#53 シノヘぼっちの東京回遊録~渋谷~
今回シノヘが向かったのは、若者に人気の街・渋谷。大勢のヤングが集まり、ショッピングやおデートを楽しむキラキラと輝く街。そして、私が最も嫌いな街。
引っ越しから約3ヶ月が経ったある日。泊まりに来た友人に、「もっと綺麗にしろ」「収納を上手く使え」「死ね」と言われたことがきっかけとなり、お部屋改造に着手した。収納ケースをたくさん買って、無造作に置かれっぱなしになっていた物を詰め込んで押し入れにしまい、部屋の隅々まで掃除をしてやった。
爽快感に溢れた部屋で、達成感に満ち満ちながら酒を頭から浴びていると、この際でっけえ本棚とテーブルも買い換えるかと思い至った。
私の家には三段本棚が3つあるのだが、だいぶ前から全段埋まってしまっていた。その上、帰省したついでに実家から更に漫画と小説を大量に持って帰ってきてしまったため、活字中毒者の部屋みたいになってしまっていた。更に言うと、部屋のテーブルが4人用のこたつなので、間取りの割に狭くなってしまっている。
こうなりゃメスを入れるしかない。よっしゃ、次の休みにニトリへ行こう。せっかくだし、渋谷のでっけえニトリにかちこもう!
3月某日、電車を乗り継ぎ渋谷に到着。人がやべえ。やべえ多い。どうやら渋谷は新型コロナの感染範囲圏外らしい。恐らく、どなたか高名な術師が結界を張っているのだろう。
そして、東京の大きい駅前名物である「何かを訴えている集団」も確認。今日は「水族館のイルカは可哀想だ!」というテーマのもと、動物愛護団体っぽい方々が演説していた。それ以上でも以下でもないので、特に書くことはない。迷わずニトリへ。
渋谷の何が嫌いかって、すれ違う人全員が自信に満ちあふれた顔をしている点が挙げられる。強固な自我と、太い芯があるのとは違う、自己顕示欲の暴走からなる顔であふれかえっているので、彼らを受け入れられない自分が非難されているように感じてしまう。こいつら、ちょっと前まではピッチピチのスキニーでドヤっていたくせに、今じゃ真逆の菅田ばっかり。女も一様に濃いぃ紅を引いている。おまけに全員声がデカい。そんなに張り上げて一体何を伝えたいというんだ。どうせ「今日寝てねえわw」くらいしか喋ることねえだろ。うるせえバカ、てめえらより井上雄彦の方が寝てねえよ。
イライラしながらも、歩みは決して止めない。菅田とKーPOP紅の間をすり抜けながら進軍していたら、ふとショーウィンドウに映る自分の全身が目に留まった。ジーパンにグレーの上着とグレーのニット帽。グレーの上着とグレーのニット帽。グレーとグレー。これ、もしかして滅茶苦茶ダサいのでは?随分長い間、中央線でのみ生活していたから忘れていたけど、これで渋谷は相当アレなのでは?
このことに気づいてしまった以上、そこの菅田に全身コーデしてもらいたくなってしまうくらい恥ずかしくなってきた。恥ずかしすぎてウンチしたくなってきちゃった。そういや、いつもお昼の三色コーデでRIKACOが差し色がどうたらとか言ってたな。そういうことか。してやられたぜ。
このままでは、恥ずかしさのあまり茶色の差し色と独特な香りを醸してしまいそうになったので、急いでニトリへ避難。急に恥ずかしくなった時と本屋をプラプラしている時って、ウンチしたくなりますよね。
とりあえず用を足して、万事解決した瞬間。私の脳内に溢れ出した、存在する記憶。
ちょっと前、Amazonギフト券を買わねばならないことがあって、その余りが1万円分残っていた。そういやあの時、この1万で本棚とテーブル買おうと思って、両方選んであとで買うリストに入れておいたんだった。やば、渋谷来た意味ないじゃん。だってあとはもうポチるだけなんだもん。本棚とテーブルを買うという大義名分があったから、大嫌いな街も我慢できたのに、それがなければもうここにいる意味とかあろうはずがないじゃん。ギフト券分を残したところで、Amazonで1万円の買い物するほどの物欲無いし。
若者に人気の街・渋谷。大勢のヤングが集まり、ショッピングやおデートを楽しむキラキラと輝く街。
私は、大嫌いな街に168円と20分、羞恥のウンチを捧げて消え去った。
生きるって、こういうことなのかなと思った。
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