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お守りみたいな思い出

うわー、行きたいな、でも金土日全部予定あって、日曜は行こうと思えば行けるかもしれないけれどブンさんいないからな、月曜のサークルを遅刻していけば行けそうかな、なんて考えていた。

そんな月曜2限で、ふと大学掲示板を見ていたら、休講情報が追加されていた。7月下旬のドイツ語の授業がドイツ人の先生が帰国するという理由で休校になるのは知っていたけれど、追加されたもう一つは何だろう。見るとなんとその日の3限の授業だった。ウソ!!じゃあ展示行けるじゃん!2限が終わり次第意気揚々と教室を出て、蔵前駅に向かった。

蔵前駅A5出口から徒歩1分とあったから、道に迷うことは無いと思っていた。案の定駅からほぼ直線だったし、すぐにたどり着けた。あ、ここだ、と思った瞬間、外のベンチに座っていたブンさんが顔を上げた。ドキッとした私は思わずそのまま通り過ぎてしまった(うそでしょ!)(好きな人と目が合った瞬間逸らしてしまうアレみたいじゃん)。どうしようどうしようと考えながらぐるっと1周して駅の方まで戻って立ち止まった。ここまで電車賃かけて来たんだから行こうよ、という自分と、通り過ぎたのを見られたであろうから戻るのが恥ずかしい、という自分がいた。それでも記憶の中の友達が、前に私が行きたかったカフェの前で「入るの緊張する~!」って言った時に「せっかく来たんだから早く入ってよ!」と言っていたのを思い出して、そうだ、このままじゃ私は素敵な出会いを逃してしまうだろう、いや確実に逃すと思ったから、呼吸を整えてまた会場に向かった。駅まで戻ったものの改札を通る気にはならなかったから、もう答えは出ていたのかもしれないね。

そんな私を、ブンさんは久しぶりに会った友人かのように迎え入れてくれた。彼女の声が書店に響いていて、心地よかった。こんなにも明るい人だと思わなくて、声を聞いた瞬間、わ...!と感動した。明るくてクリアな、私が大好きなタイプの声だ、と思った。もし1回通り過ぎてしまったことを指摘されたら恥ずかしすぎてうぅ...ってなると分かっていたから、リスク回避のために自分から喋った。彼女はニコニコしながら聞いてくれた。何百回も数えきれないほど言ったであろう展示の説明(奥が展示でこっちが物販だよー、写真でも何でも撮っていいからね!)を、まるで私のために生み出した言葉かのように言ってくれた。

展示も全て素敵だった。私は本当に言語化が苦手で、加えて本もあまり読まない(読みたい気持ちはあるんだけど...)から、自分の気持ちを適当に表せる言葉が見つからないことが多い。でもブンさんの作品は、感情や情景、質感が分かるほど「ぴったり」な表現で溢れていて、心に沁みこんだ。うわぁ~~~大好きだ、って思った。

ステッカーやキーホルダーを買って外に出ると、ブンさんとそのお友達がいた。何か言わなきゃ!と思った私は咄嗟に「展示すごく素敵でした...!」という誰でも言えそうな感想を言ってしまった。ありがとう~と言ってくれた彼女に、今日授業が急に無くなったお陰で来れたんです、と伝えると、やっぱ持ってるねと言ってくれた。ピースタッチした。嬉しかった。

何がどう、と言い表せないほどウキウキワクワクした私は、学校まで戻る道中ずっと笑顔だった。何故かよく分からないけれど、自撮りしたい気分になった。実際私のビジュは普段と何も変わらないから結局撮らなかったけど、思わず自分の顔を写真に収めたくなるほど自分を好きになれた気がした。いつもはセブンで麺類を買うと決めている月曜日だけれど、せっかくだしお昼何にしようかなって考えるほど普段とは違う気分だった。お昼は大学の最寄にあるうどん屋さんに行った。

展示に行けたこと、ブンさんに会えたことが本当にうれしくてうれしくて、これから先しんどいことがあってもブンさんがいるから大丈夫だって思えるんだろうな、という未来を勝手に見ていた。


買ったステッカーをスマホの裏に入れるだけで、なぜか自信が湧いてきた。

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