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四コマ漫画みたいなノリで書けないかなと思い、始めたショートストーリー集です。
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2023年3月の記事一覧

ストロー

 4月を待たずして、桜は散ってしまいそうだ。  公園の花見スペースにはいくつもブルーシートが敷いてあり、肩を寄せ合って春風の匂いを楽しむ男女もいれば、頭上の景色そっちのけで酒盛りに興じる中年男性グループもいる。  皆、仄かに頬が赤く、目尻が蕩けていて幸せそうだ。  ブルーシートの端に桜の花弁が舞い落ちる。頭上にある真っ青な空に旅客機が一機飛んでいるように花弁は目立ち、三人家族の娘が拾おうと手を伸ばした。すると風が吹き、隣のブルーシートへ転がっていってしまうので、娘は青年の背中

ワルツ・フォー・デビィ

「お前にとっての音楽ってなんだ?」 「そういうことはあんまり考えたことがない。考えないようにしてるってのが近いかもね」  この曲を作った時、そう答えたのを今思い出したよ。  あれは、3月頃だったかな。  兄夫婦に一人娘が生まれた。それはもう嬉しくてさ、赤ちゃんてすごい温かいんだね。僕びっくりしちゃってさ、気づいたら泣いてて、それを見た兄さんたちが笑っててさ、それで3人でひとしきり祝福しあったんだよ。  それからさ、なんとなくだけど、ここからは夫婦の時間だろうと思って、病室

メロン・ビーチ・クラブ

 レンズの分厚いメガネが似合うふみちゃんはプールの授業をさぼって屋上にいた。太腿の上にはお弁当用のバッグがあり、チャックを閉めたまま誰かを待っている。  建付けの悪いドアが音を立てて開く。  長い前髪で顔が隠れたうみちゃんが手を挙げた。彼女が持っている袋の中には夕張メロン味のミルクとレタスとハムのサンドウィッチが入っている。  消毒と着替えを終え、プールサイドには生徒たちが集まっている。今日はクロールの25メートルのタイムを計る日で、生徒たちはやりたくないと思いながら、日差

ドライアイス

 マイナス79度の二酸化炭素は空気に触れると昇華され、大気中の水分を逆に凍らせながら、白い煙となる。 「なんで、まだあの男と付き合ってんの?」  喫茶店の窓際の席、外気と室内の温度差でガラスは結露している。  彼女には付き合って6年の彼氏がいて、向かいに座る彼女の親友は結婚して三年目だ。親友の夫は馬車馬で、ファミリーカーであり、もはやレジャーシートだ。そんな親友のことを彼女は心から尊敬し、常に正しいと思っていた。  それでも前髪を真ん中で分け、耳のあたりから鎖骨まで緩く巻