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「白猫のむにさん(9)」

むにさんと出会ったのは、私がまだ大学生の時だった。その頃はもうほとんど学校に通っておらず、通う気もなく、大学から遠く離れた矢口渡に住んでいた。引っ越してばかりの人生だったのだけど、必ず、検索条件にある"ペット飼育可"をチェックしていた。だからいつでもペットが飼える状態だった。

「ペットのおうち」というサイトで、こちらも必ず、検索条件にある"単身者応募可"をチェックし、毎日欠かさず見ていた。工場勤務の人が投稿していたページで、のちにむにさんと名付けられる白猫を見つけた。当時近くに住んでいた姉に相談してから、工場勤務の人にメッセージを送った。そしてうちに来てくれることが決まった。とても嬉しくて、すぐに準備を始めた。

6月23日にうまれたことがわかっていたのは、たまたま人がいる場所でうまれてくれたからだった。だから、名前は623から"むにさん"と名付けた。むにさんは確か、生後2ヶ月くらいでうちに来たんだと思う。トイレを覚えてもらうために猫砂を指でぐるぐるかき混ぜて音を立てたり、フードをふやかして口のまわりにぺたぺたつけて舐めさせたり、まだ猫になっていない状態の、ふにゃふにゃしたいきものだった。

育てていた記憶は鮮明なのに短期間しか過ごせなかったむにさんとの日々。それは私が精神的に未熟だったから、無責任にむにさんを譲り受けてしまったから、起こってしまった出来事だった。

大学卒業後、就職活動をしていなかった私は一度実家に戻ることにした。精神疾患を理由にするわけではない。ただただ私の甘えと弱さによる結果だった。

むにさんは姉の元で暮らすことになった。姉は同棲していて、その相手はのちに私の義兄になる人で、ふたりに託すことになった。その時の記憶だって曖昧だ。しっかり覚えていなければいけないのに、無責任にも忘れてしまっている。どんな経緯だったかさえ覚えていない。私はむにさんから逃げてしまった。

9歳になったむにさんは穏やかに暮らして幸せそうだ。姉よりも義兄に懐いていて(りらも義兄のことが大好きだったなぁ)、姉の家に遊びに行くといつも義兄にべったりくっついていた。今は遠く離れた北海道の地で、姉とふたり暮らしをしている。寒いのが苦手なむにさんだけど、北海道に引っ越してからも色んな成長を遂げているらしい。たまに会える義兄にもしっかりべったり甘えているらしい。

繊細で、甘えんぼで、そんなむにさんのことが大好きだ。むにさんには嫌われているけれど、カルダモンを連れて行った日から嫌われているけれど、それでもむにさんのことをずっと大好きでいる。また会えるといいな。うまれてくれて、生きていてくれて、私のことを忘れないでいてくれて、ありがとう。もう二度と同じ過ちは繰り返さない。むにさんはたくさんのことを教えてくれました。