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四コマ漫画みたいなノリで書けないかなと思い、始めたショートストーリー集です。
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#彼女

プライマリー・カラー 〈Bの章〉

 大学時代に付き合っていた彼氏に貸した三十万円は未だ、返ってきていない。  出版社に就職した透香は営業部に配属された。彼女は前に立って何かをすることが苦手だったため、総務課を希望していたが、社会は彼女中心で回っているわけではない。結局、三年経てば異動願いが出せると説得され、透香は働く度にすり減っていった。  水曜日の午後4時。コンビニを出ると夕立が降っていた。  コンビニから会社までは徒歩5分圏内だが、彼女は営業資料が詰まった紙袋を両手で持っていたため、立ち尽くすしかない。

ドライアイス

 マイナス79度の二酸化炭素は空気に触れると昇華され、大気中の水分を逆に凍らせながら、白い煙となる。 「なんで、まだあの男と付き合ってんの?」  喫茶店の窓際の席、外気と室内の温度差でガラスは結露している。  彼女には付き合って6年の彼氏がいて、向かいに座る彼女の親友は結婚して三年目だ。親友の夫は馬車馬で、ファミリーカーであり、もはやレジャーシートだ。そんな親友のことを彼女は心から尊敬し、常に正しいと思っていた。  それでも前髪を真ん中で分け、耳のあたりから鎖骨まで緩く巻

フーディー

「それ、捨てるの? 気に入ってたやつじゃん」 「うん。衣替えだし、思い切って断捨離」  夏日が続いたかと思えば、連日の雨。雨が上がると今度は気温が一気に低下した。日本は四季のある国であるが、秋と春は年々短くなっている気がする。  今日も外は雨が降っていて、そんなときに限って衣替えを始める彼のタイミングの悪さに呆れている。彼女は箱ティッシュを抱えながら、Tシャツや、パーカーをせっせと袋詰めする彼を見下ろしている。強く鼻をかんでみるが、彼は断捨離に夢中で振り向きやしない。なん

シーブリーズ

「私たち、どこかでお会いしてませんか?」 「え?」 「いや、だから、どこかで……」  上映開始5分前。  予告編を流すスクリーンと室内灯の明かりを女の顔が遮る。今すぐ後ろに飛んで遠ざかりたいが、シートの背が彼女の逃避を阻む。  自分は彼女とどこかの通りですれ違ったのだろうか。それとも学生時代のクラスメイトか、専門時代のルームメイトだろうか。そもそも全く知らない他人なのだろうか。  判別するには情報があまりにも少な過ぎて、結局、彼女は上映開始からエンドロールまで、女の顔が