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ハードボイルドだど~⁈

アナログ作家の創作・読書ノート        おおくぼ系

 しばらくは、エッセイでいきま~す! ヨロピク!

 前にも述べたが、月に何回か、ファミレスのジョイフルでランチすることにしている。歩いて五分ほどの近くにあり、ハンバーグやチキンなどのランチがリーズナブルで、さらになんといってもジョイ・カフェというドリンクバーがあり、コーヒーや紅茶その他のソフトドリンクが何杯でもおかわりできる。 

 ここで、ランチのあと小一時間ほど、コーヒーを片手に読書にふけるのである。このひと時は至福の時間である。ウエイトレスさんとも顔なじみになると、ランチのトレーを片付けていただき、どうぞごゆっくりとのたまっていただけける。お言葉に甘えまして、カフェオレとカプチーノを交互に二杯ずつじんわりと味わう。

けっこうくつろげ、周りを振り返ると、サラリーマンがパソコンを打ったり、テキストを広げている学生もいる。

 

 で、読書であるが、『花の図鑑(下)』阿刀田高の結末にたどり着いて、独身の主人公の恋愛相手となる三人、同級生でパリ在住の個人画商、東南アジアからの出張帰りに出会ったジャーナリストそして、スナックのママさん、それぞれは〈知、美、性〉を現わしたキャラだとのこと。ネタバレになるので結果は伏せるのだが、読後は、なるほどな、という甘美な、かったるさがただよった。

 恋愛ものを(上)(下)二巻にわたり、まったりと読んでいると、やや食傷気味になり、反動がムクムクとわき上がってきて、ハードボイルドへ切り替えようと感性が叫び出した。草食系から肉食系へと変身して、ステーキをがっつきたくなったのだ。では、なにを読もうかとなり、本棚をさまよったあげく、何気なく『新宿鮫Ⅰ』を手に取った。冒頭をめくってみたところ、活字の中に引き込まれてしまって、ページから出られなくなった。依然読んだはずだが、大沢在昌をベストセラー作家へ押し上げたこの作品が出たのは、30年も前であり、面白かったこと以外の記憶はほとんど飛んでいたのだった。

 

 ご存じのように『新宿鮫』は、背景とキャラだてが半端なく、警視庁公安部のキャリア組のエリート刑事が、警察組織からうとまれ新宿署の現場に左遷されるが、犯罪の絶えない街で悪を追いつめ正義をつらぬくという、読者には分かりやすい単純明快な構図である。いわば水戸黄門の現代版ともいえよう。対する恋人のヒロインはロックシンガーであり、歌手としての生き方をつらぬくロケットおっぱいをもつ、十歳以上も若いやけどをするようなセクシーギャルである。

 

 小説の舞台となった新宿は、生活のための住居街ではなく欲望の渦巻く歓楽街としてなりたっており、日本のみならず中国、韓国など海外からシノギをもとめるワル(?)たちが集まっている掃きだめでもある。この街を仕切り稼ごうとするものと、新宿地の治安を維持するものとの攻防が、日々、昼夜巻き起こる。

 〈サメ〉は、海で魚類をねらうハンターであり悪役であるのだが、この〈新宿鮫〉は、犯罪を憎む熱い心を持ちつつ、それを武器にサメのごとく獲物へ食らいついていくのである。この肉食系感覚の小説でもって、読者(たぶんオトコ)に忘れ去られた太古の狩猟感覚をよみがえらせ、サメが獲物を得るような満足感を味わせることになる。これが一気読みさせる大きな理由ではないかと思う。が、これって〈S心理〉への共感・回帰ではないか?(笑)。

 複雑なシステムが入り組んだ現代において、熱い単純バカの暴力装置の世界観をもった小説は、非常に分かりやすく、その点では、異世界や並行世界において主人公が自分本位をつらぬくハイ・ファンタジーの世界と舞台設定は違っても基本においては変わらないかと思うところである。

 

 まずは、『新宿鮫Ⅰ』を一気読みすると、つぎは、『新宿鮫Ⅸ 狼花』へ飛んだ。この作品は初作の『新宿鮫Ⅰ』から20年を経た作品で、警視庁に組織犯罪対策課が創設されたことを背景にして、中国から出稼ぎにきた明蘭という女の子が、銀座のクラブで知り合ったある日本人と盗品市場を立ち上げる物語である。この日本人が〈サクラ〉といわれる諜報機関の人間であり、ハシッシュという薬物の大量盗難をめぐって、広域暴力団や鮫島がからみ大スぺクタルが展開される。

読み終わって興奮も冷めやらぬなか、さらに『新宿鮫Ⅷ 風化水脈』へと一作もどってみた。〈死蝋〉というワックス化した死体をテーマにした感慨深い作品であった。いずれも500枚を優にこす小説で、さすがに読めども、読めどもラストのクライマックスまでたどりつけないの感あり、だが読み終わるまでは寝られないと、久しぶりに午前様となった。

さらに『新宿鮫Ⅹ 絆回廊』、某組織の幹部の出所を待ちわびる一人の人物と出所した幹部が、鮫島の唯一の理解者である桃井課長を抹殺し、復讐をとげるのだとの凄まじい執念のもとで桃井課長は殉職する。鮫島はまたもや自身の責任を痛感し呆然とするのである。

 

 同じ作家として、書く側から考えると、この『新宿鮫』の手本があるのだから、テキストとして同じようなものが描けるかというと、残念ながらノンと言わざるを得ない。

 

大沢氏は、鮫シリーズで流行作家の地位を確立したことで、『小説講座 売れる作家の全技術』を十年ほど前に上梓し創作の秘密について述べている。

 

――歌手、俳優、漫画家、表現で食おうとしている人たちの世界には、厳然としたヒエラルキーがあるーー

――私は二十三歳でデビューし、十一年間、まるで本が売れなかった。二十八冊の本すべてが初版止まりで「永久初版作家」と呼ばれたーー

――幸運なことに、本当に幸運なことに、二十九冊目の本がヒットし、文学賞をその後いくつか受賞したこともあって、娯楽小説の世界で、私は大きな顔ができるようになったーー

――作家とは、「持続」です。一冊の名作ではなく、毎年毎年あるレベル以上の作品を出し続けること、気力、体力を振り絞り、自身のベストを問い続け、限界を超える努力をし続けること、それしかない。非常に体育会的な世界ですーー

 

 ここまで読むと、まだ持っていない最近の『新宿鮫Ⅺ 暗約領域』を読みたくなって至急購入した。これは、前作Ⅹからは8年ぶりの作品で初作からすると30年を経ているのである。孤立している鮫島を信頼してくれていた桃井課長が凶弾に倒れ、新上司の女性課長が赴任する。昨今に合わせて北朝鮮や内閣調査室も巻き込み、国際的スケールの情報戦も題材にして大きく進化している。

 

さすがに、サメ、サメで〈鮫〉中毒にかかってしまい、昨年発売の直近作『新宿鮫Ⅻ 黒石』も読まねばとなり、取り寄せることにした。

 

 ここまで〈鮫〉のハードな世界にドップリとつかると、ふたたび反動がおこりソフトで静かなものに急ターンするのではないか?、と思っている。


      (適時、掲載します。ヨロピク!)

 

 



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