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#43 夢精したかったハナシ Part.1

 男にとって、最高の夢とは何だろうか。高級車を乗り回すこと?絶世の美女を妻にすること?それとも、平穏な家庭を持ち、静かな幸せを手にすること?いずれも、まったく以て見当違いである。
 男にとって、最高の夢であり到達点となること。それは、夢精することだ。

 大学に入学してからしばらく経ったある日、私はいつものごとく喫煙所で友人たちと駄弁っていた。課題に対しての愚痴や、バイト先の不満、同級生の服装がどエロいなどといった、時間を持て余した大学生らしい会話だった。昨日までと変わらない、そして明日からも変わらなさそうな毎日の中の瞬間、その只中に私はいた。
 そんな何気ない会話の最中、私は、どこから湧いてきたのかもわからない、些細な疑問をぶつけてしまった。

「なあ、夢精ってしたことある?」

 その場にいる皆が首を横に振った。続いて、したことのある友達はいた、挑戦したことはあるが失敗に終わった、経験してみたいけどそこまで溜められる自信がないなどという、身近な夢精エピソードを教えてくれた。
 それぞれ思いの丈は違えど、「なんかめちゃくちゃ気持ちイイらしいじゃん?」という共通認識だけは確認出来た。

 この時、私はそれまでの日常を捨て去り、180度異なるまだ見ぬ世界に踏み入れる覚悟を決めた。
 この中の誰もが到達していない、まったく知らない世界。男の夢であり、最高到達点であり、幻と呼ばれるその高みへ。

 なぜ、日常を捨ててまでそんな無謀な挑戦をって?この星の一等賞になりたいの、俺はっ!!そんだけ!!

 まず始めに取り組んだことは、禁欲。言うまでもなく、これは大前提である。調べたところ、エナジーが極限までチャージされることで、発生する可能性が高いらしい。
 続いて、見る夢に少なからず影響を与えようと、毎晩眠る前に美女の画像、動画を目に焼き付けるようにした。美女といえば的な人物を、ということで、当時文句なしにアイドル界トップに君臨していた、乃○坂46の白○麻衣さんを採用させていただいた。
 雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダヲモチ、慾ヲ剥キ出シにしながら、来る日も来る日もま○やんを脳みそに叩き込み続けた。
 決して順風満帆な日々ではなかった。TwitterのTLで好きなセクシー女優の自撮りを見た時はグッとなったし、Instagramで好きなセクシー女優の自撮りを見た時には、頭の血管がはち切れそうになった。でも、そんな時私のことを支えてくれたのは、私の親父でもなく、そしてお袋でもなく、そう、リーでした。

 闘いが始まって二週間。あまりに突然、その瞬間は訪れた。

 私は、見知らぬ部屋のベッドの上で仰向けにいた。辺りを見回すと、小洒落た絵画や鏡が壁に掛かっている。どうやら、ここはホテルか何かの一室らしい。そして私は、一人では持て余す程に大きいベッドの上で、両手足をそれぞれ紐で縛られ、ベッドの足にくくりつけられていた。身動きがとれない。そして私は悟った。待ち望んだ、とっておきのウハウハタイムが始まったのだと。

 部屋の扉が開き、誰かが入ってきた。目を向けると、長い髪で隠されて顔は見えないが、純白の美しいネグリジェをまとっている。間違いない。あのトップアイドルだ。
 彼女は、静かに私に寄り添うと、そっと唇を重ねてきた。柔らかく、弾力のある彼女のそれは、深紅のルージュが引かれており、さっぱりと甘く、くすぐられるような香りを帯びていた。動悸が激しい。ここまで酷く興奮しているのは初めてだ。
 彼女の顔は、依然ハッキリとは見えない。しかし、うっすらと浮かぶその表情は、私の全てを見透かしているのか、悪戯に微笑んでいた。

続く......

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