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泥酔の男 【エッセイ】

土曜日、始発の電車に乗るため、自転車で駅に向かっていた。
近くまで来ると、パトカーが二台停まっています。
タクシーもあって、一人の男が警察官に囲まれて、尋問を受けている。
その男は、顔を少し赤られながら、叫んでいます。
「離せ、ボケ!」
「ボケとか言わない。落ち着きましょう」
タクシーの乗客だったことは明らかですが、無銭乗車や暴力などの犯罪ではなく、運転手は泥酔状態でどうなるかわからない男の身を心配して警察に連絡したのか。
警察官は、穏やかに対応しています。

鞄の中から見つけたものを男に見せつけた。
「これは何ですか?」
「嫁さんと子供の写真。お守りにしてるんや!」
「そんな家族に迷惑かけるようなことをしていいんですか?」
男は、一瞬、黙り込んだ。

世の中に、家族の写真をお守りとして、鞄に入れて持ち歩いている人は何人いるのだろうか?
この男は、普段は家族思いの優しいお父さんかも知れない。ただ、酒癖が悪い。何か嫌なことがあったのだろうか。
酒でも飲まないと、やるせないことでもあるのだろうか。

そんな光景を見ながら、僕はストレスの溜まる会社へ向かうべく、階段を降りて行った。


(終)

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