出港、再び。
船が、目を覚ました。
だから、私も、目を覚ました。
たぶん、そうなのだ。
というのも、私は少しでも音がすると眠っていられない性分だから。
写真が教えてくれたところによれば、翌朝私は4時40分頃には起きていた。まだ、“朝”なんて呼ぶのは躊躇してしまいそうな、真っ暗な時分のことだ。
早起きは、苦手なはずなのに。
その後、いつ船が動き出したのか、憶えていない。
船は、元気な叫び声はあげずに、そっと港を後にした。
それだけは、憶えている。
きっと、まだ早いからなのだろう、私はそう思った。
勝手にそう理由づけた私は、船のことがまたちょっと好きになった。
種子島が、だんだん、遠くなっていく。
屋久島が、だんだん、近づいてくる。
5時3分。
さよなら・・・またね・・・
種子島・・・地図で見たきりだ。どんな島だったのだろう? 明かりでごく一部が照らされてはいたけれど、真っ暗で、よくわからなかった。帰りには、見られるかしらん?
暗闇の中、船は着実に進んでいた。
そのうち、朝の支度が始まった。
5時17分58秒。
だんだん、雲が、水面が、うっすらと見え始めた・・・
早朝に起こしてくれた船に、私は感謝した。
5時28分27秒。
夜は、明け始めるとあっという間だった。
あるいは、私が夢中になっていたために、そう感じたのかもしれない。
いつしか、種子島も姿を現わし始めた。
私は、その平坦さに驚き、なぜだかこの島に親愛の情を覚えた。
ある意味、フラットデザイン・・・。
ひょっとしたら、種子島はまだ、まどろみの中にあるのかもしれなかった。
そのうちむくっと起き出して、眠い目をこすりつつ、やあ、おはよう、なんて言う可能性もあった。お日様がやってくるまではもうしばらく寝て居よう、という算段かもしれない。私が屋久島を確認すべく船の進行方向に向き直ったとたん、寝返りを打つかもしれなかった。
もしくは、横になって朝のストレッチをしているのかもしれない・・・
私は決定的瞬間を見逃すまいと、何かの間違いで一部だけ太めに描かれてしまった水平線のようなそれを、暫くじっと見ていた。
島は、微動だにしなかった。
ひょっとしたら、大遅刻をして気が動転して動けなくなってしまったのかもしれない。シマった。人間に、眠っている姿を見られてシマった。まだ暗いうちに身支度を整えて、次第に明るくなる照明の中でしゃんとしている約束なのに・・・寝坊なんて、したことなかったのに・・・。お日様に、何て言おう?
あるいは、今日ばっかりはどうにもこうにも体が言うことをきかなくて、起きようと思っても起きられなくなってしまったのかもしれない。種子島だって、種子島であることに疲れてしまう時もあるだろう。ここはひとつ、勇気を出して休むしかない。
もしくは、何か辛いことがあって凹んでいるとか? 元々凸だったから、凹まではいかずに、あんなふうに平らになっているのかもしれない。これからもっと辛いことがあったら、いよいよ凹んでしまうかもしれない・・・。
私の妄想を知ってか知らずか、海の上に悠々と横たわった種子島は、いつまでも平べったいまま我々を見送ってくれた。