拝啓

拝啓貴方

いかがお過ごしですか。
最近の貴方はどんなものかと、まあ、知る由もないのですが、先程ふと思うことのありましたもので、
これから先のことは、ご内密にお願い致します。

…なんて、そんな堅い話はやめにして、私たちが大好きだったあの食べ物のお話をしましょう。
わたしね、今でもよく食べるんです。そう、コーヒーゼリー。

背の低い硝子の器にそれを取りだします。
元はひとつの固形だったのを、スプーンで潰して、
仕上げにかけるのはミルクと、そうして人さじの銀の粒。
あの時見た景色にそっくりですね。
あの日、あの夜、一緒に見たあの電飾の光と―

すくって口に運ぶでしょう。
そうするとクリスマスは終わる。
街は明かりを消して、わたしの口の中で異音をたてて混ざっていく。
黒と、白と、銀色のそれが、ぐしゃぐしゃに。

多分、わたしたちって、そうだったでしょう。
ずっとずっと、そうだったでしょう。
わたしの振りかけた光は、とってもきれいだけれど、
口の中にいれるとまるで邪魔者で、
だけど貴方は、そうね、その光を好いていたんでしょう。
ごめんなさいね、貴方。
わたしはね、この音がね、好きだったのかもしれない。
がりがりと音を立てる、飾りのためだけのアラザン。
つるりとしたゼリーは、甘くて、苦くて、おいしいけれど、
それってつまらないでしょう。
だけどね、泣きながら噛み砕いてくれるのはね、貴方だけだったわ。

あのね、わたしが結婚する人はね、アラザンの味を知らないのよ。

このお手紙、貴方にだけ見せようか、それとも世に出してしまおうか、とっても悩んだんです。
だけども出してしまうことにしました。
恐らく何人もが、これを自分宛だと読むことでしょう。
だけどそう、これは貴方宛のお手紙ですから。
このお手紙を読むことが出来るのは、貴方だけですから。
何度も申し上げるようですが、ご内密にお願い致します。
それでは。

敬具


コーヒーゼリー/イルミネーション

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