(短編) 部屋

「やっと会えましたね。」
彼の言葉に私は吹き出した。
間違っているような、正しいような、でも彼らしい言葉だ。
彼も気が付き二人で笑った。
彼が出した手に、私はゆっくり手を伸ばし指先を重ねた。
肌触りとも、熱とも違うものが伝わる。
それは、私の指先を通り抜け全身に広がった。
彼の眼差しが『僕もだよ。』と答える。
私は一歩づつその場を離れ彼に近づいていく。そこに迷いはない。
彼と過ごした部屋に横たわる私をおいて、私は彼と旅立つ。
未練も価値もない全てを捨てて。

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