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補聴器がハウリングしやすい理由

クラシック音楽のマスタリングしていた時のこと、ディレクターが

「さっきから、ピーっていう高い音が聞こえるよね?」

……そう、それは、補聴器がハウリングを起こしている音。

コンサートホールでは、開演前のアナウンスで「補聴器がしっかりと装着されているか、今一度お確かめください」などと注意喚起していたりしますが、この “しっかりと” の定義は人それぞれ。つまりは「隙間なく装着してください」ということなのですが、量産品ではどうしても隙間ができてしまいます。ましてや、「オーケストラのコンサートが、ハウリングを起こしやすい環境」であることなど、知るよしもありません。

ハウリングを簡単な図で説明すると、こんな感じ。マイクロフォンで拾った音がスピーカーから出て、その音を再びマイクロフォンが拾う……このループが、ハウリングとなります。

仕組み

補聴器はマイクロフォンとスピーカーが極めて近い位置にあるので、もともとハウリングしやすい機器なのです。耳と密着していれば、このループをいくぶん遮断できるのですが、隙間があるとどうしてもループしやすくなります。

さらに、“オーケストラのコンサート” という環境が、ハウリングを起こしやすくしているのです。その原因は、演奏のダイナミクス(音量差)にあります。耳を澄まして聞くような pp(ピアニシモ)から、金管楽器が高らかに鳴り響く ff(フォルテシモ)まで、相当な音量差があります。

しかしながら、もともと “会話” の補助をする補聴器は音楽用に設計されておらず(音楽等に対応した高性能なものもあります)、会話も音楽も同じ「音」として捉えてしまいます。

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補聴器は、ff から pp になった時、

「あれ? おかしいな……急に声が小さくなった。音量をあげなくては」

と “きこえ” の音量を自動調整するのです。そして、ハウリング。

つまり、pp の静かな場面に限って、ハウリングを起こしやすいわけです。


ヒアリング・ループ(磁気誘導ループ)

この問題を解決できる技術は、実はすでに存在しています。

客席最後列にマイクロフォンを置いても良好な集音は期待できませんから、補聴器にも同じことが言えます。であれば、オーケストラに近い位置にマイクロフォンを設置して、その音を補聴器に届ければよいわけです。

ただ、これだけスマートフォンが普及しているわけですから、Bluetooth 技術などを用いた新たな共通規格ができあがれば良いなあとも思います。



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