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#55 生まれ変わったら、とかいう不毛な話

「もし生まれ変われるとしたら、何になりたい?」

 誰しもが、一度は考えたことのある話だろう。どんなに今の人生が恵まれていようが、追い込まれていようが関係ない。万人が平等に真剣に考えたことがあり、同時に全く以て生産性のない不毛な考え。

 カワイイが好きな私は、生まれ変わったらカワイイになりたい。自分で見てもカワイイと思えて、他人からもカワイイと思われる存在になりたい。残念ながら、この人生の私にカワイイポイントは皆無なため、こればっかりは本当に来世に賭けるしかないのだ。

 では、どうカワイイになりたいのか具体的に説明しよう。
 まず、さらさらのロングヘアーになりたい。ロングのままでもカワイイし、ポニーテールにしてもカワイイし、明るい色にしても、黒髪のままでも、ツインテールにしてもカワイイ。くるくる天然パーマとして生まれ堕ちた私の、切なる願いだ。

 体も華奢になりたい。すらりとした手足は、雪のように美しく、今にも崩れてしまいそうな儚さと切なさを漂わせていながら、その目は迷うことなく強く輝いていたい。
 担任に「そこの荷物を資料室まで戻しに行ってくれ」と頼まれたものの、一人で運ぶには苦しい重さで、フラフラしながら廊下に出たところでイケメン(渚カヲル風)の同級生に「一人じゃ無理だろ?手伝うよ」と声をかけられても、「これ......くらい......だいじょう......ぶッ!」と強がっちゃうくらいのカワイイになりたい。

 あと、オシャレもしたい。流行りのカワイイ服を着まくって、オシャレな街に繰り出してオシャレでカワイイやつを食べて写真撮りまくりたい。ゴスロリ風、チャイナドレス、めっちゃ背中あいてるやつ、なんかすげー高いヒール、ぶかぶかのパーカーとか装備したい。好きなアニメとか漫画のコスプレ写真をTwitterにアップしてたくさんいいねを押してもらいたい。
 シンプルにセーラー服を着たい。ブレザータイプの制服も着たい。ブレザータイプは着崩してもみたい。なにより、ルーズソックスを履きたい。ルーズソックスを履きこなしてスナップショットを撮ってもらいたい。

 そして、最強のカワイイ「真っ白ワンピースに麦わら帽子」になりたい。
 田舎に住んで、夏休みに都会からやって来た同い年の少年と仲良くなって、ひまわり畑で追いかけっこした後に小高い丘の上で一休みしたい。彼が明日帰ることを告げられた日の夜、一緒に夏祭りを満喫して、人混みから離れた静かなところで勇気を振り絞って想いを告げるものの、花火が打ち上がった音にかき消されて彼には届かず、なんだか馬鹿らしくなって家に帰って一人で泣いて、翌日駅まで彼の見送りに向かい、「また来るよ」って言われて嬉しいような寂しいような不思議な感情を覚えて、走り去る列車が見えなくなるまで見送って、夏の終わりを感じさせる涼しくなった風を頬に感じながら、この夏の思い出を胸の奥にしまって自分だけの宝物にしたい。

 太ってて、ラガーマンじゃないのに首が太くて、いつもメガネがちょっとだけ汚れてて、すね毛が濃くて、脂性な私だけれど、声を大にして叫びたい。
 神様とやらがいるのならば、どんなに遠くにいようがそいつの耳に届くように、喉が裂け血しぶきを吐き出すまで叫びたい。

 私は!生まれ変わったら!

カワイイになりたい!うおおおぉぉぉぉぉ!

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