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【ss】古き友、いまなき学舎と(下)

何が起こるのか、Uはたしかに私に説明した。

「煙が回ってきたら、ここから離れて、上へ逃げて。大丈夫、逃げ道は用意してある。そこで私たちは訴えるのよ」

その通りになった。ただ、結果的に逃げ道は私以外誰も使うことは無かった。

夜なので視界が黒く、時より私のところにも観衆の向けるライトが当たった。
不安が襲う。ライトの眩しさや、パトカーのサイレンでもなく、その不安の原因はUが私の手を握っていなかったことがつよい。
Uはわたしの視界に入るギリギリで、背を向けて立っていた。

「私たちはこの大学の...教授を全員街から追い出せと主張する!私の、私たちの創作が、教授たちの手で汚れている。この街ではあるはずの人権が、私たち学生にはなく、同じように教授にもあるものでは無い!この街で、この大学だけ、創作ではない!」

何を言っているのかよくわからない。
ねぇ、わたしをみて、U...そこから私は見えるの?

思いが通じたのかUが振り返った。そして微笑み、微かに笑った。
一瞬だった。振り返ったのは。

そしてUは教授のと思われる原稿を、食べた。

「これは!私の創作だ!私が書いた!誰にも渡さない!」

そう言って、炎の中に静かに入っていった。

『古き友、いまなき学舎へ』 end


これにて完結です。

Uは創作を自分のものにして、それを一生侵されない道を選んだのです。

この物語の着想は、ゴーストライターのニュースからです。

自分の創作でないものを自分の創作として出す。
なんて醜い行為なのでしょう。
創作とは作品ではなく、その人そのものなんです。
ただの紙ペラではない。
Uはそれを表現して死んだのです。

これが創作抗争の顛末。

この後大学は廃校し、”わたし”は残った寮を改築し、創作者の集いを作ります。

『メゾンドフルーミ』ここで私は創作者が創作をする創作を書くのです。


おまけ

「あなたはこの物語をどう解釈する?」

昼を過ぎた頃、コーヒーも2杯目に差し掛かっていた。

「そうだなぁ...Uさんはすごく強かったんですよ。自分の創作に熱くて、プライドを持ってた!体躯のいい仲間を連れて、抗議をしたんだから!」

鼻息荒く、彼女は人差し指を立てた。
疲れ切った顔はいつしか消え、明日には学校へ行けそうだ。

「それは、まぁ、そうかもしれないわね。」

「でもね、彼女は本当は、本当に強い人じゃなかったのよ。
強かったら、私にこんな想いさせないわ。
抗議をしたのも、正義からじゃないとわたしは思うわ。」

「え?」

ことが終わって数日後、わたしの部屋に荷物が届いたの。
大きな段ボールに、たくさんの原稿。
あの子は"書かされた"創作は自分にして、"書いた"創作をわたしに託したのね。
彼女がわたしに書いた創作のタイトルはね...

「ワタシの死で、創作は死に向かい始まる」

彼女は、自分の創作に取り憑かれていたのよ。

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