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フリーウェイに乗って、山下達郎を追いかけて! Road.1「CIRCUS TOWN」

※こちらは、僕が、山下達郎のオリジナル・アルバムを買い集めきるまでの旅を記録した日記です。
ちなみにサブスクでの配信はほとんどないため、音源は貼りつけません。気になる人はアルバムを買うといいさ。

1st Album「CIRCUS TOWN」

3年弱活動してきたシュガー・ベイブを解散し、ソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせた山下達郎さん。そんな彼は自分の現在地を第三者に判断してもらうため、アメリカに渡りました。
ライナーノーツによれば、シュガー・ベイブ時代はバンドの音楽に対してほぼ独裁者だったと、彼は振り返っています。
そして「とはいえ、所詮は22歳の若造です。プロデュースだアレンジだなどと吠えてみたところで、小さな世界での観念的な『ごっこ』言葉でしかありませんでした」と語っています。この齢で、すでに達観している山下達郎さん。さすがです。
そんな彼が手掛けた1stアルバム「CIRCUS TOWN」は「ニューヨーク・サイド(A面)」と「ロス・アンゼルス・サイド(B面)」に分かれています。
それぞれの土地でそれぞれの苦労があったようで、ライナーノーツを読んだ後、アルバムをもう一度聴き返してみると、まるで一本のロードムービーを見たかのように、聴きごたえがあり、今後2nd、3rdとどうなっていくのか、期待を寄せずにはいられません。


1.CIRCUS TOWN (NY side)

アルバムの表題曲です。
1stの一曲目、どんな景色を見せてくれるのだろうと再生してみると、イントロの最初にどこかで聞いたことがあるフレーズがあり、僕はずっと気になっていました。
するとライナーノーツに、プロデューサーであるチャーリー・カレロが「藁の中の七面鳥」のフレーズをピッコロではめ込んだと書き記されており、疑問が解決されました。

しかもフレーズ自体にもアレンジが施されていて、小鳥のさえずりのような、または天使が吹くファンファーレのような、そんな軽やかな印象を抱く始まりの音となっており、また好きな一曲が増えて嬉しかったです。


2.WINDY LADY (NY side)

何よりもまずは、イントロのベースです。しなやかであり、また渋さも含むフレーズを聴いた時、僕はすぐにこの曲を好きになりました。
山下達郎さんの曲のほとんどは吉田美奈子さんという方が作詞をしているのですが、この曲は作曲作詞ともに本人が手掛けており、だからなのか、少ない言葉数の中で香りたつ儚さと渋さが、曲調により強く結びついているように感じられます。中でも特に、好きなフレーズがここです。

手を延ばしても、どこか遠くへ
飛んでゆく 愛の様な 闇の様な

言葉の終わりに「闇の様な」と持ってくるところがお気に入りです。この部分「風の様な」でも成立はすると思うんです。だが、そうせずにあえて「闇」という言葉を持ってくる。この言葉選びが、曲自体に湿度を纏わせ、全体的に漂う渋さにも繋がってくるんじゃないかと、僕は思っています。
また、この曲はマイケルジャクソンの「oh…」とか「Ah!」の様なそのアーティスト独自の節(以下、山下節)が多分に含まれており、最初からすでにスタイルが確立されていたことがうかがえます。


5.LAST STEP (LA side)

元々は、前述した作詞担当の吉田美奈子さんに向けて書き下ろされた曲で、調べてみると彼女もアーティストで、アルバム「フラッパー」のために書き下ろしたものをセルフカヴァーしたのがこのナンバーです。
セルフカヴァーってほんといいですよね。例えば、井上陽水さんの「飾りじゃないのよ、涙は」とか、最近だとVaundyさんの「おもかげ」もかなりよかったですね。ほんと、楽曲が一度に二度おいしくなるから、最高なんですよね。

吉田美奈子さんの楽曲の中で衝撃だったアルバムをここに載せておきます。


特に最初の曲、TOWNがかっこよすぎて、聴いた瞬間、雷鳴轟く夜の摩天楼が思い浮かび、かっこよすぎてしびれました。(フラッパーでなくてごめんなさい)

ラスト・ステップの曲全体を通しての感想は、裏拍のクラップ音が特徴的で、サビに入ると思わず踊りだしてしまうほど、楽しい一曲だなと思いました。

詞でいうと、

二度とめぐり逢えないかも 響く音はただ ラストステップ

このフレーズが特にお気に入りです。

詞だけでみると、もの悲しく感じますが、そこへ音が乗ると雰囲気が変わります。こういったマジックがあるから音楽って楽しいんですよ。
まるで「ぼろいナイトクラブで男女が一夜限りの関係性を楽しんでいるかのような印象」があり、夜にスキップをしながら聴きたい一曲になりました。


8.夏の陽 (LA side)

この曲で特徴的なのは、語尾の節回しです。
例えば「燃えろ夏の陽(ぃー)」のように言葉の最後を半拍置いてから母音だけを伸ばす表現が多用されており、それが郷愁を誘うような仕上がりになっています。
この曲は特に詞が好きで、例えば「窓の向こう」と表現しても通じるところを「窓の彼方」と表現することで、その後に描かれた風の描写が、さらに遠く、儚く映るところであったり、また蜃気楼を「風が道路で炎吹き上げ」と言い換えているところであったり、全体を通して叙情的な表現が目立つナンバーとなっており、僕が聴きたい山下達郎さんの曲、ど真ん中といった感じで、アルバムの聴き始めはこの曲ばかりを聴いていました。

中でも特にお気に入りなのは、

そうじゃないんだ
僕のいるのは、あの焼けた樹の只中さ

ここまで積み上げてきた叙情的な表現が綺麗で、秀逸だったからこそ、「そうじゃない」という否定が一際、目立ち、その後に描かれる景色が、いかに私的で、この曲の主人公にとって、何にも代え難いのかがひしひしと伝わってきて、最高なんです。
早く、夏の陽の下でこの曲が聴きたいです。


Bonus track. [CIRCUS TOWN]


「前の車を追ってくれ」
 後部座席に乗り込んだ男は、ポケットの中で丸まった五ドル札を手渡すと、運転手が振り返り男の慌てぶりを察して車を走らせた。
 真夜中のウォールストリートをテールランプの明かりを頼りに追走する。
「お客さん、どうしてあの車を追いかけているんですか」
 運転手の質問に対し、男はシャツの胸襟をつかんでバタバタとさせながら、「忘れ物をアイツに届けないとならないんだ」と答える。
 男はウォール街で今、銀行員をしている。そして前の車を運転する男とはついこの間まで、バンドをしていた。
 バンドの中で彼は中核を担う存在であり、苦手なくせに創作に詰まるとバーボンをロックで飲み、「僕は独裁者だ」とよく自分を卑下していた。
 そんな彼とバンドを繋げていたのがこの男であり、そしてバンドの解散を打診したのもこの男だった。それは彼の要求や、求めるクオリティに対してメンバーの力量が追い付いていなかったからだ。
 思い出話を語っていると、突然車の中から異音がした。
 そして、エンジンが止まる。
 だが、男は運転手を怒る気にはなれなかった。
 ウォールストリートの闇の彼方、赤いテールランプが消えていく。
「申し訳ありません」
「いや、いいんだ。もう、いいんだ」
 これは報せなのだと、男は思うことにした。 






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