見出し画像

清少納言と紫式部はいがみ合わない

もう3週間前のことになるけど、滋賀は大津まで「光る君へ」の関連イベントを観覧しに行ってきた(公式レポート)。制作統括の内田ゆきさんと清少納言役のファーストサマーウイカさんのトークショーで、司会はNHK大津放送局の上原あずみキャスター。普通にWebフォームに入力して応募し、厳正なる抽選システムによって当選した。システムでなければ、きっと地元の方々が優先で、東京の人間は選ばれなかったかもしれない。

トークショー会場になった建物内で等身大パネルが展示されていた。大石静・作、大河ドラマ「光る君へ」は紫式部(吉高)と藤原道長(柄本佑)の縁を軸に、宮中の政治闘争や家族の愛憎、そして紫式部がいかにして「源氏物語」を書き著す人間になっていくかを描く

イベントは観客の撮影・録音がNG。会場の暗がりのなかで紙にボールペンでメモはして、会場を出てからもう少し詳しいことをスマホに打ち込んでおいた。ドラマでは清少納言(本作オリジナルの役名:ききょう)も6話から登場してアクの強いところを見せている。今さらだけどイベントで印象に残ったところをまとめておく。「」で引用している発言は文字起こしではなく、こういう言い方でこういう内容だったと思う、というおぼろげなものなので、あくまでご参考程度に。紙に筆記具で書くなら鉛筆を使いたい感じの記事だと思ってもらえれば。

箱根本箱に泊まるともらえる便箋をメモがわりに数枚持ち込んだ

ファッサマさんのサービス精神

イベントで感じたのは、ファーストサマーウイカさんのサービス精神。「今日は3倍速ぐらいでしゃべり倒すつもりで来ましたからね!」「(大阪出身なので)滋賀には水を止められないように、足を向けて寝ないように、常に北枕で寝てました!」と挨拶から気前がよかった。

トークショーが開催された日は快晴で、琵琶湖がとても美しかった

お話の中に共演者の名前や他の人が演じる役の名前も多く登場し、それは自然にそうなったというよりは意識されていたことじゃないかなと思った。「共演の方との現場エピソードは?」とか「主演の吉高由里子さんの印象は?」とかの質問に答えたのではなく、所作やセリフの話題からナチュラルにいろんな人の名前が出てきていた。

「特殊メイクとかって加齢は表現しやすいと思うけど、若いときを表現するのって限界があると思うんですよ。でも大河では皆さん、例えばまひろ15歳とかを演じられるわけじゃないですか。も~、吉高さんが本当にすごい! 現場でも『わらべじゃ、わらべじゃ』って思いましたもん」みたいな感じ。

「F4(道長、公任、行成、斉信)で1曲出してほしい。ライブとかないかな。あれは売れますよ、彼らは絶対」とSNSの話題も踏まえてみたり。内田さんが美術部の渾身のセットを「ドールハウス化したい」と言えば「(登場人物の)アクスタも欲しい。ドールハウスに立たせて遊びたい!」とノッたり。

内田さんも朝ドラ「スカーレット」で信楽と縁が深いので「滋賀は第二の故郷」と言って、落ち着いた語り口ながら、たくさん興味深いお話をされていた。

ただ、当日は空席がちらほらあったのが残念。県の商工観光の組織から挨拶に立たれた方によれば(こういうの地方に来た感があって好き。NHKホールでやったら渋谷区の組織長が挨拶をすることはないと思う)、この日の観覧は応募倍率が3.4倍だったそうなのに。当選したものの急用で来られなくなった人もいただろうけど、そうじゃない人も多かったはず。無料だからめんどくさくなったら気軽に権利を放棄する、せっかく用意されたものをむげにする、みたいなことって品のないやり口だなと思う。

もみあげに魂が宿る

トークショーの途中で、ききょうの登場シーンを特別に先取り、チラ見せということで1分ぐらい本編映像を上映する場面も。上映後にはご本人から髪型について解説があった。

「史料にくせ毛だったというような記述もあるので、メイクさん、カツラさんと相談して、(もみあげのところを触りながら)ここを前にはねさせて、ガーッとものを言いそうな感じを表現しています。前のめりなもみあげ(笑)」

まひろこと紫式部(吉高)は直角というかウイカさんいわく「矢印みたい」な形に切りそろえられていて、彼女のガンコっぽいところが出ているし、倫子様(黒木華)はまた違っている。それぞれのキャラクターがもみあげに反映されているそうだ。

平安に女の文学が花開いたのは……

衣装やかつらのことも話題に。重くて大変だとか、コンビニにもそのまま行くのでNHK周辺のコンビニでは平安貴族が闊歩しているとか、そういう話も面白かったけど、なるほどと思ったのが、ウイカさんが衣装・かつらの重さから想像したこと。

「髪が重くて頭は後ろに引っ張られるし、衣装が重くてまた別の方向に重力がかかって。平安時代の女性って身体的な不自由はすごくある。だからこそ外へ行くより、“外へ行ったとしたら”と窓の外を見ながら想像することが多かったはずで、イマジネーションがよりふくらんだんじゃないかと思いました。外出るのやめとこうって思いますもん、この重さ」

石山寺の境内に設置された大河ドラマ館には、まひろが五節の舞姫を務めたときの衣装が展示されている
まひろがものを書く机を再現した展示も

内田さんからは、貴族たちの所作から、時代のムードみたいなものを感じ取ったというお話があった。

「貴族たちが正座ではなく琴を弾きながら立て膝したり、背中に柱をもたせかけて笛を吹いたりしている。そういうのもアリな時代だったんですよね。おそらく、後の時代になって厳しくなっていったんだと思う。こういう所作や姿勢にも、平安のゆるやかな生き方が表れているなと思います」

メイクでまろ眉や白塗りを採用しなかったのは、現代のわたしたちが見たときにそちらに気を取られることなく、キャラクターの感情に心を寄せていけるようにという意図だと説明されていた。セリフの現代口語っぽいところも同じ理由。ただし、敬語にはこだわったそう。

「当時は親兄弟の間であっても位が違えば敬語を使うのが当たり前の身分社会だったので、“語尾になにげなく敬語を美しく使ってくる人たち”という表現は大事にしました。見ていて気持ちがいいたおやかな感じは失わないようにしているつもりです」

清少納言と紫式部はいがみ合わない

清少納言と紫式部のところは、このトークショーのハイライト。史実では、清少納言が紫式部の夫・藤原宣孝を服装のことでこき下ろし、紫式部が日記で清少納言をディスり返すというリモートなケンカが有名で(※実際に対面したことはなかった説が有力)、いがみ合っているようなイメージを持たれがちな二人だけど、本作ではそれよりも、賢くて生きづらい女性二人の共感模様を描きたいということだった。

「まず、これだけ女性の文学が花開いた時代を歴史として持っている国は少ないと思います。そんな珍しい時代、二大巨頭である二人がもしも生身で出会ったら感じ合うものは絶対あるだろうと思いました。漢字やかなが分からない他の女性とは通じ合えなくても二人の間なら分かり合えるものがあるはず。“仲がいい”とは違うんだけれど、相手に刺激を受けたり、『いやそれは違う』と思ったりするところを描くことで、それぞれの個性を際立たせたいという思いがあります。もちろん紫式部に清少納言の影響があるところも見せたいですね。そこから『枕草子』から『源氏物語』へ、文学が次々に生まれる流れにつながっていきます」と、この話題でこの日最も能弁になる内田さん。

ウイカさんに向かって「本当に重要キャラクターだから。最重要キャラクター」と冗談めかして言ってみたり。

それに応えてウイカさんも「絶対影響を受けてるから、式部は。っていうのは思いますよね。じゃないと、紫式部日記であんなぼろくそに言われるはずがないから」と、清少納言に魂を半分乗っ取られたような言いざまだった。

大河ドラマ館の等身大パネルはこのツーショット

内田さんはさらに「紫式部、あんまり女友達がいなかったんじゃないかなと思うんですよ。その中で、やっぱりドラマで言えばききょうに対しては、少なくとも友情に似た気持ち、思いやるような気持ち、尊敬の気持ちみたいなものを絶対に持っていたと思うので」と。

ウイカさんもこの“共感説”にうなずいて「まひろとききょうは、いろんな世界を見てみたいっていう好奇心の強いところが一番の共通項だと思います。当時、本当はバリキャリ志向の女子っていっぱいいて、でも思うようにできない抑圧があったと思う。これだけ学んで知っていることがたくさんあるのに、なぜ活かす機会がないのっていう憤りは二人とも持ち合わせているはず。“もしも二人が出会ったら”のなかでそこは結構、軸になりそう」というようなことを語っていた。

ドロドロ路線ではなく健やか楽しいライバル路線にいってくれそうで、ドラマの今後がより楽しみになってくる。

定子様最高らしい

ききょうが定子(高畑充希)、まひろが彰子(見上愛)に仕えるようになる宮中の模様も今後描かれるそうで、内田さんの口から「定子(本作では「さだこ」読み)」の名前が出るや、ウイカさんの声のトーンが上がった。

「素晴らしいです。定子さま、ほぉんとに素晴らしいから! 見てほしい! 本当に早く。もう、最高なんだもん」と秒で沸騰する。

「枕草子」は徐々に力を失っていく主家、主人を明るくしたい一心であれだけ華やかにキラキラに、ちょっぴり自慢たらしく書かれたものだとわたしは思っているので(というか“わたしのお仕えしてきた定子さまの素晴らしさをお前ら全員知りなさいそしてまぶしさにひれ伏すがいい立場がどうなろうが定子さまの素晴らしさは変わらない誰にも文句は言わせない”とばかり、軽妙なタッチでありながら実は魂を込めに込めて書かれたものだと思っているので)解釈がますます一致したようでうれしかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?