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自転車のその先に

部品が足りないな。

父が古い自転車を治し始めたのは知っていた。
元々、モノを直すのが好きな父。
流石にIHの天板を割ってしまった時は修理屋さんがきたけど、
時を刻まなくなった時計
脚が折れた椅子
玄関の鍵が調子悪くなった時も治してたな。

口癖は「壊れたら買うんじゃない、治すんだよ」

だからか、小さい時から
モノの中がどうなってるか、気になって
分解して、壊して、分解して、壊してを
何度か繰り返した。
はんだこてで配線を付け直した時はやったなって思った。
そんな感じで育ったから、治すことなんて普通なこと。
小学生で使う彫刻刀もみんなおしゃれなのを買ってたけど、
おしゃれなのはプラスチックでできてて
何か安全装置みたいなのがついてて、削りづらい。
それく比べて僕のはかなり削りやすい。
見た目は派手じゃないけど、職人が使ってそうで
僕はそれだけでわくわくした。
彫刻刀の良さを知って、貸してーっと近くの
クラスメートから言われて僕は鼻が高かった。

僕には母はいない。
小さい時に亡くなったようで
思い出もない。
写真で見たことあるけど父の隣でメガネを掛けた女の人が母らしいけど
全く記憶がない。
もう長く父と二人で住んでいる。
幸いなことに近所に祖父母が住んでいる。
小さな時からずっとばあちゃん子。
ばあちゃん育ててもらったようなものだ。
父はおじいちゃんの影響を受けて、治すことを学んだ。
おじいちゃんは機械のメンテナンスを生業にしている。
父も幼い時から、おじいちゃんの姿を見てきたんだと思う。
この血筋はうけついたものだ。

そうそう、父は今、自転車を治している。
この自転車はおじいちゃんが学生の頃、使っていた自転車で
当時の価格で7万円なんだって。
今の価格で数十万円!?って聞いてビビった。
自転車のフレームには「mizutaki」って書いてある。
これはメーカーの名前かなって持ってググってみたら、
今も存在しているメーカーだった。

1922(大正11年)
初代水田樹貞雄が水田樹商店の名称にて自転車及び部品の製造及び卸売業を創業。

mizutaki株式会社

「光希、部品を買いにお店まで行ってみないか?」っと父が行った。
「どこに?」
「石川県」
「一人で?」
「そう」

一瞬考えたけど、ちょうど、夏休みに入った時。
ま、宿題はあるけど、中2だから受験勉強も始まっていない。
しかも、場所は石川県。
石川県と言えば、母の生まれ故郷だ。
仕方ないから、母方の祖父母にでも会いに行ってやろうか。
と心の中で思って、父にそっけなく「うん」と言った。

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