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(短編) 風

風の強い日だった。
足を踏ん張っていないと飛ばされそうだ。
でも、今まで飛ばされたことはない。
幼い頃はよく風に飛ばされる夢を見た。近頃はめっきり見ていない。
わからないものに身を任せながらも自由だった。不安が楽しかった。
なぜ飛べなくなってしまったのだろう。
今ここで足の踏ん張りを緩めたら無様にひっくり返って終わりだ。
一センチでも身体が浮いたら、すぐに震え上り、喜んで地べたに這いつくばるに決まっている。
そんな奴、風だって乗せてやりたくなくなるか。

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