ドブス短編 ヒダ:ルマ
あれから、2か月が経った。
阿知波さんが僕の目の前で、僕の家を爆破したあの出来事から、もう2か月もの歳月が経ったのだ。
激しく燃え上がり、焼け焦げ、朽ちていった僕の家。
その中から、火だるまになった母は声亡き声を上げながら、二階の窓から飛び降りた。
堕ちた地面の元でバタバタとうめく母の姿は、なんだか滑稽だった。
そうやって、我が身に起きた惨事を微笑みながら眺めている自分自身の異常性に、自分でも驚き、ゾッとした。
自分自身の、そのナチュラルキラーっぷりに、底知れぬ恐怖と寒気を感じた。
まるで、自分が自分で無くなってしまう。
そんな、感覚に見舞われた。
その混乱は、今もなお続いている。
しかし、この場にいるのは、紛れもなく自分そのものであるし、これからもこれまでも変わらない。
そう思い込んでいたが、どうやら阿知波さんにとっては違ったみたいだ。
阿知波さんの言い分、
「お前の人生はお前が全て、だから俺の人生も俺が全てなんだ」
と、阿知波さんが片手に握っていた爆破スイッチを押す直前に放ったこの言葉を、僕はどうしても忘れることができない。
あの身体が吹き飛ぶ瞬間に魅せた、阿知波さんのあの笑顔。
あの素晴らしく愛おしい笑顔さえ拝めれば、この世のことなんかどうでもよくなる。
そのぐらい美しく、とてつもない魅力を持った顔。
そして、その笑顔に僕は未だ取り付かれている。
だからこそ、僕は母の死体を前にして、久しぶりに笑った。
笑うことで、阿知波さんを思い出すことができるのなら、
僕は、どんな時であろうと、笑う。
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