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もし思っていることがすべてが叶うなら

もし思っていることがすべて叶うなら、不安になる必要なんてない。
もし思っていることがすべて叶うなら、心配することなんてない。
もし思っていることがすべて叶うなら。

「思っていることはすべて叶うんだよ」

酔いが回ってきたのか、ノゾムは唐突にそう話し出した。

「おい、なんだよ急に。そういう自己啓発系の話はいらないよ」

俺はノゾムの言葉に身構えて、とっさに返事をした。

「自己啓発じゃねえよ。本当に思っていることはすべて叶うんだって」

コイツは本当に何を言っているのだろうか。そんなことが本当だったら、この世界はメチャクチャになってしまう。

「たださ、心から信じることができる奴だけが叶うんだけどな」

ノゾムはそう言うと、グラスの氷がほとんど溶けかけて、水割りのようになってしまった焼酎のロックをグイと飲み干した。

「お前さ、一緒に酒飲んで酔いが回ってくると『どうせ俺なんか何をやったってダメなんだ』とか言ってるだろ。それを本気で信じているだろ?だからそれが叶っているんだよ」

図星だった。

俺は自分に自信がなく、ノゾムと酒を飲んで酔っ払うといつもグチばかり吐いていたのだ。黙っている俺に対して、ノゾムが続けざまに言った。

「自分を卑下して、それがその通りだと心から信じきっているから、それが叶ってんだよ。じゃあさ、どうしてもっと楽しいことを考えて、その通りになるって信じることができないんだ?おかしいだろ」

「なあ、ノゾム。やっぱり自己啓発の類なんじゃねえのか。お前さ、マジでセミナーとか誘ってくるんじゃねえだろうな。セミナーなんかに俺は絶対に行かねえぞ」

俺は内心ムカっとしていた。いや、表情や態度、さらに口調にもそれは現れていたに違いない。

「セミナーなんかじゃねえよ。…あっ、お前さ、この話はセミナーなんじゃないかって、そうだ間違いない!セミナーに決まってる。って強く思い込んでみたらさ、オレが『実はセミナーでしたぁ!』とか言っちゃうオチが待っているかもしれないぜ。オレがさっきから言っているのはそういうことだ」

ノゾムはニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んだ。

「未来は自分で決められるんだよ」

「未来を決められる…」

「そう。この話を知ったら、もう怖くて不安になったり心配したりすることなんてなくなるぜ?だって、その通りになるんだよ。考えただけで恐ろしいだろ」

ノゾムはいつのまにか追加で注文していた、オン・ザ・ロックの氷を指で弾いてカランと鳴らした。

「ヒトが本来持っている、強い気持ちがもたらすチカラを見くびっちゃいけねえよ」

なんだかノゾムが異世界から来た奴のように思えてきた。

そんなことを考えていたら頭がガンガンと割れそうに痛くなってきた。悪酔いしてしまったのだろうか。様々なことが頭を巡らしている。俺は自分自身が生み出す思考の渦に飲み込まれていった。


…気がつくと、いつの間にか俺は自分の部屋にいた。

さっきのは夢だったのだろうか。時間を確認しようとスマホを見ると、ノゾムからメッセージが来ていた。

『お前、飲み過ぎだって。店で急に寝ちまって全然起きねえから、オレがお前んちまで送ってやったよ。あとさ、オレが話したこと本当だからな。絶対に叶うから諦めんなよ。ガキの頃からのお前の夢』

アイツ…めんどくせえ気の遣い方しやがって。テメエに言われなくたって諦めねえよ。でも、ありがとう。絶対に叶えてみせるよ。

挑戦することすらできなくなっちまったノゾムの分までな。

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