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サインシステムについて

はじめまして!Noteを始めてみました。
この記事ではサインシステムについて綴ります。

サインシステムって?

サインシステムとは、「鉄道駅や商業施設などの公共施設等に設置される案内標識」(Wikipedia)のことです。ここでは方向指示や標識などを広くサインシステムと呼びます。
私はサインシステムの機能美に魅せられて、興味を持ってきました。サインシステムは、大きく言えばデザインによって人間に情報をもたらし、認知を助けるものです。デザインの力が発揮されているモノといえるでしょう。もう少し個人的なことを言えば、自分は方向音痴なのでしばしばサインシステムに助けられます。その点でもサインシステムのことが好きです。
この記事では、サインシステムの魅力の一端を伝えることを目指し、広く浅くサインシステムを見ていきます。

良いサインシステムとは?

自分ごときが「良いサインシステム」を語るのは少し気が引けますが、自分なりの評価ポイントは以下の3つです。

  • 視認性が高い(遠くからでも見え、また幅広い視力の人が視認できる)

  • 一意性がある(歩きながら/自動車等に乗りながらでも進むべき方向を迷わず理解できる)

  • 十分な情報がある(サインシステムに従ってさえいれば、目的を達成できる)

ここでは「オシャレさ」といった項目は含めていませんが、商業施設のサインシステムでは施設の内装にマッチしたデザインにしているところもあり、サインも含めて施設のブランディングに貢献しています。ただし、視認性や一意性とトレードオフにならないように注意する必要がありそうです。(特に、サインシステムは「目立つべきもの」であるので、過度な調和は見逃される危険があるでしょう。)
また、サインシステムの看板自体のデザインは勿論、配置する場所にも配慮が必要です。例えば、交差点に差しかかる前に進むべき道がわかるとノンストップで進めます。逆に、人が滞留しやすい場所に看板があると、さらなる滞留を生みかねません。予算の問題もあり無限に看板を設置できるわけでもありませんから、必要十分な箇所に配置するための工夫が重要となります。

サインシステムとデザインの原則

デザイン四原則(近接・整列・反復・コントラスト)はデザインの基本のキといえますが、サインシステムも(反復はありませんが)この原則に則っています。

  • 近接...サインシステムで特に重要となる点です。表示面の幅が取りにくいなどの理由からか、情報のグルーピングがうまくいっていないケースも見られます。これは非常に残念なことで、方向指示の一意性を妨げてしまっています。

  • 整列...勿論、整列も当然のごとく取り入れられています。ただし、左寄せにするか右寄せにするかは状況によります。基本は左揃えですが、例えば矢印や駅のプラットフォームの番号が右にくる場合は、それに合わせて右寄せになることもあります。

  • コントラスト...出口の番号や番線番号、路線のコーポレートマークなどは大きく、その他の情報は小さく記されています。サインシステムによっては、表示面の都合上コントラストが不十分なものがありますが、やはり視認性に支障を来すように思います。

ピクトグラム

サインシステムにおいて重要な役割を果たすのが、ピクトグラムです。ピクトグラムは、簡素な絵によって情報を伝達するものです。トイレのマークや非常口マークなど、日常に浸透しています。
ピクトグラムは、文字に比べ直感的に情報を伝えられるだけでなく、言葉に依存しない情報伝達が可能になるという利点があります。つまり、「トイレ」とさまざまな言語で書かなくても、トイレのピクトグラムを描くだけで、多くの人に意味が伝わります。これらのピクトグラムの一部は、国際規格のISOにも定められ、国際的に普遍的なものとなっています。近年では、ボーイング社の最新飛行機 B787のサインシステムに非常口マークが採用されました。

B787機の、非常口を示すサインシステム。従来は「非常口」「EXIT」などと記されていましたが、ピクトグラムを使うことで、様々な言語を母語とする人が理解しやすくなっています。
https://www.ana.co.jp/group/787_10th/about_20220114_2.html より

一方でピクトグラムには限界があります。例えば、固有名詞はどう頑張ってもピクトでは表せません。また、複雑な概念を複雑なピクトで表すと、「何を表しているかわからない」という状況に陥りかねません。サインシステムの理想は「迷わず理解できる」ことなので、これでは逆効果です。ピクトと言語情報の適度な併用が求められます。

魅力的なサインシステム

ここからは、私が好きなサインシステム2選について書きます。

営団地下鉄のサインシステム

営団地下鉄(東京メトロの前身)のサインシステムは1973年、大手町駅を皮切りに設置されました。このサインシステムでは、路線カラーで色付けた円環を用いた案内指示を行ったり、色と機能の対応づけなどを行いました。例えば、「出口は黄地」「入口は緑地」といった対応づけを行い、直感的な理解を促しました。これらの仕組みの一部は、現在の東京メトロはもちろん、全国の鉄道系サインシステムの礎にもなっています。
営団地下鉄のサインシステムには、ゴシック4550というフォントが使われていました。"4550"とは、タテヨコ比が45:50(=9:10)であることを意味しており、少し横長のフォントです。
下の写真は、メトロの駅に時々残る営団地下鉄時代のサインシステムです。現在ではかなりレアな存在となったので、たまに見かけると嬉しくなります。(他路線とののりかえ改札、他の商業施設にかかる場所の看板などの場所に残っていることが多いです。)

市ヶ谷駅に残る営団時代のサインシステム。現在のメトロのものと比べると、白背景になっていて、かつ路線マークやフォントが大きいことがわかります。(2022 筆者撮影)
市ヶ谷駅のサインシステム(二つ目)。「きっぷうりば」「精算所」といった用語が時代を彷彿とさせます。上のものと比べると、"Tickets"の文字が少し詰まっている気もします。(2022 筆者撮影)
竹橋駅の路線図。駅ナンバーが入っていますが、ゴシック4550が使われていることから分かるように営団地下鉄時代のサインシステムです。おそらく後からナンバーだけ貼り付けたのでしょう。このように、営団地下鉄のサインを改修して使い続ける例も見られます。(2021 筆者撮影)

現在では、サインシステムに載せるべき情報が増えてきているため、営団地下鉄のようなシンプルで洗練されたサインシステムは作りづらくなってきています。しかし、50年も前にこれほど洗練されたサインが出てきて、かつ現在でも普遍的な機能美を持ち合わせている、というのは素晴らしいことだと感じます。

高速道路のサインシステム

高速道路の方向案内は、かなり難しい制約の中で成り立っています。運転手が、運転席の限られた視野の中から、時速80km(秒速20m超)で流れていく方向案内を見て行き先を理解する。こう書くと、高速道路の看板が、如何に洗練されたデザインであるか実感できるのではないでしょうか。さらに、徒歩なら道を間違っても戻れますが、高速では引き返せません。そのため、視認性・一意性の両方が厳密に求められます。

箱崎ジャンクションの指示。手前の分岐を抜けた先にも複雑そうな案内が…(Wikipedia 『箱崎ジャンクション』より)

高速道路は、鉄道のサインシステムと異なり、高さの制約がない分表示面を広く取れます。そのため、道を図示して案内することができます。また、ICの出口やPA/SAの案内は左側に配置することで、直感的な認識を可能にしています。これらの工夫は言われれば当たり前ですし、些細なことかもしれません。しかしこのようなちょっとした工夫が、運転中の認知負荷を下げるために重要な役割を果たしています。
高速道路の看板で他に注目すべきはフォントです。かつて高速では、通称「公団ゴシック」という特殊なフォントが使われていました。現在はヒラギノゴシックに順次切り替わっていますが、たまに公団ゴシックの看板を見ると、視認性に全振りしたフォントの美しさに魅せられます。

愛鷹PAの、公団ゴシックを用いた看板。「愛」のなかの「心」の形や「鷹」の上部の大胆にデフォルメした形が特徴的です。可読性を重視して作られたこの字体は、どこか愛嬌すらあります。(Wikipedia 『GD-高速道路ゴシックJA』より)

他にも、高速道路には、運転しやすさや車の流動性を考えたさまざまな機能美があるのですが、それはまた別の機会に。

おわりに

この記事では、サインシステムの魅力について見てきました。サインシステムは有力なツールですが、あくまで空間認識を補助するものです。したがって、空間デザイン自体に難があれば、どんな優良なサインシステムでも動線に難が生じてしまいます。そのため、空間デザインの段階から利用者フレンドリーな動線設計が求められることは言うまでもありません。
一方で、複雑なルートであっても、サインシステムさえ見ていれば、複雑さを意識せずに目的地にたどり着ける。そんな可能性を秘めているのがサインシステムなのです。

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