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#1 「JASSとALFRD」

みなさんは『ブルージャイアント』をご存知だろうか。
今年の2月ごろにアニメーションで映画上映もされた、大傑作漫画のことである。ザックリと説明するならば、仙台で生まれ育ったまっすぐな青年、大(だい)が、まっすぐなまま世界一のジャズプレイヤーを目指すというストーリーだ。

この作品に僕が初めて触れたのは六本木の映画館。身の回りのジャズフリークがこぞってお薦めしてくれたので、いい音が聴けそうだなという心持ちのみで鑑賞しに行った。
その素晴らしい映画が終わり例のごとく急いで手洗いに向かうと、目を真っ赤に腫らした何人かのおじさんたちと一瞬目が合い、いまだに込み上げてきそうな涙を堪えながら僕も用を足した。
そんな気持ちにさせてくれる熱量のこもった作品だった。

世界一のジャズプレイヤーになるため、河川敷でテナーサックスを吹き続けていた主人公の大が上京し、圧倒的なテクニックを持つピアニストの雪祈(ゆきのり)、大の幼馴染で大学進学を機に一足先に上京していた素人のドラマー玉田とトリオ「JASS(ジャス)」を結成し、10代でソーブルー(恐らく現実世界のブルーノート的なジャズクラブ)での演奏を目指す。

原作漫画では仙台編〜東京編〜ドイツ編〜アメリカ編と連載中で、映画内では主に上記のような「東京編」を120分にグッと凝縮していた。
のちに僕は人生でほぼはじめての漫喫に篭って、この漫画を読破するまでにのめり込むのだが、それはまたの機会に。


前置きはここまでにして、本題に入ろう。
なぜ突然この作品を取り上げたかというと、最近、この東京編のサイドストーリーである「ピアノマン BLUE GIANT 雪祈の物語」という小説を読み終え、一応音楽家の端くれでもある自分が感じたことを書き残したいと思ったからである。

本編では触れられなかった、ピアニスト雪祈の心情や描かれてこなかった行動に触れ、六本木の映画館で込み上げた涙が蘇ってきたのはもちろんのこと、見事に感化されて僕も熱くなっているのである。
文字量が多くなりそうだがどうか許してほしい。

雪祈は、ピアノ講師の母親を持ち幼い頃からピアノを学んでいたこともあり、圧倒的なテクニックを武器に松本から上京し同年代の仲間と組んだトリオでピアニスト兼作曲家として活躍。
一方僕は、小1から高3までサッカー漬けの毎日だった中一転、高校卒業と同時にDTM(初めて聞いた方はググってください)での作曲を始める。楽器は全く弾けないから。

この時点ではみなさんもこの2人は真逆だという印象を抱くと思う。
ならば今度は共通点を挙げてみよう。

雪祈は、あまりにもまっすぐで“強い”大のテナーサックスの演奏を聴き、初めて劣等感を覚え、時間の許す限り鍵盤の前に座り試行錯誤する。
一方僕は、DTMで自分ができる作曲はあくまでデモ段階までだと勝手に決めつけ、最終段階は編曲に預けるというここ数年の制作スタンスを改めて直視し、焦燥感と憤りを抱きながら、日が昇り切るまで鍵盤とPCの前で悪戦苦闘する。(ここ数ヶ月の話だ)

どうだろうか。
それなりに重なる描写だと思いませんか。

この雪祈というピアニストは、自信満々な素振りを見せつつ常に何か思い悩んでいる。プライドが高く完璧主義者であるがゆえ誤解されやすいが、身近な人にはすぐにその内側の葛藤を見抜かれてしまう。恐らく、僕もそれに近い。身近な人には無数の葛藤を抱えていることは恥ずかしくなるくらいバレている。

雪祈くん、わかるよと。そういうこと言っちゃうんだよなと。ナメられたくないのよなと。
自分を信じてみたいんだよな。そして信じたくなる自分であり続けたいんだよなと。

そうやって、自意識過剰に空想上の人物に自分を重ねる。
今夜もまたそのうちPCのLogic Proを立ち上げるような気がしている。
きっと日本中にこういう“音楽家”がいて、深夜の音楽スタジオで、アパートで、スピーカーやヘッドホンから出る千差万別な音でその人たち自身の鼓膜を揺らしているのだろうなと想像すると、うかうか眠っていられないなと思う。


少し話は逸れるが、先日、それぞれバラバラな場所とタイミングで出会ったプレイヤーたちに声をかけ、あくまでお試しというスタンスのバンドを組んで、自分の主催するライブイベントで2曲だけやらせてもらった。このメンバーで出したい音はなんだろうと想像して、夜な夜な作ったデモの中からの2曲。結果は、個人的には残念なものだった。原因は僕。

早いテンポの曲でも平然と闊歩してゆくドラム。
そのリズムの中で太く強く地を這うような重低音を敷き詰めていくベース。
研ぎ澄まされた即興性でセクシーかつ軽やかに踊るキーボード。
そして今にも押し潰されそうでよろめくボーカル。

明らかに足を引っ張っていた。言い訳はしたくない。とにかくボーカルとして立っていた僕は何もかもが足りなかった。

お客さんは「本当にお試しなの?やりなよ!」とか「カッコよかった!」と。メンバーは「良かった!」と握手してくれたけど、僕はその場から逃げ出したい気持ちを押し殺して笑顔でお礼を繰り返した。

あれから半月が経った。自慢したいわけではないが、あのライブの日からスタジオの個人練に週2回以上通い、それでも何か足りないと、縋るような気持ちでイヤモニを買った。
自分には何ができるのか、自問自答した。
何かを掴んだような感触の後に、するりと滑り落ちていく感触を覚えた。
記録用に撮った練習を見返してはすぐに、スタジオのHPを検索し次の予約をとった。

大が体を大きく揺らしながら河川敷でサックスを吹き続ける姿を思い出す。
玉田が初心者クラスで子供よりも上手く叩けずに打ちひしがれる表情を思い出す。
雪祈がトリオのために曲を書く真剣な背筋を思い出す。

僕はきっと、明日もスタジオへ自分の作った曲を歌いにいく。

とまぁこのような感じで、最近の僕は1人でJASSの3人のような熱量を持って今夜も夜更かししていますという話です。

あの日のライブを自分自身では残念な出来だと思ってしまったけれど、逆に言えば僕がメンバーのみんなに並ぶことができたら、すごいものを見せられる気がするのです。
だからまた名前すら決まっていないこのバンドのライブがあったら、ぜひ見届けてほしいなと思います。
もちろんALFRDとしてソロのライブ出演も控えているので、そちらも。

初回からこの先が怖くなるくらいの長文になってしまった。
毎回こんなボリュームじゃないと思いますが、「ALFRDの180光年シーズン2」も何卒。

それではまた次回。おやすみなさい。

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