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【ss】古き友、いまなき学舎と(中)

創作抗争【そうさくこうそう】 
2018年、旧エディロット大学にておきた革新。抗争を中心的に起こした学生8名が死亡。創志尊重法の発布のきっかけとなる。

創志尊重法【そうしそんちょうほう】
創作をするものが、その能力を他人に使役されることなく発揮することを守る法。


わたしがまだ学生だった頃。
エディロット大学では勤勉な学生たちが統制を取り、自分たちの創作を表現し、時にぶつかり合いながら過ごしていた。

わたしは今年を卒業に控えた3年であった。キャンバス内でも類を見ないカタブツのわたし。
そんなわたしを生かせる企業などはなく、卒業後の就職は諦めかけていた。

そんなカタブツな私にも1人だけ友人はいた。それがUだ。
私と違って、人当たりがよく、包容力があって、笑顔も可愛いらしい少女。
U本人には言っていたなかったか、わたしはUを大切にしようと決めていた。
ただ1人の理解者、そして友として。

だから、あんな願いを二つ返事で引き受けたんだ。

夕方もすぎた時刻。もう家に帰って寝るだけだと言う時。
私は突然Uにいつものカフェに呼ばれた。
Uには合わない体躯の大きめの学生が7人、ゲームの敵キャラのようなポーズでカフェの一角を陣取っていた。

わたしはUの隣の席を開けてもらい、スカートの裾をシワがつかないようにまとめて、ゆっくりと腰を下ろした。
Uの瞳が濡れているのは、お酒のせいか。

「エディロット大学の教授を全員引きずり下ろすの、あなたも手伝ってよ」

そんな力強い言葉を言える子だったか。

引きずり、という、なんだかザラザラしたUの発音が耳に残り、違和感を覚えた。

それからわたしたちの決起集会は山場を迎えた。
初めてだった、こんなにたくさんの人に囲まれたのは。
それがどんなお酒よりわたしを酔わせた。

そしてわたしは当然、彼女の手をギュッと掴んで離さなかった。そう、離したのは彼女の方...

大人になったわたしが、この時の後悔をひとつあげるとするなら、彼女との最後のコーヒーを飲みきらなかったことだ。

『古き友、いまなき学舎と(下)』へつづく。

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