでもたけしがわからずモヤモヤをずっと感じていた僕にとっては、達成感も相まって衝撃的な瞬間になった。

「分かる」ことの危うさ

だんだんとたけしのことを分かった気になっているこの頃だが、この感覚でたけしのことを捉えて続けてよいのか迷いがある。
僕から見ると、たけしは抽象的な言語を扱えない人に見えている(たけしは声は出せる)。抽象的な言語を扱えない場合、それを扱える僕たちとは異なる認識の中で生きているはずだ。しかし、僕は目の前のことを言語を使って解釈を加え、若干無理やり自分の慣れ親しんでいる世界の中でたけしを捉えようとしている。もしかしたら、一番たけしの実態をよくとらえることができていたのは、たけしの一挙手一投足に対してあてがう言葉がわからず、ただただありのままを見るしかなかった最初の時なのかもしれない。ただどちらにせよ、たけしは僕に共有可能な言葉を使って気持ちを伝えることができず、何が一番近い見立てなのかは確かめることはできない。たけしの気持ちに対して、納得感のある答えというか、落としどころはどのようにして見出していくのが良いのだろうか?スタッフさんたちは、どのように向き合ってきたのだろうか?「早くわかりたい」という気持ちを少し押さえて、落ち着いて、たけしと向き合っていきたい。

次回「【一か月目】モヤモヤを消さずに残しておく」

今回の劇場

文章・写真/中原誠大

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