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一歳と一ヶ月

ドライブよりも散歩が好きだ。
ゆっくりでなければ見れない景色がある。何の制限もない徒歩だからこそ、どこまででも行けそうな自由を感じる。
しかしそんな戯言は、世界の広さをちゃんと知らないから言えるのかもしれない。

5月7日、ヒナは無事に一歳と一ヶ月になった。
ギャン泣きで通っていた保育園も、ゴールデンウィークで一旦休暇。明けの保育園は地獄の泣きを想像し、ビクビクしながら登園させたけれど、若干泣いただけで意外にもすんなりと終わった。知らない間にどうやら先生と仲良くなったらしかった。
通ってるクラス、にじ組の前で、僕が荷物の準備をしているとヒナは他クラスのところに歩いて行ったり、廊下を歩いてる先生に手を振ったりしている。冒険家のようで英雄気取りにも見えた。
以前は床に足がついただけで、堰を切ったように泣いていたヒナが、自ら担任の先生のもとに抱っこされに行く姿を見て何だか感慨深い。
と同時に、ちょっとだけ寂しくもあり、ヒナが安心して登園できる環境を整えてくれる先生方に感謝と畏敬の念も抱く。
いろんな感情が入り混ざった複雑な気持ちになりながら1人、保育園を後にする日々を過ごしている。

最近、小さなインディ・ジョーンズは嫌なことがあると猛烈に首を振るようになった。これが
噂に聞くイヤイヤ期だろうか。
食事中、スプーンにご飯を乗せ口元に持っていくと首を振り、麦茶を渡しても首を振り、エプロンを外せと泣き叫ぶ。
オムツを変えようとしても首を振り、お気に入りのおもちゃを僕が受け取らなくても首を振る。今となってはボスを納得させることは至難の技になってしまった。

憎めないのは、意思疎通出来るのが面白くなったのか、本当は嫌じゃない時さえ首を振ることだ。
りんごジュースを飲むか再三尋ねて、3回目には手のひらを返したかのように素直に飲んだりする。
こっちがしつこいから諦めて飲んでいるのか、途中で気が変わったのかは分からない。けれど、何をするにしても一筋縄ではいかなくなったことだけは確かだ。

去年の今頃は、眠かったりミルクが欲しくて泣いているヒナを見て「人は肯定よりも、まず否定を覚えるんだな」と感じていた。
今、全身全霊で首を振る約72cmのヒナを見て、そのことを鮮明に思い出す。
これも成長の証と分かってはいるけれど、たまには首を縦に振ってほしい。頑固で厳しいボスには、一年目の新人なんて力不足だと思っているのかもしれないけれど。

ヒナは最近、シャボン玉の楽しさが分かるようになってきたようだ。
ある日、手に持って振ることでシャボン玉をつくるタイプのやつを買った。妻はそれでシャボン玉をつくって見せた。
すると興味を持ったヒナは妻と同じようにシャボン玉液を先端がOのような形の棒につけ、ぶんぶん振る。棒からは次々にシャボン玉が生まれていった。
シャボン玉が出来たのがよほど嬉しかったのか、笑わせる以外では最も笑っていた瞬間だった。
とてもとても、とても楽しそうで、見てるこっちまでニヤけてしまう。こんなにハピネスな空間をわずか100円で作り上げてしまうSeriaさんには頭が上がりません。

妻のお母様に買ってもらったサンダルがお気に入りらしく、探検がとまらない。抱っこしても
釣りたての魚の如く暴れまわり、歩きたがる。
保育園の先生からもらった製作物の「好きな遊び」の欄に「歩くこと」と記されていた。
いくら歩けども、大人のスピードには全く追いつかない。いくら歩けども、世界を知るには、ヒナの歩幅じゃ到底足りない。

けれど、歩いてしか見えない景色もある。ついつい見落としてしまう、本当に何気ない瞬間にふと立ち止まり、じっと見つめていたりする。コンクリートの小石や、路肩に生えた雑草に、何故か落ちている計量スプーン。
ついつい手を出してしまいがちだけど、ヒナにしか見えない景色を、歩きでしか味わえない自由を思う存分感じてほしい。あわよくば、心地よく疲れて布団に入ったら早めに寝てほしい。

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