自選・「月」並句たち

昨夜(今夜?)は月蝕だったらしい。みなさんがスマホやら自前のカメラやらで月をおさめようとしているのがちらちらSNSに流れてくる。

俳句・和歌の世界では「月」といえば秋だ。それぞれ他の季節の月は「春の月」「夏の月」「冬の月」と呼んで区別する、ことになっている。

だがいくら文学史としての事実がそう言っていても、いま現代に月を見上げるわたしはどこかで「月はなんだろうと月では…?」「春の月だの夏の月だの、単に時期を並べただけの事実じゃないのか」という冷めた目をしてしまっている。

いや、これが「星」と言われればわかる。「星月夜」は秋だし、「春の星」「夏の星」「冬の星」では話が違う。しかし「月」だ。「月」である。「そもそも月とは天体であって」なんて、風情を壊すいかにもな理系君の物言いみたいなことはしたくないが、あまりにも当たり前にそこにあるものすぎて、いまさら感傷を抱くのも難しくなってないか?

そんな戯言を、どこかで思いながら僕は「月」を詠んでいる。とにかく浮かべときゃいいや、夜になるからエモいだろ、ぐらいの気持ちで。そんな舐めた輩に詠まれる月がかわいそうだ。ここにいくつか供養しようと思う。

立待やカーブミラーの傷新し

朧月聞いておきたいことがある

電灯の波動月明りの粒子

月光の現場作業や東京駅

こはごはとルーペで月を見た学者

月さやかサンドイッチの耳落とす

月光のモアイの眼みな窪み

工場の煙突濡れて夏の月

月はいま砂漠のあたり春の闇

佐殿の落馬シーンや月涼し

名月に割れて砂時計は砂鉄

回送列車のドア開き止まる月は月は

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?