わかってはいたけど見たくなかった『SNS-少女たちの10日間-』

珍しくドキュメンタリー映画を見ました。

本当にリアルで男の気持ち悪い部分を見ました。正直誰にでもオススメできる映画ではありませんが、社会的に意義のある作品だと思います。

大掛かりなドキュメンタリー

今作の狙いは、成人女性が12歳の女子という役作りをして偽のアカウントでSNSを行ったらどのような反応が来るのか検証するというもの。実際にリアルな部屋のセットを組んだりカウンセラーや専門家を準備し、かなりの規模で行っていたのには驚きました。

本国チェコではドキュメンタリーとしては異例の大ヒットを記録したそうです。作中には実際に警察に映像を提出しそれをもとに捜査が進められたとありましたが、チェコの教育機関までを動かしたとのこと。今後のネットリテラシー教育を進めるうえでとても貴重な映像でしたし、日本でも教育を見直すきっかけになってほしいと思いました。

個人から公の機関まで、あらゆる反響がありました。自分で言うのもおこがましいですが、ドキュメンタリーを超えて、社会現象になったのです。この映画を見たチェコの行政機関3つから連絡があり、(日本でいうところの)文部省では小学校のカリキュラムを変更し、性教育を小学校3年生から取り入れることとし、オンライン環境でどのように扱うかも含めるそうです。そして、この映画のおかげで、警察が52人の男性と1人の女性を捜索し、8人は裁判にかけられ判決が出ています。メディアもこぞって取り上げたので、性的虐待への問題意識は高まったと言えるでしょう。


必ずしも小児性愛者のパターンには当てはまらない

実際に連絡を取ってきたのは2458人(そのうち3~40人は女性)。年齢も職業もあらゆるタイプの人から連絡がきたと言います。作中で取り上げられていたのはごく一部に過ぎないのでおそらくもっと「普通の人」に見える人がいたと思うと恐ろしい。

作中で脳科学者の女性が言っていましたが、連絡を取ってくる男性は小児性愛者のパターンに必ずしも当てはまらないということに驚きました。少女でなければいけないということではなく、支配欲を持った男性たちがそのはけ口を求めて”手軽だから”、”自分の支配下に置きやすいから”少女に連絡を取った、ということです。

小児性愛者ではなく支配欲を持った男性ということを考えると、部屋の中を案内させたりやたらと要求が多かったことにも納得がいきます。要求に応えなかったときに逆上して脅迫という手段に出ていたのもその延長なのかもしれません。

途中までは自分とは違う生き物のように見てしまっていましたが、自分たちも他人事ではないと思いました。支配欲というと少なからず自分にもあると思います。今後大きくなっていかないとも限りません。自分の中にも男たちと同じような要素があると思うと情けなさや怖さを感じます。

描き方に疑問が残る部分も

個人的には、少女たちにコンタクトをとってきた男たちの人数だけでなく、専門家による分析などがもっと見たかったと思いました。ただ脅迫や少女へ嫌がらせをする男性のシーンが続き、不快感ばかり溜まるのはつらかったです。

物語中盤に、実際にTシャツを脱いでいるように見える合成画像を送って反応を見るということを行った結果、少女の画像がネット上に流されてしまっていました。合成画像なので本人の画像ではないということなのでしょうが、実際に女優の顔がネット上に出てしまっていることには変わりありませんし、犯罪を助長するような結果になったのではないかと思いました。

また、通話の際にSkypeを使っていたためどうしてもSkypeの着信音の印象が残るのはわかりますが、ラストやエンディング曲に着信音をアレンジしたものを使っていて、そこからすごく怖い印象を受けました。自分としては支配欲を持つ男性が怖いと感じましたが、作品としてはSNSというものが怖いとするのか、小児性愛者が怖いとするのか、ただ作中に出てきた男性たちが怖かっただけなのか、作り手の立ち位置がわからないまま終わってしまったように見えました。


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