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問)空間上の任意の2直線について、それが同一平面上にある確率を求めよ。 基本的に僕達は皆、いつもねじれていて、交わることはない。 だからこの状態にはなんの不思議もないのだ。 僕は寝返りをうち、ベッドの右手にある窓のほうへ向き直る。冷たい空気とトレードオフの遠くまで見える視界。5階の高さでもすぐ前に川があるので展望は開けている。川の先に見える下町のほうへ手を伸ばし、その先に聳える電波塔を親指と人差し指でつまむように挟む。奥行きのない世界なら。僕の指先に塔の先端がチクリとした痛
高台沿いに延びる道は両側に商店などが立ち並び、此れと言って目を遣るべき風景も見当たらないが、省線の切り通しを跨ぐ橋を渡る時には線路方向へ視界が開け、丹沢からその奥の富士までも一望できる。冬風が帝都の澱んだ空気を海へ押し流し、雑然とした街並みにくっきりとした輪郭を与えてそれなりの絵に仕立て上げている。 橋の名の通り、暫時富士見物を楽しんで居ると、足元を列車が通り抜けて行く。その音に怯えたのか、欄干で弛緩し切っていた三毛が機敏に飛び降りて駆け去ってしまった。瞬く間に金物屋の軒下に
国境線の上をなぞる尾根歩きは見晴らしも良く足は軽快に進んだが、飾り気のない頂上で尾根道は尽き、私は少々の逡巡の末、左のほうの下りの道を選んだ。しばらく歩くと灌木が周囲に現れ始め、そうかと思ううちに道は深い森へ入った。 もう5日ほど人を見ていなかったので、急に視界が開けて下方に村落が見えた時は、幻ではないかと疑うほどだった。 今夜はまともな寝床にありつけるかもしれないと、小川沿いの道を歩を早めて下る。水汲みだろうか、頭に木桶を載せた少女を追い越す。と、違う。追い抜きざまに振り返
そんじゃま、そーゆーことで、っつって出てったのが俺の中学の時の同級生と思われる男。思われる、いうんはつまり確証がないからであって、あいつがホンマに吉田くんやったんかを俺はまだ疑ってる。 でももうミッションは始まってて、俺は失踪したあっくんを捜さんとあかんことになった。とはいえ中学以来会ってもいない過去の同級生を捜すなんて探偵でもない俺には手立てすらない話で、だいたいホンマに失踪したんかっていうんも怪しい。 「この県に来てるはずやから」と吉田くん(よっしん)を名乗る男は言ってた
暇なので南インド風カレーでも作りながら、神の不在について考えてみましょうか。 まず中華鍋を用意します。“爆”って感じの鉄の本格的なやつは「結局そんな火力、ウチにはないやん」ということで使わぬまま錆びつき、この前捨ててしまったので、形だけが中華鍋型のテフロン加工なんちゃって中華鍋です。 いわゆる「神の死」について、利用機会がなく錆びついて捨てられた、つまり有用性が失われたから神はいなくなった、という考え方はあるのでしょうか。でも、有用性故に存在していたとしたら、それは共同体で共
ザリガニ獲りのシゲのところに神が来訪しました。村に神が来たのは4年ぶりです。シゲが言うには、いつものヤッチ沢に向かう途中のフブノのあたりで、突然茂みから姿を現したそうです。 何度聞いても、神の姿についてのシゲの描写は要領を得ません。聞くたびに違うことを言っているのですが、そう指摘するとシゲは「俺は一貫して同じことを言ってる」とムキになります。ツノやキバがあったりなかったり、人型だったり獣のようだったり、形があったりオーラの塊だったり、聞いてるほうからすれば矛盾だらけで、わたし
慣れてくれば月灯りだけでも十分に歩いていける。それに今日は満月だ。僕が持っているなかで一番頑丈な靴を履いてきたし、ずっと歩いても暑すぎないくらいの重ね着、頭にはタータンチェックのハンチング、完璧だ。 立ち止まって空を見上げる。あの子も月を見ているだろうから月にはあの子の顔が映っていて、あの子が見上げている月には僕の顔が映っているのだ。だから怖くないし、不安なんて何一つない。 僕は背中のリュックを後ろ手に触って、その中でガチャガチャと鳴っている瓶たちを大人しくさせようとする。丈
旧国境を越えて海岸線沿いに北上し、目指す場所がやっと見えてきた。 レンガ造りの倉庫は形を保ったまま斜めに突き刺さるようにして、地面を分厚く覆う灰の中に半ば沈んでいる。間口は幅5m強、奥行きの長さは全貌が見えないので分からないが、沈まず見えている部分だけでも20m以上はある。 三角屋根も正面側の壁だけにある小さな窓も破損している様子はなく、サンドクルーザーを停めた僕とシオネは思わず歓声を上げる。 底面だけ広く円形に延ばした靴、通称・砂蜘蛛に履き替えて、灰に埋もれてしまわないよう
オーケー、私が案内しましょう。と紳士は抑揚のない声で言って、その後になって決まり事を思い出したかのように笑顔を見せる。 「ふつうは」 紳士は速過ぎも遅すぎもしない絶妙な速度でわたしの前を歩きながら話し始める。 「自分の迷宮にはご自身で到達されるのですがね」 嫌味っぽさは全くない。端的に疑問に感じている、という声だ。 こっちこそ疑問だらけなのだが。 丘の上に見える街は、全体が城壁に囲まれている。月明かりだけでは暗くてよく見えないが、長辺が1㎞もないくらいの小さな街のようだ。芝
コードナンバーなどはなく、ただ名前を聞かれる。そして「お前が予約したのはどの商品か」という質問をされる。それは予約を受けた側で管理する情報ではないのかと面食らうが、価格表を見せられて「どの程度の値段だったか思い出せ」と促され、まぁこれだろうというものを選ぶ。 一年の最後の日、古都の料亭でかくのごとく入手したおせちはずしりと重かった。3〜4人前の2段重とのことだが、密度を感じる重量感だ。 宿に備え付けの冷蔵庫にピタリとしまうことができるサイズだったのが気持ち良い。一安心して再び