どうしてHEMSは流行らないのだろう

 こんにちは。バルたんです。

 前回の初投稿からもう3ヶ月もたってしまいました。仕事よりコロナ対策でバタバタしていた感じではあるのですが、あくまで言い訳です。

 さて、HEMS(Home Energy Management System)なんて、2回目のエントリーにしていきなりDXの王道ではない話題で申し訳ないです。


1. そもそもHEMSってなに?

 個人的に、生産現場のDX → オフィスのDX(RPAに限らず)とくれば、その次には「家庭のDX」が来ると信じているので、色々と仕込んでいるのですが、この分野は肌感覚ではまだまだビッグウェーブはどれかと水平線近くに目を凝らしている段階です。 家庭の何をデジタル化するかという視点で見ると、最近ではスマートスピーカーとIRリモコンが流行りです。でも、

 「アレクサ テレビをつけて」

って、どのぐらいの家庭で当たり前の光景になっているのでしょう?
 興味本位で買って試してみたものの、しばらくすると飽きてしまった人が多いのではないでしょうか。
 リアルな日本で執事とかメイドとかお手伝いさんとか書生とかは、ほぼ絶滅して久しいわけで、
「誰かに命じる」というのはなんか馴染まない、というのが個人的な印象です。
それでも、デジタル化したらみんなガンガン命令するようになるのかもしれませんが、自分の中ではピンときていません。
(そもそも、本当に優秀な執事やメイドは先回りしてタスクを実行してしまうので命ずる必要すらないはずですが)

 その少し前には、ホームIoTという流行もありました。
 火付け役のNESTは、家庭の生活スタイルを学習して全館冷暖房を効率的に制御するサーモスタットで、電気代やガス代を20%ほど節約できるという触れ込みで人気になりました。その後Googleに買収されてしばらく名前を聞きませんでしたが、このところgoogleがスマートスピーカーなどの製品をNest ブランドに統一したり、パナソニックに移籍した松岡さんがいらした会社としてまた脚光を集めています。

 今回のテーマのHEMS(Home Energy Management System)もその頃にもてはやされた技術です。
 といっても、HEMS自体が家のエネルギー使用を最適制御してくれるというわけではなく、「マネジメントシステム」を名乗っていますが家庭内で使用している電気の使用量や機器の稼働状況をモニター画面などで「見える化」するだけで、Nestのように制御する機能はないです。
 見える化すれば、生活者が自ら賢くエネルギー利用を管理できるでしょ、という発想ですね。

 Echonet Liteといった家電とHEMSとをつなぐ通信プロトコルも開発されて対応する家電も少しずつ増えてはいるものの、残念ながら2020年になる今でも普及していません。

 で、HEMSがどうしてダメだったか、という話はこちらに詳しく分析されていますが、Pー11を見ると、

 「HEMSはホームネットワークでも No.1のダメアプリ」
 「20年ほどかけて実用にならないことを証明してきた」

って、ひどい言われようです。

 ですが、ここに書かれているように「見える化」しただけでは一般消費者は簡単には動かないですし、
 そもそも需要抑制(=我慢)だけではユーザーメリットが薄いというのは確かでしょう。


2.「見える化」だけでビジネスになるか?

 なにかを始める第一歩として「現状の把握」が大事なのは、多くの方が認識していることと思います。 
 すでに2500年前には、「敵を知り己を知れば百戦するといえど危うからず( 「孫子」謀攻篇)」と現状把握の重要性が説かれています。

 改善の第一歩は現状の把握から。
 そのために必要なのは「見える化」「定量化」。
 課題を明確に定義し、それがどのぐらいのインパクトなのかを定量的に測定し、インパクトの大きさと取り組みやすさから優先順位をつけて潰していく。
 わざわざ説明するまでもないですね。

 ですが、仕事では多くの人が受け入れているこの考え方も、家庭生活の話になると途端に少数派になってしまうようです。

 みなさん、家でも生活のあり方の改善にきちんと取り組んでいますか?
 
 もちろん生活習慣病対策ではなく、生活の効率化・質の向上のための改善です。
 ライフハックという切り口でいろんな提案がされていますが、仕事で疲れているので、家のことまで考えたくない! という方も多いのではないでしょうか(自分がものぐさだと宣言しました;汗)。
 まぁ、毎日の生活習慣ってよっぽど一念発起しないと変えられない、というのは「慣性の法則」として有名ですから(違)。

 HEMSでできる「見える化」って、あくまで「電力がこう使われていますよ」というのが分かるだけで、節電するためには自分からアクションを起こさないと何も変わらないんです。

 しかも、上記の総括でも書かれているように、HEMS機器は高価です。
 月々1万円程度の電気代を10%削減するのに、10万円ぐらいする機器を買いますか? 
 元を取るまで100ヶ月=8年以上 待てますか?

 というわけで、「見える化」できるからお金を払ってね、あとは自分で頑張ってね、というのはハードルが高いです。

 ビジネスの世界でも、既に解決策が分かっているムダのあぶり出し(例えば、手作業で転記している作業をRPAで自動化!)や、コンサルタントによる改善提案に向けた作業として使われる以外の「現状の見える化」ってなかなか効果につながっていないのではないでしょうか。


3.HEMSに復権の気配?

 というわけで、2010年代前半に注目を集めたHEMSも、2016年には上記の総括のように完全に失敗扱いされていたのですが、ここにきて復活の兆しがあります。
 試しにHEMSでググってみてください。2016年以前の古い記事に混じって、2019年のページがちらほらと出てくると思います。

 どうしてHEMSが復権しつつあるのかといえば、ここにきて、HEMSを取り巻く環境が少しずつ変わってきているからです。
 具体的には、上記の総括でも将来の発展のための施策として挙げられていた「創エネ」と「蓄エネ」です。

 創エネの変化は、FIT(固定価格買取制度)制度を卒業する家庭が出はじめたことです。
 FIT対象の間はPVで発電した電力は国が高値で買い取ってくれたので、どんどん発電してどんどん売ればどんどん儲かる時代でした。しかし、FITを卒業するとPVで発電した電気を売るよりも自家消費した方が儲かるようになるので、どのタイミングで発電するか、電力を使用するかをしっかり考えなければならなくなったのです。
 同時に、「蓄エネ」に必要な家庭用蓄電池の価格も昔と比べれば安くなりました。特にこの春から日本でも発売されるTeslaのPowerwall2は、その圧倒的な低価格で注目です(アメリカの家庭で節電というと必ずでてくるプール用ポンプが試算の前提なのはご愛嬌)。
「蓄エネ」コストが下がったことで、これまではPVで発電された電力をそのタイミングで消費しなければならなかったのが、自分が好きなタイミングで利用できるようになったというのは、ユーザーの自由度が増えてエネマネに取り組みやすくなったのではないでしょうか。
 今の発電量がこれだけ余っているから今のうちに洗濯乾燥機を使おう、とか、今日は蓄電池の残量が少ないから早寝しよう、とか、悩む人たちにはHEMSで見える化できるというのは、一定の価値はあると思います。
 しかも買電量というわかりやすいスコアもあるので、ゲーム感覚で節電をしていくことも現実的になりました。

「目指せ! ZEH(*1)」とかいって1ヶ月の買電量がすべてゼロ以下(売電した)を達成したら豪華商品! とかやったらそれなりに盛り上がるかもしれませんね。


*1 ZEH(ゼッチ)とはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。家のエネルギー収支をゼロ以下にする住まいのこと。


4.真のマネジメントシステムになるために

 いくら盛り上がりそうとはいえ、そこで人間が思い悩んでいるようだと、結果としては人件費の方が高くついてしまいますし、豪華商品のようなニンジンがなくなった瞬間にどんどんと利用者が減っていくことになるでしょう。
 マネジメントシステムと名乗るからには、利用者は意識しないでも勝手にうまく取り計らって欲しいですよね。
 そのためには、単なる見える化だけではなく、アクションと結びついていないといけません。

 例えば、その家庭の電力使用パターンを予測して、PVで発電した電気の蓄電と売電のバランスを動的に見直すとか、電力が余りそうな日に勝手に洗濯をしてくれるとか、勝手に電動アシスト自転車の充電をしてくれるとか、そこまで辿り着ければHEMSにももっと価値が出るかもしれません。
 あるいは、今のような壁掛けのタブレットのような製品ではなく、機器をつなぐゲートウェイと家族が見られるスマホアプリになれば、もっと安価になって普及するかもしれません。

 そのためには、電力需要の予測モデルの高度化が必須なわけですが、ビッグデータを使いたくても、残念ながら家庭の電力利用データはプライバシーに関わる内容ですし、そもそも電力会社以外には収集できないデータだし、スマートメーター のデータは電気事業法で目的外利用が禁じられているのでプロファイリングとかできないし、ということで八方塞がりな感じもあります。

 電力会社が中心となって活動しているLLPの Grid Data Bank Labでは、この辺りの制度改正の議論もしているようですので、期待したいところです。

 うーん。まだまだビッグウェーブの気配はないですね…。


 最後に。
 個人的には、ZEHチャレンジの景品はEV及び充電器にして、EV充電も含めてネット・ゼロ・エネルギーを達成するハードモード突入! というのが面白いと思うのですが、いかがでしょう。
 2周目を諦めてもEVが手に入るというのは魅力的だと思います
 そうなると、EV充電器を時間貸しして金額的な収支をバランスしようとする動きが出てくるでしょうから、結果としてEVの普及につながることを期待したいですね。

ということで

 仮説: 景表法を改正しないとHEMSは普及しない。

かなりこじつけではありますが、取引額をゼロ円にするための懸賞なんて誰も想定してないですよね。

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