チワワのリコの物語
~プロローグ
ボクは気がついたら、産みのママから離れてペットショップのゲージにいた。
毎日沢山の人が覗きこむ。
なんだか不思議だったな。
不安で落ち着かない毎日だったな。
ペットショップは大阪のミナミの黒門市場の入り口にあった。
隣りのゲージには黒いロングヘアーの大きな仔犬がいたよ。
ボクもそいつもその時はまだ名前なんかなかった。
同んなじ♂だった。
こいつとは、その後何年も経ってから運命みたいな再会をして一生の内で犬同士では一番仲良くなるんだ。
お互いに匂いを覚えていたから…ね。
(ねぇ、ジョン?)
ペットショップは近くのトリミングスクールに通う10代の女の子達がバイトしていて、とりわけ1人の女の子がボクを優しく優しく可愛がってくれた。
ボクがチワワにしては細くて華奢で弱々しかったからかな?
いつもボクを見ていてくれてた。
そして9月のある日、
パパが店にやって来た。
チワワの♂を探しに来てた。
ボクともう一頭フォーンのチワワがいた。
パパはじっとボクを見つめてきたからずっとキャンキャン吠えてたよ、ボクは。
なんか吠えちゃったんだ。
1分もかからない内にパパはボクを選んだよ。
たぶん、あんまり考えない人だからだね…パパは。
「明日夜に引き取りに来ます。」
と言ってその時にすぐにパパはお金を払った。
いつも可愛がってくれてるバイトの女の子が複雑な表情でパパを見ていたよ。
そしてその夜彼女は帰る時にボクを愛おしそうに撫でてくれたよ。
これが、ボクが天国へ行く日までずっと一緒にいて、ボクが大好きなパパと出会えた日の話。
覚えてる?
パパ?
……
…
オレはその頃、Eという女と共に暮らしていた。
Eがチワワが欲しいと言い、クリスマスの日に♀でスムースとロングコートのハーフのクリーム色のチワワのタラッポを連れて帰り飼い始めた。
タラッポはすごく甘えたで、いつもオレが帰るとオレにカラダをくっつけてないとダメな犬だった。
寝る時はオレの胸の上で寝てた。
オレ達が出かける時に大きな声で鳴き続けて困ったりした。段々と慣れて鳴かなくなり始めたけれど、やはり淋しいのではとEと相談してもう一頭飼おうという話になった。
オレはその頃、夜の仕事をしていた。
悪い遊びを…Eには止めたと言いながら止めれずにいた。いや、止めるつもりなんかなかった。
Eはまだその頃は、その遊びを全く知らなかったし、どんな性質のモノかとか理解できていなかった。
少しだけの幸せな安らぎと無駄で危険な時間を織り交ぜるように生きていた気がする。
オレは2重にも3重にもいくつもの面を持ってた。
そして、オレとずっと長く生活することになるリコと出会う。
ある日、訪れたペットショップ。
一目見て、真っ白とレッドのパーティーカラーのリコを選んだ。
白い天使だった。
チワワにしてはちょっと足が長くてね。
細めに見えた。
でもキャンキャン吠えて元気だった。
最初目が合うと犬ってみんな小首を傾げるよね。不思議そうに。
ま、諸説あるらしいけどね。
すぐに店で金を払い、その日は仕事で遅くなるから、次の日に迎えに来るって店の人に伝えた。
リコの隣りのゲージが気になった。
大きめの黒い仔犬。
5万だかの安い値札がついてた。
シェルティとスパニエルのハーフだって書いてた。牧羊犬と麻薬探知犬にも使われる犬種のハーフだから、とても賢い犬になるだろう。見た目も艶っぽい少し巻いた毛並みはとても気を引いた。
手に入れたいとよぎった。
でも3頭は…マンションだし。
けど、たぶんこの時のこの子犬が
ずっと後に毎日のように散歩で会うことになるジョンだったんだと思う。
…
次の日にリコを引き取りに行った。
タラッポの時は生後6ケ月だったから
そこそこ大きかったけど、
リコは3ケ月くらいだったから小さかった。
でもリコの方がオレに懐いてくれるのは早かった。タラッポがヤキモチ焼いてリコの邪魔ばかりしたけど。
タラリコなんて呼んで毎日の散歩が楽しくて仕方なかった。
けれどそんな2+2の生活はそんなに長くは続かなかった。
タラはね、違う幸せな場所に行った。
それは、タラが選んだから。
リコはね、オレを選んでくれた。
ずっとね。
そう、ずっとだった。
ポン中だったオレをギリギリでいつも守ってくれた天使は実家の裏庭で眠ってる。シロツメユリ草の白い花が咲く。クローバーの葉っぱが生えてる。
シロツメユリ草はリコの生まれ変わり。クローバーの葉っぱを食べるとリコの声が聞こえてくる気がする。
にゃんこです。猫が書いてます。 にゃんチュールたびたい