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風の盆に寄せて。

忘れられない記憶がある。
かれこれ数年前、富山市八尾町の「おわら風の盆」祭りを一人で観に行った。夏の終りに3日間だけ行われる伝統のお祭りである。

旅番組でこの幻想的な祭りの存在を知って「これは!」と思い、ショルダーバッグ1つで新幹線に飛び乗った。

富山駅に着いたその足で初めて訪れる北陸の町並みを散策し、夜は風の盆祭りに見入っていた。

旅の写真は主にクラウドサービスで保存しているが、何故かこのときの写真が1枚しか見当たらなかった。メインタイトル画像にしているのがそれである。

日本の祭りの雰囲気は独特である。
踊り、楽器、お囃子、装飾、ルーツは様々だがどれを取っても唯一無二の風習である。
そして、見れば見るほどその魅力に取り憑かれていくのは言うまでもない。

町全体でその幻想的な雰囲気を体現しているのが風の盆踊りだろう。
町に吹く風害から守るため、また無病息災の意味を込めて誕生した300年続く伝統的なお祭りと聞く。

坂を登って開けた通りの両端には祭りの灯籠。
夕暮れ時にほのかな灯りに映し出される踊り子さんは、皆たおやかに、しなやかに舞っていた。地方と呼ばれる胡弓や三味線を持った奏者が後ろをついている。

普段は皆仕事をしたり普通に生活している人々だが、この瞬間だけは演者に生まれ変わる。老若男女祭りに参加できるのはこのお祭りが誰からも愛される所以だろう。

祭りなのにどこかしら物哀しさをまとっているのもまた美しい。


祭り自体は明け方まで各町内で夜流し踊りをしていたが、僕は途中で抜け出しその後は駅前のカラオケボックスに入って朝を待った。当時アルバイトのシフトが入っていたので、昼には東京にいなければいけなかった。

朝のローカル列車を待つホームで、秋を感じる風を全面に受けていたのを今でも思い出す。あのときはここにまた近いうちにゆっくり来たいと思っていたが、未だあれから行くことが叶っていない。

特集された旅番組で「一度でもその踊りを味わったら病みつきになる。もうどうもこうも止められん」と地元の方が熱心に伝えていたのを思い出す。

次は誰かと一緒に心ゆくまで楽しみたい。

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