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【ss】tie.flower story

「ずっとベガのことが好きだったんだ。俺と付き合ってください!」

あ、あうあ...え??
好き?わたしを?

初めて受けた告白、目の前で赤面するのは、2年間同じクラスだった男の子。
三年生になってクラスが離れ離れになっていた。
中学秋、私たちは受験を控えていた。

話は唐突ではなかった。
実は数日前から、彼の周囲の人から告白の予定は伝わっていて、まさかとは思いながらもまさかと思っていたのだ。

とにかくとても混乱している。
お母さん...どうしよう。


「え、それで保留してきたってこと?」

帰宅後、書斎に急いだ。

私には母親がいない。
いるのはこの、保護者代わりの偏物な小説家。名古屋だ。
今日は一日、書斎に閉じこもっていたらしく、はんてんを羽織って首をコキコキと捻った。
視線が合う、優しい目だ。私はこの目が...ううん、なんでもない。

「保留するのもいいけどさぁ、ピンときたかどうかも大事よ?ほら、インプレッション。」

名古屋は死んだわたしの母親の恋人だ。
母は私が10の時に父親と心中した。
記憶の中の母はいつも彼女のことを愛おしそうに話していた。

「お母さんのことは、いつ好きになったの?」

「そりゃもう、一目惚れよ。」

「それじゃ名古屋はあてにならないよ。私、告白してくれた彼のこと一目惚れなんてしてないもん」

「でも、お母さんのことは、一目惚れしてなくても絶対好きになったね」

名古屋は頬杖をついて退屈そうにタバコに火をつけた。
糸を引く煙。母も今の私と同じものを、見たのだろう。

「そうなの?」

「うん、運命だもん。」

「運命ねぇ...そんな目に見えないもので決めたの?私を引き取るの」

「引き取ったって、違うって何度言えばわかるのさ。わたしがベガちゃんを養うのは大人としての勤めだけよ。ベガちゃんと一緒にいたいだけ」

なんとなく違いわわかるが、恥ずかしくないか?
名古屋は背筋が凍るようなサムいこともサラリと言えてしまうのだ。

「それにな、ベガ?恋っていうのはいつだって、目には見えないんだ。だから、感じるしかない。感じるには、飛び込むしかないの。」

「...つ、付き合うこと薦めてるの?」

「イヴだったら、わたしの意見を聞いて笑って賛同してくれると思うなぁ」

まぁ、そんな気もする。
お母さんはいつでも名古屋に甘かった。

「なんにせよ、始まったんだねキミの青春が。笑うことも泣くこともあるだろうけど、わたしには優しくしてね?」

冗談半分、真面目半分に笑う名古屋の書斎を私は出た。

私だって、名古屋のこと...大好きだ。
名古屋がママのこと誰より愛してることが、私にとってどれだけ嬉しいか。
名古屋がいなくなったら、私は何を支えに生きるんだろう...

いつか私も、一緒に死んでくれる誰かを手に入れられるのだろうか。


ベガの誕生日に贈ります。

愛おしきベガへ
全てがあなたに微笑み、全てとってあなたが聖なる存在でありますように。

あなたの母親がそうであったように。

『tie.flower story』ベガ(10歳)

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