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四コマ漫画みたいなノリで書けないかなと思い、始めたショートストーリー集です。
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#恋愛小説が好き

ハイアー・ザンザ・サン

 ヤツは今頃、ハワイの上空だろう。  半年前に別れた彼女から連絡が入り、先月の終わりに俺は彼女と再会を果たした。  だが、その逢瀬は復縁の申し込みや一夜の過ちといった浪漫が絡んでくるものではなく、彼女にとって、俺との再会はただの回収作業だったのだ。こうして、半年前に計画したハワイ旅行のプランは、センターパートでイギリスと日本のハーフらしい証券マンの手に渡った。  解体工事の現場の昼休憩中、惣菜パンをいくつか買うと俺は再び現場に戻った。  2つ年下の後輩が先月結婚したらしく

パラレル・ゲイズ

 視線の先の彼女は、背を丸めていて、静かに鼻で息をし、先月思い切って染めた赤茶色の髪がよく似合っている。ベッドを抜け出た彼はテーブルの上に放置されている明太子クリームパスタにラップをかける。一口だけ残っていて、皿の余白がやけに目立って見えた。  昼過ぎに起き、元アイドルで今はYouTuberとして活躍している女性の質問動画を眺めているうちに彼女が起きた。  午後3時半すぎに、2人は洗面所で歯を磨き、夕飯の買い物へ出かける。  外は寒く、彼が意見を譲らなかったため今日はカレー

プライマリー・カラー 〈Wの章〉

 彼は都内の飲食店でバイトをしているらしい。確かにと透香が思ったのは、体を撫でる指先がひどくかさついていたからだ。透香の両腕を押さえつけ、貪るように、あるいは今夜の居所を探るように、彼は柔肌に顔を埋める。30過ぎの熟れかけの身体でも需要がある。それは単純に嬉しかった。頬のニキビ跡が気になったものの、そこそこ顔立ちも整っていた。だがエサになったような気分がずっとあり、透香は行為に集中できずにいた。  対する彼は透香の身体に溺れていた。会話の中で同年代にはない落ち着きと色気を感じ

プライマリー・カラー 〈Bの章〉

 大学時代に付き合っていた彼氏に貸した三十万円は未だ、返ってきていない。  出版社に就職した透香は営業部に配属された。彼女は前に立って何かをすることが苦手だったため、総務課を希望していたが、社会は彼女中心で回っているわけではない。結局、三年経てば異動願いが出せると説得され、透香は働く度にすり減っていった。  水曜日の午後4時。コンビニを出ると夕立が降っていた。  コンビニから会社までは徒歩5分圏内だが、彼女は営業資料が詰まった紙袋を両手で持っていたため、立ち尽くすしかない。

バックレスト

 事の始まりは2月14日だった。 「好きです」  真っ白くなった指が、インクで擦れて汚れたアームカバーを摘んでいる。男の手には個包装されたチョコレートが収まっていた。  男は拳から両肩へと、震えを辿どるように彼女を見ている。目の前には幼気な旋毛があった。  男の薬指は光っている。俯いている彼女はそれを見つめている。通りかかる学生が彼らをちらりと見る。  ひとりの女子高生が事務員の男に縋り付いていた。 「じゃあ、1度でいいからデートしてください。映画見てお茶するだけでいい