#2 母の不倫

2015年、小学6年生の冬のこと。
夜中、母のスマホがなんとなく気になって手に取った。そこに来ていた通知。私が知らないおじさんからのLINEだった(母はケータイにロックをかけていなかった)。不倫相手は当時母が学生課の職員として働いていた大学病院の、ある科の教授(名前を検索したら顔写真まで出てきてショックだった)。妻子持ち。その人はいまもそこで勤務している。

「毎日抱いてほしい。でも我慢。」
「明日わたしをどっちから攻める?前と後ろの両方からお願いします。」
「旦那さんとのこと、○○が安心するように、○○と一緒に暮らせるように、はっきりと仕切り直していきます。○○はもう結婚を約束した人だから。○○を心底から愛している身体を触らせないようにします。」

同年の秋頃から母は毎週日曜日になるとゴルフに行くと言って出かけた。何も知らない私は、帰ってきた母に、ゴルフ上手になった?なんて呑気に感想を聞いたりしていた。
しかし不倫相手の存在に気づいてからは、若干小学6年生ながら、そういう行為をするためにゴルフではなくただ遊びに行っているんだということを理解した。

母には私より、父より大事な人がいて、その人と再婚しようとしている。家を崩壊させようとしている。
そう思ったとき、私は母との接し方を見失った。
物心ついたころから暴力を振るって怒るような母だったが、不倫をするような人間に私を叱る資格はない!と思い、怒られることを拒絶し始めた(それまでは恐怖から泣いて従順に行動していた)。
一方で、母の不倫に気づいたことを悟られないように、日常の会話はいつも通りに、何事もなかったかのように、進めた。

不倫の話題を自ら口に出して他人に相談することはできるはずもなく、ひたすらに抱え込んだ。
特に私は、この事実が父に見つかってしまうことを恐れた。だって、既に何度も離婚の話が出ている中で、こんな決定的な理由が出てきたら、確実に離婚してしまうと思ったからだ。小学生の私は、離婚は恐ろしいもので家庭を壊すものだと強く思っていた。

唯一、一度だけ、母方の祖母に相談した。写真も見せて、本当なんだよ、と言ったが全く取り合ってもらえず、そんなことあるわけないじゃない!私の娘だもの!と言われた。
母に、父が気づく前にその関係を終わらせてもらいたいという一心だったからこそ祖母を相談相手に選んだのに。人生に終わりを感じた。

母の不倫で私が直接的に最も悲しかった瞬間は、小学6年生のときの卒業式だ。母は、前日か当日の朝か分からないが、行為のせいで疲れ果て、私の卒業式中に爆睡していた。別に学校を卒業することに特別思い入れはなかったし、どうでも良い式だったのだが、友達のご両親が素敵に着飾ってピシッとされている姿との差に絶望した。

「不倫」文字通り、人の守るべき道ではない、倫理に反している、という意味。

2021/8/25

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