瀧本さんへですの。

何者にもなれない瀧本さんへ

貴女は何者かになりたかった。
できれば天才になりたかった。
左利きに憧れた。
AB型にも憧れた。
O型で結果、養子だと判明した。

瀧本さん、貴女は何者にもなれなかった。

瀧本さん、
瀧本さん、
瀧本さん、

貴女はどこまでいっても凡人だ。
だから、笑え。
笑えよ、笑え。
そして、笑われて生きてゆけ。

自分ひとりぼっちな気がして、
男に女に依存しまくっていた瀧本さん。
でも、もう少しで50歳だ。
いつまでそんな青臭い人生を歩むのか。

でもね、瀧本さん。
貴女はきっと一生変わらない。
だから今日も明日も明後日も瀧本さんは、

嘘つきで、
八方美人で、
張り付いた笑顔ばかりで、
人間を求め人間に泣き、
人を憎み、
心は果てしなくドス黒く、
みっともなくて、
ひとりで泣いてる自分に悦いれば良いのです。


でもね、瀧本さん、頑張ったね。
貴女は中学生時代から憧れていた、
フリーライターという道へ進む。
そして粋な編集者の計らいで、
一冊の本を出すことになる。

努力も持続を重ねると、
実現できるという夢を叶える。

それでも死にたかったね瀧本さん。
けれど編集者に言われたことを思い出す。

本をだす条件は、
だしてからも生き続けること、
それで満足して、
死んだりしないこと、
生きることが前提です。

生きることが前提です。
生きることが前提です。
生きることが前提です。


それは大きな歯止めになったね。
音なく忍び寄る自殺願望に歯止めをかけたね。

ふっと電車に吸い込まれる衝動。
アイスピックで目を貫きたくなる激情。
朝が訪れるたびに感じる絶望。
何もかも滅茶苦茶にしたい破壊衝動。

皆が死ぬより自分が死んだほうが早い。
その葛藤と何百回何千回戦ったね。

愛する母親を失い、
自分自身も膵臓癌になり、
やっと生きることから解放される、
死というゴールを見つけ出し、
胸を撫で下ろしたのが本音だよね。

なのに、残念だったね瀧本さん、
貴女はそれでも命を取りとめる。
現在の貴女に失うものなど何もない。
けれど13階段の淵をさまよったことで、
無償で愛される悦びを知ってしまった。
だから貴女には生き続ける義務がある。

だから、瀧本さん、
明日朝起きたらまずカーテンを開けよう。
眩しい日差しに目を細める悦びを知ろう。
往復100歩で良いから散歩へ出かけよう。
季節の風や匂いを感じる悦びを知ろう。

与えられるでなく与える悦びを知ろう。
すると、貴女は変わる、きっと変わる。
その思いを日記に連ねよう。

不安だね瀧本さん。
だけど、貴女は、きっと変われる。
慈悲深い何者かになれる可能性を、
貴女も持っているはずだと信じよう。

死にたい夜は布団に潜り、
泣きたい夜は嗚咽をあげ、
やがてやってくる、
新しい朝を息を潜めて待ち続けよう。


少しだけ何者かになれた気がした瀧本さんより




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