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Support Your Fav Artists by Bandcamping! 2: 2020年オススメ新譜レビュー集①

新型コロナウイルスCOVID-19の猛威に、音楽業界、ミュージシャン個々も多大なる打撃を受けた。否、受けている。
それに対しミュージシャン/レーベルへのサポートが最も手厚い販売プラットフォームと言っていいBandcampが、まず3月にこのような声明を出して(7月までの追記がなされているが当初の企画立ち上げに至ったプロセスの説明は残っている)米国時間(JST)3月20日限定で手数料分もアーティストに還元するキャンペーンを行うと発表した。
しかし、その後も新型コロナウイルスの影響による経済へのダメージ、特に音楽のようなアート/エンターテインメントの領域には浮上の手立ても見出し難い困難が引き続き立ちはだかる。そこでBandcampは5月、6月、7月にも同様のキャンペーンを行うことを決定。その旨は先程のリンクに記載されている。

そして迎えた8月。ウイルス蔓延当初はこの頃には収束しているだろうとの楽観論も見られていたが、無情な現実は未だ収束の目処も見せてはくれない。そんな中でBandcampは思い切って今年いっぱいの第一金曜日、キャンペーンを継続的に行うと発表した

継続的な実施が宣言されて初めて迎えるBandcamp Friday。インディペンデントなアーティストを支援したい、新型コロナ関連やの団体・基金に、あるいは#BlackLivesMatter等の社会運動の支援にもなれば、とお考えのコンシャスなリスナーの皆様のために、今年Bandcampでリリースされた作品の中から私が実際に購入したもののうち幾つかを紹介する。
最初3作はチャリティが明記されているもの。そこから下は8/6確認時点でアカウント持ち購入者のコレクションに収められている数が少ないものから順番に並べている。

ちなみに初回開催時、急遽で作ったため非常に雑なのだが、2010年代の年別リリースまとめも作っている。よろしければそちらもご参考に。
また、私のBandcampファンアカウントでも本記事で紹介している作品を上位に並べている。私自身も本日のBandcamp Fridayで新たに幾つかの作品を購入する予定で、購入次第それも反映されるので是非チェックして欲しい。

Mourning [A] BLKstar - These Hands Are Up

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このバンドは2015年結成で、“黒いスターを悼む”とのバンド名からそもそも2013年のトレイヴォン・マーティン氏殺害事件に端を発するBlackLivesMatter運動との関連があっただろう。それが運動発足から7年、バンド結成から5年を経ても同じ問題が繰り返されている事に憤りを禁じ得ない。本作も今年のジョージ・フロイド氏殺害事件を経て再び高まる警察への批判を受けて、反警官暴力団体へのチャリティ・シングルとなっている。

音楽的には、以前からの志向通りアフリカン・アメリカンを中心とした所謂”ブラック・ミュージック”と呼ばれる範囲を横断的に組み合わせたもの。
表題曲「These Hands Are Up」は公民権運動の時代にも歌われていたようなクラシックなソウルのメロディを、ヒップホップ以降のループ感とロック的などこか不穏さを持ったエッジーさによって現代的な音像に仕立て上げた楽曲。LaToya Kentの絶唱と呼ぶに相応しい鬼気迫るヴォーカルがとにかく素晴らしく、Billie HolidayやAretha Franklinといった過去に黒人の権利にまつわるメッセージや告発を歌ってきたアフリカン・アメリカン女性のレジェンドたちに全く引けを取らない仕上がりになっている。

もう1曲「Blk Water」も実にこのバンドらしく、Sun Raめいたスピリチュアル・ジャズの断片が90年代ヒップホップ的感覚でループされる中、管楽器がスウィング・ジャズ的なソロ回しを聴かせヴォーカルもクラシックなジャズ・ヴォーカル的スキャットを披露…とまさに”ブラック・ミュージック”を横断している。

Dirty Projectors - Isolation

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00年代から10年代前半、ニューヨークはブルックリンのインディロック・シーン隆盛において顔役のひとつとなったDave Longstreth中心のバンド。

ここしばらくはデイヴのソロプロジェクトとして活動していたが、このシングルの直後に出たEPから複数人の新ヴォーカリストを迎え1作ずつ1人の新ヴォーカルを顔見世していくような形でEPサイズの作品をリリースしている。しかしこのシングルはデイヴが完全に1人で制作。新型コロナウイルスCOVID-19のパンデミックを受けて設立された音楽業界支援団体へのチャリティシングルだ。

Isolation=孤立、とはいかにも各国が所謂”ロックダウン”を都市部に施したコロナ禍の最中らしいタイトルだが、この状況下で書き下ろされたものではなく、John LennonのThe Beatles解散後実質的な1stソロと見做される事も多い『Plastic Ono Band(邦題: ジョンの魂)』収録曲のカバーで、当然パンデミック下を想定して書かれた楽曲では無い。
 むしろ、オリジナルの収録アルバム全体における非常に私的で内省的で内向的なムードに反せず、ビートルのひとりとして名声を得たが、(その名声も背景に)パートナーのオノ・ヨーコと共に反戦運動に精を出すが、それでも孤独だと、孤立しているのだという当時のジョンの状況を如実に反映したものであって、平たく言う所の”普遍性”があるような歌詞とは縁遠い。にも関わらずどこか”今”の音楽として響くのは、ポップ・ミュージックというカルチャーの不安定であるからこその強みを上手く掬い上げているからなのではなかろうか。
歌の節回しにトラップ的なシャッフル感を加えたり、エレクトロニックなビートのBPMを伸び縮みさせたりとさり気なくもリズム的実験が随所で効いている。

V.A. - Music in Support of Black Mental Health

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文字通り、BlackLivesMatter運動が熱を帯びなければならないほどの環境に晒された黒人/有色人種のメンタルヘルスケアを目的とした諸団体へのチャリティとして企画されたコンピレーション。

所謂”ブラック・ミュージック”の典型的な…ソウル/R&B、ファンク、ヒップホップといった形を正面切って演ずるトラックは無く、そもそも参加アーティストは白人の方が多い。この点に疑問を感じる向きもあるかもしれない。ただ、企画者の意図もそうであると断ずる訳では無いが、私自身精神疾患を患っている経験からしても、メンタルヘルスの向上において自らの人種・国籍・血筋といった属性からあるべき形…自らの役割を定義し”こうであらねばならない”、”こうであるべきだ"という思考を取り除く事は非常に重要(主に認知行動療法の領域で語られ、日本においても職場や家庭内での位置づけの問題としてそういった”べき思考”を取り除く/軽減させる事が大切だと訴える書籍等は多い)なので、”黒人のサポート”という名目の中で"黒人音楽"という言葉に対するパブリック・イメージとは遠いスタイルが並んでいる事は、ことメンタルヘルスの文脈内においてはむしろ良い効果をもたらす可能性もあると私は考える。

広義のエレクトロニック系で様々なスタイルが並ぶ本作だが、その曲数/参加アーティスト数のバラエティのみならず質も非常に高いものが揃っている。
  冒頭を飾るPlanet Mu所属の新鋭Speaker Musicによるアジテーティヴなエレクトロニック・ジャズ「On Bloodthirst and Jungle Fever」、ジューク/フットワークの先進性を牽引するプロデューサーJlinが現代音楽作家/ピアニストMichael Vincent Wallerのトラックをリミックスした「Return from LA II」、Red Hot Chili Peppersに復帰したギタリストJohn Fruscianteが近年ソロ作の延長的エレクトロニック路線を継続させている「Lyng Shake」、Arca以降なミュータント・エレクトロの若手Antwoodがアンビエントからギラついたシンセへシームレスにサウンドを変貌させる「cycle6」、サウンド系の展覧会や芸術祭にも数多く顔を出しハイ・カルチャーとエレクトロニカを結びつけるAGF (Antye Greie-Ripatti)の「sehnsuchtsräume」、A Tribe Called Questも用いたMinnie Riperton「Inside My Love」をネタにした本作随一のポップさが光るSami Bahaのメロウ・トラップ「Other Me」等良曲多し。先鋭的電子音楽リスナー必聴。

Antslum Arizuka - Hoofed And Nude 裸体にひづめ

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日本の新進エレクトロニック・プロデューサー。

基本路線はBoards of Canada的というか、くぐもったサウンドが実験的でありつつもノスタルジアを描くような音。一方でBoCではまず聴けない、ローファイなサウンドの中にコーンと抜けた音を突然配置してアテンションを惹くような仕掛けが要所要所に施されていて、チルやストーンにも浸らせない。異形の音楽を前提としたさらに異形の音楽といった装いで、なかなか類例が思い当たらない独自性がある。

本編はどれもエレクトロニックとはいえダンス・ミュージックとは呼べないタイプの音だが、ボーナストラックだけは野心的なDJにどうにか回して欲しい壊れた2ステップ。全体がこんな路線の作風も聴いてみたい。

AHNAMUSICA - Aesthetic(lofi)

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昨年の私の年間ベストにも選んだ『STAR LIGHT』で”シティ・ポップmeetsローファイ・ヒップ・ホップ”を標榜して登場した男声シンガー/プロデューサーの2作目。

そのタイトルも示唆するように、本作は”シティ・ポップ”の部分(≒で歌唱)を取り払ってよりLo-fi Hip Hopに接近した作品。故に古典的な価値観で言う所の”作家性”や”個性”は減退しているのも確かだが、Lo-fi Hip Hopムーブメントの看板と言えるChilledcowのプレイリストが”リラックスの際に”、”勉強のBGMに”と積極的に聴き流しを推奨するタイトルを冠して人気を博している事を思えば、これは退化でありながらも進化だ。そんなむしろ匿名的である事こそ好ましいような形で広がっているLo-fi Hip Hopムーブメントも、それなりの累積を経てきてそろそろその中の作家性に注目が集まる可能性を迎えるのでは、と個人的には予想している。この予想が当たるならば、Lo-fiビートメイカーの中では希少な歌ものを、それも自らの歌唱で作ってきたキャリアを持つこのAHNAMUSICAの感性により注目が集まるのは間違いないだろう。

本作はアナログ盤化のクラウドファンディングも立ち上がっている。気に入ったならば是非そちらも応援して欲しい。

Okada Takuro - Passing

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元・森は生きているの中心メンバーで、ROTH BART BARON作品への全面参加等でも知られ、主にフォーク寄りインディ・ロック的な活動で認知されているSSW。

だが本作は以前からSoundcloud等でちらほらと見せていたサウンドアート路線でシネマティックなアンビエントという感触。と書くと、ある者はVangelisであったりある者はHans Zimmerであったりと、実際にハリウッドのビッグバジェットな映画音楽を手掛けた面々に近い音像を想像されるかもしれない。しかし本作は映画音楽作家の名前を出すならばアンドレイ・タルコフスキー作品で知られるEduard Artemyevや『愛の悪魔』等のような坂本龍一の前衛路線に近い。ハイ・アートな匂いも漂わせる一方で、雑然とした川辺を捉えた色あせた写真のようなジャケットが示す土着感やノスタルジアもあり、それが60年代実験音楽的シンセの発振と重なった瞬間に『惑星ソラリス』が浮かび上がる。25分の音によるショート・フィルム。

J. Lamotta すずめ - Brand New Choice

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イスラエル出身ベルリン拠点の女声シンガー/プロデューサー。突然飛び込んでくるひらがなにちょっとびっくりする名義だが日本人との血縁がある等ではなく、知人であるデザイナーYoshitaka Kawaidaから教わった言葉と雀にまつわる自身の体験から付けたのだそう。

一聴してわかるシンガーとしてのスキルの高さ、ヒップホップとシームレスになっている現行R&Bらしいループを基調としたスタイルでありながら所々に意表を付くコードの展開を交える作曲力の高さ。これだけでも合格点は余裕でクリア、といった所だけれども、このシンガー/プロデューサーの最も素晴らしい才能は、そんな歌にまつわる部分で高い能力を見せつけながらも、ともすればメロディアスな歌の邪魔になってしまうのではないか、というリズム的なトリックを躊躇せず大胆にサウンドの中に取り入れ、そしてメロディアスな歌ともきちんと同居させてみせるアレンジ能力にある。ポリリズムを内包してヨレる「Trust Me」のビート、金物のパターンと音色を細かく切り替えて幻惑する「Brand New Choice」は珠玉だ。

Sign Libra - Sea to Sea

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コンテンポラリーダンスの劇伴などを務めてきたラトビアのニューエイジ系プロデューサー、初のフルアルバムは月の海がコンセプトで、曲名は全て実際に月の海に付けられている名前およびそれに近い意味を持つ単語で置き換えたもので構成されている。アルバムタイトルとジャケットは”地球の海から月の海へ”という意味か?個人間取引(ネットオークション等)を指すCtoCとの関連も何か考えてしまうが、遊び心で絡めた程度か。

Vaporwaveの隆盛を前提に踏まえた印象の80sニューエイジ色が強いサウンド、という点においてVisible Cloaks辺りと共振する部分もあるが、ある種学究的なヴィジブル・クロークスと比べるとグッとポップかつユーモラス。しかしそれ故にか、時にYMOマニアのスタジオ音源完コピ、の如し懐古にすら映る80sサウンド完全再現、という様相も呈す部分に賛否が分かれそうだが、時に穏やかなアンビエント、時にキュートに弾むダンストラック、という豊かなレパートリーが高い作曲力で披露される様は十分に多くのリスナーに注目されて然るべき価値と魅力がある。

draag me - i am gambling with my life / mixtape II

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ロック・バンドThe Spirit of the Beehive(このバンド名はビクトル・エリセ監督映画『ミツバチのささやき』の英題と同一だ)のフロントマンZack Schwartzのソロ・プロジェクト。

バンド作品もrawな録音をそのまま提示するというより、エフェクトによる凝った音作り志向を見せていたり部分的にアンビエントを導入したりとこの名義での作品に通ずる部分はあったが、とはいえその情報から逆算するとそう思える程度のもの。オルタナティヴ・ロックやインディ・ロックという言葉の範疇に収まるバンドのメンバーによるソロ・プロジェクトとは思えないほどサンプリングやエレクトロニクスを駆使した先鋭的作品になっている。

オーヴァーグラウンドな領域ではTravis Scott「Sicko Mode」がよく知られ、カルト・スター的立ち位置からはJPEGMAFIAらが多用して近年のオルタナティヴな表現を志向するアーティストにとってひとつのトレンドとなっている手法、ビートスイッチ。これは文字通りひとつの曲の中で文脈を無視した唐突さを伴ってビートのパターンやBPM等を切り替える手法だが、それに加えてまたもトラヴィス・スコットが「Sicko Mode」収録アルバム『Astroworld』においてTame Impalaを招いている事にも象徴される、ヒップホップとロックの境目の融解。
 こういった近々のトレンドを、Vaporwaveであったりかつてとは少し形を変えて復権したスクリューであったりといった10年代を通じて発展してきたサンプリング・ミュージックへの深い造詣と本職ロック畑ならではの感覚を両輪にして、さらなる先鋭/前衛へと推し進めまた極端な分裂化と混沌の方向へと振っている。”脱構築”という言葉は音楽批評において既に陳腐化してしまい禁じ手でさえあるものかもしれないが、しかしそういった言葉をまた持ち出してしまいたくなるほどの大胆さがあり、2020年代という滑り出しから混沌が極まれりディケイドのカルト・スターとして君臨する事を期待してしまう存在だ。

この2作からなら『i am gambling with my life』をより推薦。『mixtape II』の方がトラップを軸としたヒップホップ的アプローチによる統一感がやや強く、一般的に”聴きやすい”と言われるのは『mixtape II』なのかもしれないが、それはあまりに混沌とした『i am gambling with my life』と比較しての話であって、『mixtape II』の方も特定のジャンルしか聴かないタイプのリスナーには到底勧められない壊れた混沌である。どちらも結局混沌ならばより壊れた作品から聴く方がむしろ掴みやすいだろう。

White Boy Scream - BAKUNAWA

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アカデミックな教育も受けてきたLA拠点の声楽家/作曲家Micaela Tobinによる本作はなんとDos MonosやJPEGMAFIAで先鋭的なヒップホップの印象が強いレーベルDeathbomb Arcからのリリース。
 では現代音楽meetsヒップホップといった内容なのかというとさにあらず。ポピュラー領域(というか非クラシカル文脈)の要素は何かと言えばノイズ、ゴシック、インダストリアル、プロッグ(特にゲストRhea FowlerのギターにはKing CrimsonのRobet Frippからの影響が色濃く感じられる)といった言葉が浮かぶ。

しかし、直接的な影響の有無を問わずに考えると、Bjork、ANOHNI、Arca、Uboaといった名前を並べた方が早いかもしれない…言わば、”情緒過多だ、トゥーマッチだ”といった指摘が批判として意味を成さないような作家の文脈だ。
 その作家性はなんと言っても冒頭にして18分の最長尺をぶつけているタイトル曲「Bakunawa」にある。ガサガサとしたノイズとループする語りがランダムに折り重なる冒頭から、ティピカルな声楽歌唱とティピカルな現代音楽的ピアノ(はティピカルな現代音楽録音とは異なる大胆なパンニングを施されてはいる)がひたすら悲痛な感情を描き出す。この時点でこの作家が先述のように”情緒過多だ”というのが批判としての意味を成さない作家なのが明白になる。感情表現において”バランス”というのをそもそも考えていない作家なのだと。
 その現代音楽的セクションがフッと途切れると、何なのかよくわからないメタルパーカッションが打ち鳴らされる。ほぼノイズとして耳に届く乱打が落ち着き一定のリズムを刻んだ所で、ヴォーカルは言ってみれば(Public Image Ltd.「Four Enclosed Walls」も思い出すような)20世紀におけるティピカルな”先住民族・未開の部族”の儀式というイメージを戯画的に演ずるような方向に出る。本作における声を聴く限り、そしてルックスを見る限り少なくとも肉体的には女性なのだろうと察せられるミカエラが、何故”白人少年が叫ぶ”という名義を取っているのかのヒントはここにあるのではないか。
 キリスト教における”三位一体”は一般に父・子・精霊とされるが、その”子”とはThe Son=息子であり、娘ではない。中世の西洋における魔女狩りは、実際には男性も数多く弾圧されていたにも関わらず、未だにそれはWitch=魔”女”の弾圧運動だったとして語り継がれている。クラシカル音楽の発展と切り離すことの出来ないキリスト教の歴史は、少なからず女性の排除の歴史としても紡がれていた。そこで同じようにキリスト教を国教とする国を中心とした西洋列強が排除し蔑んできた”未開の部族”のイメージを”女”が演ずる事、それは”魔女”となる事にほかならない。本作の随所で聴ける叫びは名義になっているWhite BoyのScreamでは無い。The Son=White Boyに排除されてきた者達の悲痛な叫びだ。それゆえWhite Boy=The Sonが恐れ、叫ぶのだ。
 簡単には受け止められない重さに満ちた作品だが、だからこそ持ち得る力にもまた満ち満ちている。

Erik Hall - Music for 18 Musicians (Steve Reich)

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言わずと知れたミニマル・ミュージックの大家Steve Reichの代表曲を、シカゴ拠点で15年以上のレコーディング・キャリアを持つマルチ・インストゥルメンタリストがひとり多重録音で演奏した作品。

昨今の先端的なトレンドとスティーヴ・ライヒの交差点を考えると、所謂”ニューエイジ”の再評価/リバイバルがまず頭を過る。本作のリリース元であるレーベルWestern VinylをKaitlyn Aurelia Smithや蓮沼執太の作品で把握していれば尚更の事だろう。だがWestern Vinylはそういったニューエイジ・リバイバルと交差する作品の一方で、Bonnie ‘Prince’ Billy等の土臭さを伴ったフォークやロックのアーティストも手掛けている。

その点からすると本作はErik HallのキャリアのみならずWestern Vinylも積み上げてきたレーベルカラーの集大成として並々ならぬ思いを持って送り出した作品かもしれない。ニューエイジに影響を与えた透明感の強い本来の編成での演奏を、数種類のクランチ・サウンドによるエレクトリック・ギター、クラシックなドラム・マシンのハイハット、朴訥としたオルガン、といったロック的な歪みやくすみを絶妙なバランスで加え独自色に染め上げた作品だからだ。

そうして10年代を通じたニューエイジ・リバイバルとインディなフォークやロックの積み上げを感じさせる一方で、本作はまた新たな可能性の提示にも成功している。ライヒのフレーズを歪んだギターで演奏する事により特定のリスナーにとっては必然的に思い起こされるもの。それは昨今再評価されているニューエイジ作品が花開いた時代の裏側で、ヒッピー世代が行き着いたもうひとつのアナザー・サイド、通称”ディシプリン・クリムゾン”こと再結成King Crimsonだ。その連想は昨今忘れられつつあるミニマル・ミュージックに潜んだ鋭角性を再び炙り出し、近年の解釈とは異なる新しい道を照らし出す。いずれ本作はポピュラー領域からのミニマル・ミュージックの解釈の転換点としてマイルストーンとして振り返られる事になろう。

Tidiane Thiam - Siftorde

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セネガル北部を拠点とするアコースティック・ギタリスト。隣国マリの伝統弦楽器コラのレジェンド的奏者Toumani Diabateへのトリビュート曲も。

野外録音で環境音もそのまま収録しているだけあり、フィールドレコーディング作品を好む向きにも推薦出来るアンビエント的な牧歌性が基調にありつつも、アフリカ音楽にミニマル・ミュージックの源流を求めるリスナーも満足させるヒプノティックな反復や、ともすればフロア向けリミックスさえ作れそうな豊かなグルーヴ感を弾ませるプレイ等、要所要所に様々な表現が顔を出す。そしてそれらどのスタイルも実に板に付いた形で演奏する技術力の高さも魅力。

世界各地の伝統音楽を採集したNonesuchの名企画Exploler Seriesのファンは必聴だろう。中でも屈指の人気盤『ジンバブエ:ショナ族のムビラ』を好むなら、地域も楽器も違えど本作もまた必聴だ。トラディショナルなアフリカ音楽の豊穣さを味わえる音源として最新の録音と言える。名盤。

Sufjan Stevens, Lowell Brams - Aporia

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21世紀に入ってからのUSインディロック・シーンで1,2を争う才人、Sufjan Stevensが継父のLowell Bramsと共演した作品。2009年のローウェル単独作『Music for Insomnia』においてもスフィアンは全面バックアップしていたが、連名としての作品は本作が初。

今日本の音楽ファンに話題の、気鋭ライター門脇綱生による『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』にもし続編が出るのなら本作は少なくとも収録の候補には上がるだろう。時にIasosのような煌めきを放ち、時に冨田勲のようなSci-Fi的宇宙感が聴き手を魅惑幻惑する素晴らしいニューエイジ作品だ。

スフィアンが絡んだ宇宙的表現と言えばThe NationalのBryce DessnerおよびNico MuhlyにJames McAlisterという面々と連名で発表した『Planetarium』を思い出す向きもあろう。本作は『Planetarium』ほどに壮大な世界観を緻密に構築している訳では無いが、作曲における方向性の類似からすると『Planetarium』が気に入ったなら本作も必聴。逆に、良い意味でこじんまりとした文字通り家内工業的な質感は、『Planetarium』の方向性には関心を示せてもどうにも大仰過ぎると感じられた者も振り向かせるかもしれない。


結構ギリギリでやってます。もしもっとこいつの文章が読みたいぞ、と思って頂けるなら是非ともサポートを…!評文/選曲・選盤等のお仕事依頼もお待ちしてます!