【ダンジョン潜り】 (2-4) ~編成会議~
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日が沈み、山影と空が溶けあいはじめても、このリインの町はすぐには眠らない。
まだ店じまいをしない市場の店主たちは、商売はこれからとばかりに新しい品物を運び入れている。
野営のようにかがり火が焚かれ、人々の赤い顔が闇の中にゆらゆらと浮いていた。
私はといえば、月と夜風に追われるようにして宵の憩いを目ざし歩いていた。
ランプに照らされた「樫の盾」の看板が徐々に見えてくる。酒だ。
酒場の入り口を入るとき、武装した数名の男女が城壁のかたわらで衛兵と話しているのが見えた。旅の身支度から察するに、先ほど町についたダンジョン潜りの一行だろうか。
ドアをくぐると、酒場はすでに賑わいを見せていた。ビールと干し肉をもらい、手近のテーブルでさっそく神々の叡智の味を確かめる。
店の中を見渡すと、今日はダンジョン潜りたちがいつもより少なく見えた。仲間をほしがっている者も、勝利の分け前を喜びに変える者もいないようだ。
2杯目のビールを飲み終えた時、ガイオがドアを入ってきた。
親父から酒を受け取った彼に私が声をかけると、彼はにこにこと笑いながらこちらにやって来て座った。
「塩梅はどうだ? 町には多少慣れたか?」
「今日は剣を鍛えてもらったよ。」
私は短剣を彼に見せた。
「魔法鍛冶のじいさんか! 俺も果たして何回通ったか、もはやわからないくらいだ。魔法鍛冶で鍛え、魔物の血を吸い、魔法鍛冶で鍛え、血を吸う...。その繰り返しだ。」
ガイオがそう言って自分の剣の柄をこちらへ向けた。
そこにはエスの神殿文字で「+37」と刻まれていた。
「前はもっと鍛えられたやつを持ってたんだ。だが悲しいかな、うかつにも魔物にはじき飛ばされ、飛んでいったそいつは馬鹿でかい腐食スライムの体内にめり込んだ。なんとか救い出そうとしたが、時間がかかり過ぎた。皆でスライムを焼き殺したときには見る影もないクズの塊になっていたよ。」
ガイオは芝居がかった口調で悲劇を語ったが、その表情は愉快そうだった。子供の頃の何気ない思い出を語るような様子だ。
「ところで、そちらの首尾は?」
私はガイオに尋ねた。次のダンジョン潜りのための、仲間探しの件だ。
「うまくいかんな。」
「見つからないのか?」
「うん。ここから南下したセレッパ港に近いところで新たなダンジョンが口を開けたというので、かなりの人数がこぞって移動している。むしろ俺もそちらに行きたいくらいだがな。」
「リドレイはあのダンジョンの謎を解くまで動きたがらないだろうね」
「そうだ。一人でも潜ると言い出しかねんからな。とりあえずは罠や仕掛けを解く必要があるから盗賊を一人、というところだ。当てはあったのだがそいつもセレッパに行ってしまった。付き合いのあるナガの戦士と、吟遊詩人もだ。まあ、新しいやつらも町に来ているようだからもう少し当たってみるしかないな。」
私たちはさらに酒と肉をもらい、飲み続けた。夜は更けゆく。
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金くれ