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20230417-0422

四月十七日(月)
 さまざまな夢を見て起きる。バレーボールをしたり、道路に折りたたみベッドで寝たり、それを片付けたり。
 先週末から右の奥の歯茎が腫れ、顎にニキビができ、散々。この時期は毎年体がぼろぼろ。春は毒出しの季節というけれど、だとしたらためすぎすぎだと思う。夫に「厄年だっけ?」と言われたけれど今年は違う。去年までは後厄だったし、来年はまた前厄だけれど、今年は違う。
 ベランダではミニバラが濃い緑色の葉を茂らせ、ベルフラワーはつぼみがいくつもできている。向かいの家の庭に白い花が咲いている。ツツジだろうか。週末、ホームセンターにフランネルフラワーとラベンダーの鉢を見に行きたかったのだけれど、体がぼろぼろだったので断念した。今は新しいことをするべきではないかなと思った。いつだって新しいことはしたくないのだけれど。でも占いでは、今年は今までのルールなどを壊して新しいものをはじめたり手に入れるべき、というようなことが書いてある。
 小松菜のごま和え、人参の塩きんぴら、きゅうりの梅おかか和え、たまごやきをつくる。夜は新玉ねぎを使って豚のしょうが焼き。

四月十八日(火)
 枕元で知らないおじさんに油をかけられ「燃やしてやる!」と言われる恐ろしい夢を見る。油はつめたかった。夫は私と一緒に洞窟の中にたい焼きを買いに行く夢を見たらしい。
 掃除をして、コートをクリーニングに出しに行く。受け付けてくれた店員さんはとても丁寧な人で、指があかぎれだらけだった。そのあとスーパーへ。今日は少しだけ買いもの。いつもは平日に一日、週末に一日、まとめ買いをするのだけれど、今週はいろいろなことが重なりそうでいつ行けるかわからないので、行ける時に少しずつ買い足そうと思っている。少ない買いものは身軽な気持ちになる。入り口の脇にある、黄色と緑の草花がうわあっと咲いている場所に、先週からセブンスターの空き箱がずっと落ちたままになっている。

四月十九日(水)
 明け方、激しい雨と雷。部屋の中が黄色くなる。
 午前中、土門蘭『死ぬまで生きる日記』と堀江敏幸『彼女のいる背表紙』を行ったり来たりする。土門さんの本は昨日届いたばかりの新刊。タイトルを見た瞬間から「これは……」と思っていた。こんなことを言うのはおこがましいのだけれど、土門さんの書かれたものを読むと、もう一人の自分を見ているような感覚になる。私そのもの、とか、私みたい、というのではなくて、もう一人の自分。
 夕方、再び激しい雨と雷。

四月二十日(木)
 今年はじめての夏日になるところも、と天気予報は言っていたけれど、霧の、少しひんやりとした朝。まぶたの上には、OSAJIの雨音という色のアイシャドウ。昨日の二冊は読み終わったので『熊の敷石』を読んでいる。
 昼前に歯医者へ、午後は洗面所の水道を直してもらう。

四月二十一日(金)
 朝、濃い霧。部屋の中までしっとりとしている。
 次第に晴れてきて、明るい。けれど遠くの方は霞んでいる。二週間前に買ったアルストロメリアはまだ枯れずに咲いている。少しずつ短く切って、今日は小さな花瓶に生け替えた。ベランダのベルフラワーのつぼみがうっすら紫色になっている。最近は晴れても、黄砂やPM2.5の影響で外に洗濯物を干すことができない。
 昼前、ひじきを煮て、その隣でたまごを茹でる。生理がはじまったからか、一日中うとうとしている。空はいつの間にかくもっていて、湿度の濃い匂いがする。夕方、江國香織『物語のなかとそと』を読みながら、この本がとても好きだと思う。表紙の手触り、絶妙な不安を感じる余白の絵、背表紙の文字の大きさ、見返しの桔梗のような色、カバーを外した深い緑、それから、金の花ぎれ。
 さまざまな憂鬱が積み重なっていく。どかんと大きな岩が落ちてくるわけではなくて、薄紙がひとひらひとひら重なって、気がつくととんでもないことになっていた、という感じ。これは清算ですか? ここを踏ん張れば、耐えれば、乗り越えれば、私はしあわせになれますか? と、無意味な問いが頭のなかに浮かぶ。
 私は生きることが怖い。自分にしあわせなんてやってこないし感じることもできないと思っている。子供の頃の清算をし続けなけれなならないと思っている。

四月二十二日(土)
 はじめて行く病院の待合室で『プラテーロとわたし』を読む。総合病院、皮膚科、眼科、歯医者、病院へ行く時はいつもこの本を持っていく。そしてこの本を家で読むことはほとんどない。いつも待合室で読んでいる。その本が、ついに終わってしまった。はじめて行く病院の、薄暗い廊下の椅子で。プラテーロは死んでしまった。でも私は次にどこかの病院へ行く時も、この本を持っていくだろう。そしてまた最初のページから、プラテーロとわたしの日々を、空気の中に混じりこむようにして見たり聞いたりするのだろう。


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