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四コマ漫画みたいなノリで書けないかなと思い、始めたショートストーリー集です。
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2022年11月の記事一覧

フーディー

「それ、捨てるの? 気に入ってたやつじゃん」 「うん。衣替えだし、思い切って断捨離」  夏日が続いたかと思えば、連日の雨。雨が上がると今度は気温が一気に低下した。日本は四季のある国であるが、秋と春は年々短くなっている気がする。  今日も外は雨が降っていて、そんなときに限って衣替えを始める彼のタイミングの悪さに呆れている。彼女は箱ティッシュを抱えながら、Tシャツや、パーカーをせっせと袋詰めする彼を見下ろしている。強く鼻をかんでみるが、彼は断捨離に夢中で振り向きやしない。なん

『omm...』

 指先で何の感慨もないまま、呟いた言葉があるとする。それはどこかの誰かの共感を誘い、本人が想定していない規模の人数を巻き込んだりする。だが、真摯に考え、なるべく相手が傷つかないようにラッピングし、贈った言葉に限って、当人には届かなかったりもする。  そんな経験があったからこそ、彼は彼女に、なるべく剥きだしの言葉を、脊髄の段階で掬い取った言葉を、躊躇なくぶつけてやりたかった。 「コンポタだろ?」  彼女が黙って頷く。  無人駅のホームで彼と彼女は二両しかない私鉄を待っている

シーブリーズ

「私たち、どこかでお会いしてませんか?」 「え?」 「いや、だから、どこかで……」  上映開始5分前。  予告編を流すスクリーンと室内灯の明かりを女の顔が遮る。今すぐ後ろに飛んで遠ざかりたいが、シートの背が彼女の逃避を阻む。  自分は彼女とどこかの通りですれ違ったのだろうか。それとも学生時代のクラスメイトか、専門時代のルームメイトだろうか。そもそも全く知らない他人なのだろうか。  判別するには情報があまりにも少な過ぎて、結局、彼女は上映開始からエンドロールまで、女の顔が

ボトルシップ

「そういや、子供生まれたわ」 「へぇ、第二子か」 「うん。俺もそうだけどさ、お前も反応薄いよなぁ」  送ったメッセージにはすぐ既読がついた。  今、電話を掛けたら、アイツは出てくれるだろうかと彼は考える。  友達として一言、指先ではなく、声で直接伝えるべきではないかと悩む彼は、喫茶店の窓際の席でカレーライスを食べていた。それは、煮込みすぎて最早、豚肉の食感しか残っていなく、実家のカレーを想起させた。  窓際にはボトルシップが飾られている。  外ではあまり見かけないため