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出港。

一体、いつどのようにしてはいびすかすが動き出したのか、もう憶えていない。ただ、その咆哮にビックリしたことだけは憶えている。なにかこう、背中を押されるような感じだった。けれども、それが具体的にどんな声だったのかというところまでは、サッパリ思い出せないのだ。とにかく、その声は、突然私の心の中に飛び込んできて、暫くそこで踊り続けた。

はいびすかすの咆哮や動き出す瞬間について、克明に書き記すことができないのは、とても残念だ。大好きなものについては、事細かにしかもたくさん書きたくなってしまうものなのに。
けれども、私は嘘を書くことはできないし、そんなに記憶が持続しない。旅日記は、とうの昔に捨ててしまった。今は、写真だけが頼り。だから、仕方がないのだ。記憶が書き換わることもあるから、はからずも嘘を書いてしまっていることもあるかもしれないけれど、それはそれ。

そうだ、いつか、この実体験を基に架空の物語を創ろう。元々作り話なら、特に問題は無かろう。とはいえ、また別の難しさに直面するのかもしれないけれど・・・。ひとまずは、この話を書き切ろう。

閑話休題。

兎にも角にも、2016年9月9日の暗くなりつつある頃、赤と白の小さな灯台の間を通り抜け、我々は沖へと出て行こうとしていた。停泊中には遥か遠くに見えていた左右の灯台が、だんだん近づいてくる。

まずは、赤の灯台に別れを告げた。

18時12分。

続いて、白。

実は、両者は、ちょっとずれた場所にあった。これは、私にとっては小さな大発見だった。遠くから見ている時分には、同じ場所で向かい合っているかのように見えていたのに。
こちらも18時12分。細かい話は抜きにすることにして、秒までは書かないでいるけれど、細かい話をするならば、先ほどの写真の8秒後だ。

だいたい真横に来たのが、18時14分29秒。

そして、30秒も経たないうちに、こんなに離れてしまった。

かくして、廃車寸前の愛車と私は鹿児島の港を出、はいびすかすに揺られながら屋久島を目指し進んで行くこととなった。
桜島が、そっと見守っていた。