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vs松本山雅 10/18 △1-1

この試合を4つの時間帯に分けて考える

・キックオフ〜失点(0〜9分)
・失点〜前半終了(10〜45分)
・後半開始〜同点(45〜59分)
・同点〜試合終了(60〜90分)

キックオフ〜失点(0〜9分)

 先制されるまでの試合の入りで感じた点は2つ。
 
 1つ目は、両チームがロングボールを多用する展開になったという所において。そもそもチームのスタイルとしてロングボールを戦略の1つにしている松本と、試合の途中から修正を加えつつ戦うというプランのもと序盤は様子を見つつローリスクなプレーチョイスをする傾向にある鹿島という両チームの間に思惑の差はありながらも、互いに蹴り込みが多くなった。その状況のなかで鹿島は何度か松本の背後を突くショートカウンターを繰り出せている。ここに関しては相手のターゲットとなる永井龍に対し、キックオフ直後から連続で空中戦に勝利して質的優位を産んだチョンスンヒョンの影響が大きい。彼の跳ね返しからすぐにカウンターを狙う鹿島のあの反応を見ると、ロングボールを多用してくる松本への1つの策として、セカンドボールを拾いに局地的に人を集めてくる所のその裏を狙って縦に早く攻撃を仕掛けるという意図がチームとしてあったのではないかと感じる。まぁ少なくともあの圧倒は松本に「あそこに放り込むだけじゃ今日は成立しないな」を植え付けたのは間違いなく、これがその後の試合展開を左右する事になった…のかもしれない、試合がその後も0-0進行していれば。
 結果的にそうはならなかったが、少なくともこの時点で彼がCBとしての質的優位で非常に効いているように感じましたというのがまず1つ目。

 2つ目は松本の守備ラインの高さ。この試合に入るにあたり個人的に気になっていたポイントで、具体的には「鹿島的にはCB→SBの所で前に来られる方が嫌だけど、それを理解したうえで松本的にはバランスを維持しながら前に出て来れるのか」という所に注目をしていた。
 で、試合が始まって見ていると、来るには来る。だが松本がブロックの距離感をキッチリ揃えながら来れているかと言われるとそうも感じず、鹿島のCHが適切な立ち位置を取れれば外せるクオリティだなというのが正直な印象だった。だからこそ個人的に気になったのは、来る松本ではなく、外せない鹿島の方。ここは後でまた触れます。

 そんなこんなで相手陣地でFKを得た松本が1発変化を見せ(十分クロスから得点を狙える位置からセルジーニョのミドルを使う形を取って)CK獲得。またそのCKで変化し先制。詳細は↓で。https://twitter.com/ant35lers/status/1186119036901318656?s=20

 このセットプレーに関しては、Jリーグでなかなか見る事のないクオリティのものだった。だが、松本というチームの特色・強みの1つに「セットプレーでの脅威」が挙げられるのは当然試合前から選手達の頭には入っていたはず。失点CKとその1つ前のFKに関しては鹿島の守備陣も特におかしな動きはしていないのだが、対戦相手という条件を含めて考えた時、おかしな動きをしなさ過ぎているようにも感じる。もう少し「なにかやってくるぞ!おかしな事してくるぞ!」という意識が強ければまた対応が変わったのではないか…と考えていくと、どうしても松本での在籍経験もありソレを身を持って知っている犬飼智也がペナルティエリア内で声を出せてればという想像を膨らまさずにはいられない。


 ここまでが[キックオフ〜失点(0〜9分)]で感じた所。
ぎゅっとまとめると、鹿島は別に悪くなかったけど、それ以上に松本のプランの具体性が光り0-1でと試合に入る事となったという感じ。


失点〜前半終了(10〜45分)

 先制され鹿島は2点が必要な状況になったわけだが、自分達が上手くいかなかった結果の失点ではなく残り時間も80分あるという点を踏まえると、鹿島は失点直後焦ってしまっているように見えた。自信を持ってゆっくり丁寧に崩しにかかれなかった最大の要因は、やはり中の機能停止だと考えられる(この時の「中」は松本が守備時に敷く5-3-2の陣形の、3-2の部分で形成される台形の中の事を指す)。
 先制した後ゲームがある程度の落ち着きをみせてから、松本は「CB保持は放置、状態が整っていればSBに入った所でアタック」という様に守備ラインを1つ下げてきた。これにより鹿島のCHがより自由にボールに関与しやすくなる、はずだった。しかし一向に台形の中で鹿島の選手がボールを持って前を向くシーンが出てこない。ハーフコートを3×3の9ブロックに分割した時の、真ん中のブロックにボールが入らない。そしてここでの脅威が無いので松本が前の3-2で構成する台形の範囲がより広くなる→鹿島のサイドでのスペースが狭くなる、という現象が起きる。図にするとこんな感じ。

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でボールの運びを動画にするとこれ。

https://twitter.com/megaseoyogi/status/1186196070713319425?s=20

 相手も11人で守ってる以上、これだけサイドを狭くしてくるならば逆サイドは空くはず。そして昨年の町田ゼルビア戦で見せたように、今年のアウェイ大分戦で見せたように、内田と小池は逆サイドに振るキックを持っている選手だ。しかしなぜ前半全くそれが無かったのかも、台形の範囲の広さで説明がつく。台形内に脅威が無いため、ボールの逆サイドのIHが内側に絞る必要がなく逆サイドが大きく空いてこない(図の25番が中を締めにくる必要がないため、逆が大きく空かない)。

 こうなると鹿島の選択肢は2つに絞られる。1つは狭い狭いサイドをなんとか崩しきるか、中継地点をすっ飛ばして最前線にボールを着けるか。前者はそもそも難しいうえに松本リードという状況が重なって難易度がかなり高くなっている。そこをなんとか突破しても、出る場所はペナ横というゴールからは遠い位置。後者はいわゆる飛ばしのパスなんて表現があるが、この状況では単純な急ぎのパスとしか言えない。ビハインドで押し込みたいはずが、急ぎのパスが増える事でボール保持→ネガトラのサイクルと回数がかさんでいく。だからといって後ろで余裕を持って機を伺うためにゆったりとボールを保持していれば、準備のできた相手のIHがSB目掛けて確実性の高いアタックを仕掛けてくる。ボールが足元に入っても次のプレー選択肢が見つからず、模索するために時間をかければ最終ラインで相手に奪われ、痛恨の2失点目。それだけは避けたい、で焦る。結果相手を非常に守りやすくさせてしまう事に。

 では中を機能させられなかったのはなぜか。個人的にはCHの立ち位置に問題があったと感じている。具体的な所でいえば、ボール保持時はCHを並列ではなく縦並びにするのが最もシンプルでかつ効力を発揮できたのでは?というもの。図にするとこれ↓

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ほとんど図に主旨が書いてあるが、大体こんな感じ。台形の範囲を妥協するか、中でのボールタッチを妥協するかという2択を相手に強いて、相手の択に合わせて空いてる方を使うというもの。
ボールの動かし方としてはこれ↓

https://twitter.com/megaseoyogi/status/1186196165299040256?s=20

 こちらも先ほどの動画と比較して見て欲しいが、特に注目して欲しいのは鹿島の30番と松本の20番。前CHがあそこに顔を出すだけでボールホルダーと逃げ場のSBに時間と場所が与えられ、先程指摘した余裕の部分を大きく助ける事ができたのではという想定。
 この立ち位置だけで全てがそう上手く転がるとも思わないが、コストの割には状況を好転させる事ができたのではないだろうかとは考えている。コストの割に、というのも、実はこれ健斗がCHの一角を担う際には自然とできていた形であり、そこまで大きな感覚の所での変化を必要とするわけではないのが大きい(特に名古にとっては)。
 ここに関しては、鹿島が長らく抱えている、選手によってできるサッカーの選択肢が著しく減ってしまう問題が顕著に現れたといえるだろう。

 

 これらが前半、意欲とは裏腹に相手ゴールに近付く事ができなかった要因であり、多くの人が内容に不満を持ったポイントなのではないだろうか。


 そしてこのタイミングで今節の人選についても触れておきたい。18日の時点でGK,DF4人,FW2人に関しては実質的な選択の余地が無く、イジれるとしたら中盤の4枚の組み合わせだけ。さらにセルジ・充孝・健斗・レオの不在によりCHでは名古,小泉,永木の、SHでは白崎・レアンドロ・遠藤のそれぞれ3択の中でのチョイスを迫られた。そしてその中でも数少ない前進の役割を担える名古と、全体の(特に後ろの)バランスを取ってくれる白崎は外せず、現実的な選択肢はCHでの小泉or永木と右SHでの遠藤orレアンドロの2箇所でのみだったのはしっかりと整理しておかなければならない所だ。
 その上でこの2択がどうだったか。個人的にまずCHに小泉を選んだのは非常に良い選択だったと言えると思う。というのも、この選手層だと試合中のアクシデントによりピッチ上に大きな穴が生まれるリスクを懸念しなければならず、そうした場合に、よりピッチ上の状況に合わせ途中出場でチームの穴を埋める活躍が期待できる永木をベンチに置いておく選択は合理的だったと感じる。事実内田の不調で45分からの出場となったが、すんなりゲームに入れていたし、仮にもしリード時にSHにアクシデントが起きた場合はレアンドロか山口の2択になってたという事などを考慮するとやはりこれがベターだったのかなと。そして右SHの遠藤orレアンドロだが、ここに関しては意見の割れる所でもあるだろう。しかし現状レアンドロのパフォーマンスの波が激しいのは否めず、遠藤で落ち着いて試合に入りたい気持ちもわかる。結果的には後半からのあの布陣では遠藤が非常に効いていたといえるし、さらにこちらも途中出場でどちらが効力を発揮しやすいかとなるとやはり遠藤よりレアンドロな印象もある。その点、遠藤で入ってからレアンドロ投入でギア上げるというプランは悪くない

 以上かのようにまずそもそも選択肢の幅が限りなく狭かった事とベンチワークの事も考えて、スタメン選考の面は特に問題が無かったように感じる。


後半開始〜同点(45〜59分)

 ハーフタイムを挟み、2点が必要な鹿島は珍しく明確にフォーメーションを変更。明らかに低調だった内田に代えて永木を投入し、CHだった小泉を右SBに。そしてSTだった土居が3列目まで降り、名古・永木と逆三角形を中盤に形成。4-3-2-1(4-1-4-1)気味にした事により各選手のデフォルトの立ち位置が相手の中間ポジションとなり、松本の守備陣にやりづらさや迷いを与える事に成功した。図にするとこんな感じ

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 前半改善するべきだと感じていたCHの立ち位置に関しては、個人的に居て欲しいと感じていた所に各サイドで土居⑧と名古30が必ず立っててくれるようになり、中と外の両局面での時間と場所の創出による「余裕」が鹿島のボール保持時に見られるようになった。さらに、2の所に入るのが白崎と遠藤という、これまたCHの所まで下がってボールを捌ける選手だったのも押さえたいポイントの1つだ。白崎,遠藤,名古,土居という4人が、その場その場の即興で流動的に中盤を移動して相手の守備を乱す事ができたのも大きかった。守備時には4-1-4-1となった時の4と4の間の1の脇を大きく空けてしまう布陣ではあったが、あの状況ではそこのリスクよりもボール保持時のリターンの価値を優先するのが当然だろう。

そうして攻撃から徐々にペースを掴んでいき、後半10分に鹿島がCK獲得からのPK獲得で同点に。

 この布陣変更は個人的に凄く評価したいポイントで、誰発信で誰主導なのかはわからないが、ピッチの状況から的確に改善案を導き出し一気に状況を好転させるものとなっていた。鹿島の本来の強みである修正力という面が、着実にまた成長してきている表れとも言えるだろう(だからこそその成長を勝利という形に繋げたかった気持ちが強いが)。

同点〜試合終了(60〜90分)

 同点になった後も依然鹿島ペースは続くが、なかなか逆転までいく気配を出せない。あそこまで鹿島が布陣変更により試合の流れをうまく引き寄せながら、逆転に至らなかった要因は両チームにある。

 
 まず松本側でいえば、しっかりと撤退して強度の高い5-3(78分からは5-4)ブロックを構築できた事。この辺はこの試合における及第点となる勝ち点が松本が1で鹿島が3だったという所も考慮しなければならないが、色気を出さずこのまま引いて勝ち点を積み上げるという割り切った姿勢が最後まで踏ん張りきれた要因だろう。阪野投入による5-3-2→5-4-1という采配も、その意図をチーム全体に共有させるという点で非常に効果的だった。

 鹿島側でいえば、「縦をどこで作るのか」を明確にできなかったというものが挙げられるだろう。個人規模でいえば現状レオシルバ・相馬・レアンドロの3人に期待されるこの役割だが、2人が負傷し1人はパフォーマンスが上向いてこないという状況にあるなかで、その代わりに誰が、もしくは誰と誰が縦を作るのかという所を最後まで設定できなかった。

 ここに関してレアンドロと山口をもっと早く投入していれば、という声もあるだろうが、個人的にはそれもそれでという感じ。レアンドロと山口をより早く投入するという事はそれすなわち、あの状況を作っていた白崎,遠藤,名古,土居というユニットをより早くピッチから退かせるという事と同義であり、単純な相手ゴールへの迫力というメリットよりもバランスの崩壊というデメリットの方が大きく感じられた。そして、選手のフレッシュさと縦への迫力の方が、バランスの維持よりも優先順位が欲しくなったあのタイミングでの2人の投入というのも個人的には納得のいくものだった。

 つまりなにが言いたいかというと、今の鹿島の攻撃には「バランスを維持しながら縦を作れる選手」が必要だということ。それは相馬やレオシルバなど怪我人の復帰でなのか今いるレアンドロやCH陣の改善でなのかはわからないが、いずれせよ直近5試合で1勝に留まってる現状求められてる課題はここなのではないかと考えてる。


総括

 苦しい状況なのは間違いない。ただその中でもルヴァン川崎戦2nd.legから続いて、明らかにハーフタイムを挟んで交代カードを駆使しながら内容を好転させられるようになっている。前進が見える以上、我々はそこをしっかりと評価しながら、あとは結果を待ち応援するしかない。
 少なくとも自分は、もう1つ殻を破るために必要な過程・行程は踏めていると捉えている。


おまけ

あの後半を受けて
「2点を取る事ができなかった事に対して」評価するのか
「2点を取るクオリティを出せなかった事に対して」評価するのか
の2つは似ているようで個人的な印象は全く違う。前者なのであれば1点しか取れず引き分けだったので最低な試合、2点取り逆転勝ちできたので最高な試合、という評価基準になる。もちろんこの発想を悪だなどと言うつもりは無い。個人の考え方・捉え方をどうこう言えるほど偉い身分ではないので。
しかし、そこで思考放棄をしておきながら「引き分けに終わったので最低に感じる試合」に対し、後付けでサッカーの内容にそれっぽい理由をつけて的外れな文句をぶつけている状況はあまりにも目に余る。


 なにも全てを見抜いて間違った捉え方をするな!というわけではない。そんな事はまずなにより自分ができてないし。しかし最低限、石を投げるのであれば、ピッチ上の現象についてしっかりと「考えようとする」義務があるのでは、と個人的には思います。


 どこが悪かった、で終わるのではなく、どこがどう悪かったのか。そしてどうような改善法が考えられるか。
そこまで到達して批判。じゃなきゃ文句。以上