品質問題は経営問題

 皆さま、大変ご無沙汰しておりました。バルたんです。
 三日坊主と言われても仕方のない放置ぶりでしたが、ようやく本業のバタバタが少し落ち着いてきたのと、最近のいろいろな報道に思うところがあっての更新です。

 タイトルを見て、察しのよい皆さまはあの会社のことかなと思ったのではないでしょうか。そして、多くの方が「そんなの当たり前じゃん」と思ったのではないかと思います。本当に思っていた通りの当たり前なのか、このエントリーを読んだ後にコメントを頂けるとありがたいです。

 さて、少し古いですがこちらのNHKの報道によれば、三菱電機の外部調査報告書では不正の可能性がある情報が延べ2,000件余りに上っているとのこと。これを多いと思うか少ないと思うかはいろんな立場の意見があって然るべきかとおもいますが、まぁいろんな製品でやっていたんだろう、と想像できるだけの件数だとは思います。
 これに対して、「なぜ経営陣が不正が横行していることを見抜けなかったのか?」という論調の記事が多いように思いますが、天下の三菱電機ともあろう会社が本当にそんなにお粗末なのか、というとそんなはずはないだろうと思うわけです。
 ましてや何十年も続けられていたということは、当時の担当者やそれに近い従業員の中から経営幹部になった人がいてもおかしくないわけで、公然の秘密だったのではないかと想像するわけです。
 また「どうして横行する不正を止められなかったのか?」という指摘も多いように思います。一部の個人の手抜きや私利私欲で行われた不正なら担当者を罰すれば止めることができるかもしれませんが、これはどうやらそう簡単な話ではなさそうです。

 そう考えたきっかけは、以下の記事です。(有料会員限定で申し訳ありません)

「不正もやむなし」の裏事情 三菱電機長崎製作所の厳しい現実

「製品さえ良ければ」三菱電機の検査不正で見えてきた現場の論理

 上の記事には、こんな記述があります。


「家庭用エアコンの試験室を設置する場合でも5000万円は必要だが、鉄道車両の空調装置の試験室にはその10倍以上、5億円を超える費用がかかってもおかしくない。だから、金のない長崎製作所は試験室が足りないのに増やせない」(関係者)という。

 ここ書かれているような、試験設備増設のように事業に必要な投資をできない状況が本当なら、そもそもそんな不採算事業を存続させていること自体、経営として正しいのでしょうか。

 一般的な不採算の改善方法としては、

・きちんと必要な投資やコストを賄えるような収益構造の見直しや値上げ交渉
・コストダウンにつながる品質測定の新しい方法を顧客と合意(いわゆるVAVE提案)

といった方法があるかと思います(いずれも茨の道だとは思いますが)。
 値上げ交渉がどれだけ行われたかを外から窺い知ることはできませんが、検査方法の見直し提案に関しては先程の二つ目の記事にこうした記述があります。

『 振動試験〔表2の(7)〕は、振動を加える時間を短縮し、負荷を小さくして、形式検査ながら作業の面倒さを軽減したようだ。(中略)「一部の顧客に対しては『この試験方法でよい』と了承をもらっていた。しかし、大半の顧客に対して説明していなかった」(福嶋氏)。検査方法の変更についてきちんと説明すれば、合意を得られる例、とも捉えられる。』

 品質検査手法の見直し提案を一部ではしていたようです。それが全ての顧客に受け入れられる前に標準手順として実施され、結果として顧客との契約不履行になってしまった経緯まではわかりませんでしたが、もしかしたら「すぐに顧客を納得させられる」とぃう根拠のない自信に基づく楽観的見通しだったのでしょうか。

 いずれにしても、今回の数十年に渡る検査不正の問題は、一担当者の私利私欲に痰を発したというより、事業収支のお化粧をするための苦渋の決断だったようです。
 あれ? 事業収益を実態以上に見せかけようとして、複数の事業が不正を行なっていた大企業、数年前にも聞いたことがありますね。
 そうです。東芝の不正会計問題と同じ構造の臭いがしませんか?
 東芝のときは、対象が量産品だったこともあって今回のような技術的な不正ではなく会計的な不正でしたが、根底にある「この事業が存続できるように事業収益が十分あることを示したい」という願いは通ずるものがあるのではないでしょうか。
 本来、低収益事業からの撤退は経営者がすべき判断です。自ら責任を伴う決断をせず、できるはずのない収益改善を現場に押し付ける。
 そして現場側は、日本企業の強みである「現場起点の原価低減」だけではどうしようもなくなった時点で、サービス残業や手抜きによる「コストの見えない化」に手を染め、いずれは契約不履行や会計不正などの大きな問題に堕ちていく。
 これが対戦中であれば、不退転の決意を現場に押し付ければ遠からず玉砕という目に見える結果に結びついたわけですが、不幸なことにビジネスの世界では全滅はなかなか起こらない。投資という補給を断たれゾンビ化した事業が一つできれば、病魔のように他の事業にもゾンビ化が伝染していく。その結果が2,000件の内部告発につながったのではないでしょうか。

 東芝の場合は、虎の子の医療機器や半導体メモリを含む複数の事業の売却や精算をするなど痛みを伴う変革で再建の途上にありますが、さて、三菱電機はどのような決着があるのでしょうか。
 新経営陣は、きちんと事業再編をするでしょうか。不採算事業は別に売却や精算するだけでなく、他の企業から買ってきて規模を拡大することで収益を改善することもできますが、その決断はできるでしょうか。
 ワーストケースとしては、支えようとした重工や商事などを巻き込んだ解体ですが、これまでの経緯を考えると、ゾンビ化が顕現した事業だけを外科手術するだけで抜本的な改革はしないのではないでしょうか。
 そしてまた体力が衰えたときに本体内に残されたゾンビウィルスが再び活性化する……。
 映画なら、続編も期待しましょう、と言えるんですけどね。

# あっ。仮説を導出してなかった。



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