Support Your Fav Artists by Bandcamping! : Bandcampリリースで振り返る2010年代

やあ!先日Bandcampがこんな声明を出したね!猛威を振るう新型コロナウィルスによりあらゆる形でダメージを受けたアーティストに、手数料さえも還元する日を作ろう!という事で、日本時間3/20~16時頃から翌16時頃がその時間なんだ!さてじゃあこの機会にBandcampで…でも何を、誰の作品を買おう、とお悩みのあなた。ディケイドの変わり目の年に聴き漏らしていた2010年代の名盤もありかもしれないよ!

てなわけで2010〜18(19年は年間ベスト記事にBandcampが見つかったものは全てリンクを添えてあるよ!)年のオススメBandcampリリースをどうぞ!


2010

Amanda Palmer Performs The Popular Hits Of Radiohead On Her Magical Ukulele
・内容はタイトルがそのまま示している。女声シンガーがウクレレでレディオヘッドをカバー。あまり調べず朧気な記憶だけで書いてしまうが、Bandcamp黎明期、本作から初めてBandcampに触れたというロックリスナーが多かった印象。この後数年に渡りロングセラーになり、Vaporwaveに馴染めないリスナーもBandcampに引き込んだ作品としてかなり重要作かもしれない。内容も良い。

Grimes - Geidi Primes
・今や”イーロン・マスクのパートナー”という認識から知る者も多くなった女声シンガー/SSWのデビュー作。最新作のようなバキバキのサウンドでこそ無いが、インスピレーション源に『ドゥーン/砂の惑星』を挙げていたりして、未来志向への鍵は最初から見せられてはいた。

SONAR LODGE - Sound Effects & Side Effects
・トリップ・ホップ的志向のユニット。凍り付くような低体温のバレアリック仕立てに結婚式の定番Boz Scaggs「We're All Alone」をカバーしているのが震える。

Peter Gabriel - Scratch My Back
言わずと知れた元Genesisのシンガー。同じ時代を生きた盟友と言えるDavid Bowieに始まりTalking HeadsにRadioheadにArcade Fireと後進にも目配せし、Randy Newmanが作りNina Simoneの名唱等で最早スタンダード化した「I Think It's Gonna Rain Today」等を静謐にしかし力強く歌う。

Francesco Tristano - Idiosynkrasia
・Carl Craigらの寵愛を受けテクノとクラシカルを繋ぐピアニスト。Bandcamp表記は2011年だが初出は2010年。”最も”というと、”それはあの作品では?”となりそうな候補が幾つか出てしまうが、まあかなりテクノ寄りの作品として解釈して問題あるまい。ポップに踊れるタイトル曲が良い。

Konono No. 1 - Assume Crash Position
・親指ピアノをアンプリファイすることで人気を得たコンゴのグループ。鮮やかなアフリカン・グルーヴで疾走する曲から情緒的なスローまで隙がない。

Integrity - The Blackest Curse
USのメタルコア・バンド。ハードコアの疾走感とメタルのリフやサウンドのバランスが絶妙で、現状知名度では大きく水を開けられているがMetallicaのファンにもリーチしそうなキャッチーさがある。

Sufjan Stevens - The Age of Adz
00年代中盤からUSインディ・ロックの顔役とさえ言えるほどプロップスを高めている男声SSW。個人的にはアルバム単位での最高傑作としては本作を推したい。最後の長尺曲「Impossible Soul」には筆舌に尽くしがたい感動がある。


2011

Derek Gripper - The Sound of Water
・ギター奏者は一聴の価値ありな様々な奏法を自由自在に使いこなす南アフリカのアコースティック・ギタリスト。タイトル通り水をテーマにした作品で、そのギター・プレイも水が跳ね回るように躍動的。

orchestra eclettica e sincretista - Voicemorphing
・イタリアのアーティストMarco Lucchiの旗振りで複数のアーティストが武満徹「声」(声楽曲では無くフルート独奏曲)を素材にしたトラックを持ち寄った作品。

Raheem DeVaughn - Freedom Fighter
・メジャー経験のあるビッグネームがFree Downloadなりname your priceなりでBandcampからリリースした初の例?もう少し調べないと何とも言えないが、少なくとも最初期という言葉で括るのは問題ないはずだ。謎にレベル(音量)が低いのがやっかいだが、メジャー作品と比べても全く遜色のない力強いソウル。

Thomas - Janela
・USインディ界隈でちょこちょことギタリストとして顔を出して活動していたThomasが自ら歌うソロ。Princeからの影響が非常に強い。部分的には殿下さえ凌ぐ狂気を覗かせる。近年活動が停滞気味なのが惜しい。

David Lynch - Crazy Clown Time
・映画監督としての世界観と同じようにダークでシュールな音が繰り広げられる。「Strange And Unproductive Thinking」は”生産性”なるものを人間の指標にする愚か者が蔓延る時代にカウンターとして響く。

Amon Tobin - ISAM
・ゲーム音楽などでも知られる、90年代からこの頃にかけては名門Ninja Tuneの看板の一人だったプロデューサー。10年代に幕が下りた今振り返っても、10年代にハードなビートを伴った電子的実験音楽としては本作がピークだったかもしれない。

Squeaky Lobster - Will-O'-The-Wisp
・サイケ・ロック/フォークをブロステップと結び付ける強引なやり口がなかなかどうして実に美味。筆者、久々に聴いてこんな良かったっけと謎に焦っている。

Temple Of Will - Sacred Blood
・Sunn O)))とThe Bodyの間というか。Sunn O)))よりは展開や装飾を加える事に躊躇いが無いがThe Bodyよりロングトーンが多用されかつ重要な意味合いを持つ。何にせよ暗黒轟音ギター音響。


2012

Jansport J - For Love.
・J Dilla『Donuts』後に雨後の筍な如く幾つも現れたビートテープの玉石混交な世界でこれは間違いなく”玉”側。甘いメロウネスにクラクラ。

Darryl Reeves - Mercury
・Herbie Hancockオマージュなジャケットの通りジャズ・ファンク。しかしもちろん時代に合わせアップデートは行われており、Chris Dave and The Drumhedzあたりの先取りとも聴こえる。

ADERLATING - wolven nacht
・ひたすら暴力的な暗黒インダストリアル・ノイズの洪水。Uboa、The Body等が好きなら聴かない手は無い。

V.A. - アキラ
・当然の如く大友克洋『AKIRA』トリビュートな作品。こんな状況になってしまった2020年に聴かない手は無いでしょう。

juche - juche
・かつての現代音楽としてのそれへのオマージュからエレクトロニカ、チップチューン風味と”電子音楽”という言葉の持つ範囲を包括してしまったような名盤。

Mute Speaker - Post Block
・カンボジアのビートメイカー。ネタ選びやビートのヨレ、ヴァイナルノイズを意図的に強調するような点はMadlibのようだが、そういった音像にEDM的なシンセを絡ませるのも厭わない姿勢が独特な音になっていて面白い。

Okadada - When The Night Falls
・tofubeats、seihoらと共に関西シーンの代表格として注目されたが、活動の殆どはDJでアルバムは未だ本作のみ。これを聴くにビートメイカーとしてのセンスも素晴らしく、もっと作ってくれないかと期待してしまう。

Randall Havas, Joel Taylor - Reflections on Shakuhachi and Piano
・尺八奏者とピアニストのデュオ。静謐、とか寂寞、なんて言葉が似合う。ECMファン、それから武満徹「雨の木素描 (Rain Tree Sketch)」が好きな人にも。

Goth-Trad - New Epoch
日本のダブステップ・プロデューサーと言えばこの人、Goth-Trad。2012年とダブステップという言葉がブロステップに飲み込まれていく(音楽的な良し悪しはともかく)時代にも我が道を征く姿勢がストイックかつハードな音にも現れている。


2013

JINBO the SuperFreak - Fantasy
・ディスコ/ブギー・リバイバルにいち早く反応した韓国の男声シンガー。そのムーヴメントは下火になりつつある今も色褪せない。

clipping. - midcity
・後に(更に後にはJPEGMAFIAやDos Monosを送り出す)Deathbomb Arcに所属するオルタナティヴなヒップホップ・ユニットの自主制作1st。

Ashley Thomas - Screambo
・The Style Council〜ソロ初期のPaul Wellerを思わせる爽やかメロウ。AOR/ヨットロック・リバイバルの中でまだ知名度の低い作品をディグってる向きにも意外な穴場かも。70年代The Isley Brothersのファンにも推薦。

Oval - Voa
・90年代にグリッチ手法を確立させ一斉を風靡したエレクトロニカ・プロデューサーは…申し訳ない、これも記憶だけで書くが、この前年に『Ringtones (=着信音) EP』シリーズでBandcampに参入していたが、フルアルバムを上げるのはこの年の本作と『Calidostópia!』が初めてだったはずだ。Ovalの愛好家には少なからずVaporwaveやその類が単なる退廃に見えていたのではと想像するが、そういったある種急進主義的な音楽ファンもBandcampを利用するようになるにあたってこの頃のOvalの動向が影響した部分は大きいのではないか。

Birkwin Jersey - Between The Weather and The Sea
・一人旅のお供に最適な内省的フォークトロニカ。

Chris Schlarb - Psychic Temple II
・Sufjan Stevens主宰レーベルAsthmatic Kitty Recordsからリリースされたアメリカーナ、ジャズ、R&B、プログレッシヴ・ロックを横断するギタリスト/ヴォーカリストの作品。

Colorlist - Sky Song
・スピリチュアル・ジャズをアンビエントやドローンといったエレクトロニックで無機質な音楽と結び付ける事でさらなるアセンションへと導く。名盤。

Machine Girl - WLFGRL
・井口昇『片腕マシンガール』にインスパイアされたアーティスト名義でブルータルなジュークとドラムンベースの融合を演出。Future Funkで鳴っていれば素直に可愛いんであろうKawaii系サンプルも暴力への演出になっている。


2014

FAME CULT - DO NOT MISS THE ACTION FAST DELIVERY OF QUALITY
スクエアなリズムマシンと80sなシンセベースの上に単線的な管弦が乗る。アレンジも技巧派でミックスは素晴らしく整理されており、バレアリックな快楽もある一方どこか冷めてて皮肉的。CorneliusとSterolabのファンに推薦

Moodymann - Moodymann
・デトロイトという土地を、ディープ・ハウスというジャンルを、共に代表するといえるDJ/プロデューサー。本作は単純なダンストラック集というよりロックやヒップホップにおける”アルバム”の感覚として纏められている。

Night Riders - Future Noir LP
・一見食い合わせの悪そうな80sエレポップの感覚とアフロビートのグルーヴを見事に繋ぎ合わせ、クールとファンクの両立を高いレベルで実現した。恐らくもう少なくともこのバンドとしては活動していない模様なのが残念でならない。

Amerigo Gazaway - Yasiin Gaye: The Departure
・Fela KutiとDe La Soulのマッシュアップ等で注目を集め、Bandcamp発のアーティストと呼んで良いだろうビートメイカーAmerigo Gazaway。個人的最高傑作はMarvin GayeとYasiin Bey (元Mos Def)のマッシュアップであるこれか。

Dreamcrusher - Suicide Deluxe
・音割ればかりで何が起こっているのかもよくわからないノイズの奔流。ドラッギーではあるのだがどういう方向なのかと言えば覚醒と言うよりサイケで、こんなにも攻撃的なのにどこかインナートリップにも向かっているような感覚が独特。

Last Japan - Ride With Us
・Massive Attackばりに冷えた質感を持ったグライム〜ダブステップ。多芸ぶりと要所要所でジャンルのマナーを守ってアイデンティティをわかりやすく保つバランス感覚が抜群。

Little Simz - E.D.G.E.
・今や世界のビッグネームにまでなったUKの女声ラッパー、フルアルバムサイズとしてはこれが初作。当時から既にスキルが高かった事も再確認できるし、Bill Evansネタでメランコリックに攻める「Stay」は最新作に無かった路線だがまたこんなトラックを披露して欲しいと思うほど素晴らしい。

Lowcommitee - Race At Neon Club
・ジャーマン・プロッグの実験精神に根ざしてそれを2014年流にアップデートした作品。今聴き直しても面白い所が多い。

Nnamdi Ogbonnaya - FECKIN WEIRDO: Nnamdi's spectral adventures through...
・今はNNAMDÏ名義で知名度を上げているラッパーの初期作。本作がジャンルも限らないBandcampディガーの目に止まって知名度を上げたという認識で良いだろうか。”ひねくれポップ”などという言葉があるが、今作を聴いた後だと少なくともJellyfishあたりには”ひねくれた”なんて形容を二度と出来なくなるだろう。3回転半どころでは済まぬ捻りに捻られたサウンドの渦。

observer.o - o
時折深いキックや変調された声が顔を出すものの、基本的にはアンビエントとすら呼んで良いパッドシンセや柔らかいメロディが中心。しかし、明らかに心を落ち着かせるというよりはむしろ掻き乱す、内向的で内省的な側面が強い作品。

OOBE - Digitalisea
・惜しくも新作リリースは無くなってしまった1080pからの、いわば”ポスト・Vaporwave”めいた電子音楽。何故かタイトルがJimi Hendrixな「Purple Haze」がすこぶる良い。

Unradiant - Unradiant
・エレクトロ・シューゲイザーを基調としつつアンビエントやドリーム・ポップと周縁もきっちり抑える。過去と未来を行き来するような展開。

Mélat & Jansport J - Move Me
・リリースのプラットフォームが変えられる際にリリース年も変われば名義もMélat単独に変わってしまったが、初出は2014年で最初の名義は女声シンガーMélatと2012年の項で触れたJansport Jの連名だった。とにかく冒頭のDiana Ross「You're Everything」ネタ「Everything」の神々しさにやられる。


2015

食品まつり a.k.a. FOODMAN - COULDWORK
・この日本のプロデューサーには未だにジューク/フットワークのという冠を付けられて語られることが多いが、この作品を聴けば5年前既にもう完全にカテゴライズ不能な存在になっていた事がわかるだろう。「浮世絵Vapor」はタイトル含めエポック。

K. Leimer - Fog Music 29
・アンビエントのカルト・ヒーローなベテランが”架空のサントラ”をテーマにしたレーベルAural Filmsのシリーズ企画に参加。文字通り霧に迷い込んで出れなくなるような世界。

Isis Giraldo (Chiquita Magic) - PADRE
・伝統と革新の融合、とはあまりにありきたりな言葉だが、それに文句なく見合う作品は滅多に無いし、だからこそ正しく成し遂げられた時の価値は大きい。本作は無論成し遂げている。Claus OgermanやGil Evansの昔から、Maria Schneiderを経て(おそらく)同世代の狭間美帆らまで中規模〜大規模ジャズ・アンサンブルのコントロールを学びに学んで至った表現力の境地。

Marc Cary - Rhodes Ahead Vol. 2
・10年代のキーワードの一つ、(Jazz The New Chapter的な)現代ジャズのキーボーディスト。デトロイト・テクノ好きにも推薦できる装いに着替えたHerbie Hancock『Head Hunters』というか。

Canvax - Condense
・DJユースとIDMの間を攻めるような作風は本作をリリースしているRecycled Plastics全般に多いアプローチではあるが、これはその代表例と言えよう。name your priceでも多くリリースしつつクオリティコントロールも高いRecycled Plastics最初の一枚として推薦。

CFCF -The Colours Of Life
・2015年といえば”ニューエイジ(・リバイバル)”という言葉をロックやヒップホップのリスナーさえ口にするようになってまだあまり時間が経っていない頃合いだが、その初期にして既に究極形とさえ言えるのが本作。

Daniel Crawford - Flip Wilson Vol. 1
・ジャズ・キーボーディストがミックステープと銘打ってリリースしたカバー集。David BowieやTears For Fearsをカバーしている。ジャズ畑がロックをカバーするならそもそもRobert Glasperは…いやいやそれ以前にBrad Mehldauが…といった声はあるだろうが、そんな事はわかっていつつもそのボウイ「Fame」カバーでNine Inch Nails「Closer」のビートがマッシュアップされたのは新鮮な驚きだった。

Dwn Cx - Nmrkd Paths
・Nine Inch Nails繋がりで…というわけでは無いが、NINファンも必聴、ロック的なノリも許容するインダストリアル・テクノ。

Kimiko Ishizaka - Bach: Well-Tempered Clavier; Book 1
・元重量挙げ選手という異色の経歴を持つ日系ドイツ人ピアニスト。”インディ・クラシカル”だとかと呼ばれるような領域や現代音楽以降、あるいは古楽や非西洋伝統音楽を主にしている奏者以外、いわば狭義のクラシカルな世界からはほぼ無視というか存在も認知されていなかったBandcampにこの人が登場ししかもヒットさせたのは大きい。クラウド・ファンディングもやっていたりするし、新しいネットのツールに対する好奇心があるのだろう。タイトルは「平均律クラヴィーア曲集」と日本で一般的な翻訳に変えればバッハに馴染みの薄い方もわかるはず。

Love Cult - Wonderland
・ミュータント・エレクトロやDeconstructed Clubと呼ばれるような類の音とDJツールなダンス・トラックの境目を妖しく蠢く。2018年以降に出ていればより評価は高くなったのではなかろうか。今こそ聴かれるべき。

Renjā - Kokoro
・ピンクのモヤがかかったジャケはどこかMy Bloody Valentine『Loveless』も想起させるが、サウンド的な類似はリヴァーブの深さ程度。しかし表現しているエモーションは近いものがある。"ポスト・Vaporwaveセカイ"に迷い込んだ少女の冒険譚。

Steve Roach - Invisible
・"Bandcamp参入以降”等の条件を付けずともこのアンビエントの大家の最高傑作は本作ではないか。荒涼としているのに美しい音。


2016

Wareika - The Magic Number
・モーリス・ラヴェル「ボレロ」をサンプリング(Carl Craig & Moritz Von Oswaldもやっていた)し、ミニマル・テクノの手法をコンセプチュアルなアルバムとしてまとめたコズミックな名作。

Psychic Temple - Plays Music For Airports
・2013年の部分で取り上げたChris Schlarbをリーダーに、MinutemenのMike Wattらが集まったバンド。タイトルの通りBrian Eno不朽の名作をスモーキーなジャム・バンド風にカバー。聴いてるだけでストーンできる。

salami rose joe louis - son of a sauce!
・今やBrainfeeder所属の女声SSW、デビュー作にして出世作。転がるエレピと儚げな自身の声を主役にベッドルームと宇宙を繋ぐ思春期白昼夢メロウ。

Noname - Telefone
・Donnie Trumpet (現Nico Segal) & The Social ExperimentにChance The Rapperと共に参加した事でも知られる女声ラッパー。時代の空気をふんだんに吸い込みつつも軽やかにメロウ。ラップのフロウもクセになる。

Nu Guinea - The Tony Allen Experiments
・タイトルの通りFela Kutiの右腕としてアフロビートを確立させたレジェンド・ドラマーTony Allenをサンプリングして再構築する試み。疾走するテクノからチルに向いたバレアリックな感触のものまで様々。

Menteur - Mobilize
・独特な録音によってリハーサルのようなラフさとライヴの熱気とが入り交じる異色のロック作品。実際にはかなり一発録りに近い形だと思うのだが、ロック名盤デラックス・エディションのデモだとかリハーサル音源だとかを編集してコラージュしたようにも聴こえる。

Jherek Bischoff and Amanda Palmer - Strung Out In Heaven: A Bowie String Quartet Tribute
・天才ストリングス・アレンジャーJherek Bischoffのアレンジした弦楽四重奏の上でAmanda Palmerが歌う。その楽曲は無論タイトルにもあるDavid Bowieの作品。ヴァイナルではB面にPrinceのカバーが収められていて、2016年とはなんと残酷な年だったのかと…

Kneebody + Daedelus - Kneedelus
ジャズバンドKneebodyとビートメイカーDaedelusの共演作。ビートメイカーとジャズバンドらしいリズムの実験を随所に配して、空気感はダークでエッジー、時々ユーモラス。それぞれの単独作で成し得なかった高みに到達していて、この編成が固定化されないかと望んだのだが…


2017

Nadah El Shazly - Ahwar
・エジプトとカナダを行き来し創作を続けるアーティスト。地元の伝統的な要素が西洋から安易に”呪術的だ”というような表現を逆手に取って、じゃあ呪いをかけてやろうじゃないか、とでもいうような振る舞いで迫る。ある意味エジプト版ミュータント・エレクトロ〜Deconstructed Clubなのかもしれない。

Brooklyn Youth Chorus - Black Mountain Song
・Caroline Shaw、The NationalのBryce Dessnerらが新曲を書き下ろした少年合唱団の作品。録音/ミックスにもまったくぬかりは無く音響作品としても素晴らしいクオリティになっており、「作家に興味はあるけどそれを少年合唱団って…」と二の足を踏んでいる向きがあらば今すぐ迷いを捨てて買う事推薦。

Mount Eerie - A Crow Looked At Me
・内省的なSSW作品だからといって、まず作家のプライベートから語り始める事は前時代的だとは思うが…思っていても、やはり無関係とは割り切れない。当時のパートナーと死別後に作られた本作は、どうしようもなく別離の悲しみに満ちている。単純にフォーキーなSSWと呼ぶにはギミックにもまた満ちているが、それはこの感情の発露を受け止めた先でしか見る事が叶わない。

The Breathing Effect - The Fisherman Abides
・"現代ジャズ全部盛りセット”みたいな贅沢デュオ。ヒップホップから影響を受けたドラムはもちろん、Kamasi Washingtonの激しいコード進行に更に激しくブロウする事で生まれるスピリチュアリティも、BBNGのようなロック的盛り上げ方も、そして「別に過去のジャズも否定してるわけじゃないっすよ〜」とばかりにテクニカルなソロも聴かせる。お見事

Kelly Lee Owens - Kelly Lee Owens
・”歌とエレクトロニクスの関係性についてJames Blake 1st以来の刷新だ!”と思ったのも束の間、2年後にBillie Eilishがヒットを飛ばしてその間が無かった事にされつつある感もあるが、まあ。これはこれで色褪せない魅力がある。

Kaitlyn Aurelia Smith - The Kid
・こういった事は言葉遊びの問題にも成りかねないのだけれど、本作に”ニューエイジ・リバイバル”といった形容は行うべきでは無いだろう。リバイバルで無く確実にシンセサイザーによる新しい表現の拡張が行われているのだから。

Bell Witch - Mirror Reaper
・80分超1トラックで綴るドゥーム・メタル版『神曲 地獄篇〜煉獄篇』の如し壮大な抒情詩。Mariusz Lewandowskiのアートワークも良い。

Visible Cloaks - Reassemblage
・Vaporwave、日本のニューエイジ〜Kankyo Ongaku再評価、チルアウト概念の変質、行き場を失った00年代エレクトロニカの実験結果…ある意味へたなポップスターより”時代の寵児”という言葉が相応しいかもしれないユニット。

tajima hal - FINE SELECTION
・日本人ビートメイカーの、派手な新奇性は無くとも堅実な作りで心地よいノスタルジアに浸れるメロウなビートテープ。

Xenia França - Xenia
・ブラジルの女声シンガー。トラディショナルなリズムパターンも節回しも、こともなげにモダンな装いで歌いこなしてしまうのだから、なんだか「世間で一番流行ってる音楽ってこんなのだっけ?」と錯覚してしまう。アフロフューチャリスティックなジャケの衣装と相まって、まるで違う世界線に飛んでしまったような…


2018

Rafiq Bhatia - Breaking English
・多様性を突き詰めた先のカオス。最早完全に既存のジャンル名ではカテゴライズ不可な領域に突入している。全人類が本作にきちんと耳を傾けるまでほんとうの意味での2020年代は訪れない。

Anna Wise with Jon Bap - geovariance
・Kendrick Lamarらヒップホップ・アーティストのバックを中心にキャリアを築きソロ作も出している女声シンガーと、”21世紀のCaptain Beefheart”と言っても過言では無いかもしれぬ”怪人”Jon Bapの連名作品。ジャケがSpotifyと異なるがこっちの方が生々しくいかがわしくて良い。

EQ Why & Traxman - WhyTrax
・様々なアプローチで領域を拡大するEQ Why、あくまでDJ目線でダンストラックにこだわるTraxman、ジューク/フットワークの両雄が邂逅した作品。

Jeremy Dutcher - Wolastoqiyik Lintuwakonawa
・バロックからファンクへ、ワーク・ソングからロック・オペラへ。凄まじき跳躍力を持つカナダ人はまだ20代。この先が楽しみな若手のひとり。

Jeff Rosenstock - POST-
・幾つものバンドを渡り歩いてきた男声シンガー/マルチ・インストゥルメンタリスト。パワーポップ〜エモな激情ギターを軸に、古臭くカビの生えた”漢の熱さ”のようなものを時代に逆らうのではなくきちんと向き合った上で鳴らすんだ、という気概に溢れており思わず涙。

Ras_G & The Afrikan Space Program - Stargate Music
・2019年惜しまれつつ早逝したビートメイカー。フィジカルを伴う作品としてはこれが遺作になってしまったが、ポジティヴに捉えるならなんと素敵な贈り物を遺してくれたことか。Sci-Fi趣味とアフリカン・アメリカンとしてのアフロ・フューチャリズムに抱く可能性、メロウなソウルのサンプリングとヨレたビートが渾然一体となった音の桃源郷。

Uniform & The Body - Mental Wounds Not Heal
・アメリカの暗黒バンド2大巨頭の共演。ガバっぽいキックが鳴るトラックなんかはタイトルに反して意外と快活にも聴こえたりする(少なくともUboaを聴いた後だと…)が、ゴシックでハードで体を苛むような音響は期待通りのもので、両者のファンはもちろん轟音ロックを好む全ての向きに推薦。

The Rubies - Sketch of Love
・その音響感覚において、Brian Enoや坂本龍一といった大家に匹敵しうる凄まじい逸材。音響感覚に優れたアーティストはある種科学的とも思えるドライなアプローチを取る事が多いのに比べ、本作は非常にエモーショナル。しかもそれは『Sketch Of Love』というアルバムタイトルが示すともすればユーフォリカルにも感じられるそれではなく、極めて内省的で感傷的なものだ。現状の認知に留まるのはあまりにもったいない。





あえて文体を色々変える、てのはもちろん意図的なんだけど、今回の冒頭は「これは違う気がする…」と思いながら書いてた。正直な所。
あと、真面目な話、「選考基準が見えないのが…」とか「2010年代とBandcampの振り返りで”あの”ジャンルやその周縁をほぼ無視だなんて!」という方もいらっしゃるかと思いますが、その辺は、正直ガチガチにコンセプトを決めそれを遵守し、という意識で作ったものでは無いですが、ある程度は意図的です。特に”あの”ジャンルに関しては色々な思いがあったり別でまとめを作りたい事もあって…

結構ギリギリでやってます。もしもっとこいつの文章が読みたいぞ、と思って頂けるなら是非ともサポートを…!評文/選曲・選盤等のお仕事依頼もお待ちしてます!