これほどまでに目が離せないなんて(「大豆田とわ子と三人の元夫」を観て)


小学5年生の弟が、好きなドラマのお気に入りシーンを巻き戻してはケラケラと笑っていた。
それにつられて爆笑していたが、正直当時のわたしはそんなに繰り返し同じものを観るということに理解を示せなかった。

そこから8年ほど経ったが、まだあの弟の笑い声を思い出せる。
そして繰り返しドラマを観てしまう理由も、8年越しに理解できてしまっている。

そんなわたしのほんのちょっとしたエピソードを含めた1週間を、伊藤沙莉さんにナレーションしてほしいと思ってしまうほど、ハマっているドラマ。「大豆田とわ子と三人の元夫」

仕事でとある文章を書かなければならないのに、思考がとわ子の世界にひきづられてしまって、ハマりたてのわたしの脳は手に負えなかった。そればかり考えてしまう。

初めてだった。
3日連続で同じ話を観ること。
セリフが刺さって「うっっ」と声が出てしまうこと。
これは残しておこう、とそのセリフを指で文字に起こすこと。
そして8年前の弟への共感。

たった一本のドラマだけど、
影響を受けたドラマには変わりないので、
わたしの人生、ここから大きく変わってもいいのでは、とまで思ってしまう。

なんだかもはや、このドラマに関連すること全てに触れておきたい、みたいな欲望まで出始めている気がする。言い過ぎかもしれないが。
作りたての美味しそうなカレーパン。
ポテチのパーティー開け
よき理解者で居てくれる娘という存在。
社長業。
あの素敵な家。

軽快に1週間を振り返りたい。
軽快に振り返る1週間を送りたい。

家に人が頻繁に出入りする生活。
オペレッタで食べるラザニア。
ぬれおかき。
挙げ出すとキリがない。

ひとつひとつの情景が豊かで、目の前の人生にもどれかでいいから登場してくれないだろうか。。と願わずにはいられない。

三度結婚して、三度離婚したいか?という気持ちまでには至っていないので、やっぱり言い過ぎかも。

わたしはあまりドラマを観ないので、人生で心に残っているドラマは両手で数えて数本余るくらい。それらに共通しているのは、観ていると時計の針の進みがあっという間であること。長い針が10に近づくほど、切なさが込み上げる。次の話を観るまでに何をどれだけ頑張ればいいのだろう、と思ったり。月曜日のドラマだったら、他の曜日よりもちょっぴり荷が重かったり。

正直今クールは、いつもより気になるドラマがいっぱいあり、観るぞ〜と意気込んでいた。(つもり)
その中にとわ子さんはなぜか無かった。なぜだろう。だから1〜3話を観ていない。なのに今この熱量。番組表を眺めていてふと目に止まった再放送を録画したわたし、ナイス。その前におもしろいよ!おすすめ!と言ってくれたわたしの友人、ナイス。あの言葉が無ければこの熱量は生まれていないのだから。

劇伴が耳に入ってこないほどストーリーを追ってしまっていたが、繰り返し観ることで毎話さらに彩りを加えていた音楽たちの存在に気づく。

瞼の開き具合が何パターンあるんだろう。すぐ顔に出る様子に引き込まれる。こんなにころころ表情変えて、疲れないのかな、と思ってしまうくらいに。好きかも、違うかも、ありとあらゆる心の揺らぎが、瞳に現れるから、目が離せない。これはもちろん大豆田とわ子を演じた松たか子さんについて思ったこと。

辛くて誰にも言えない好きな人の死と共に生きる日常に、すっと優しい温もりや考え方を添えてくれた人だとしても、完全には分かり合えない事実がある。たとえ見るゴールが現実的には同じでも、たどり着くまでの過程が違うから、選ばれない。それが本当に切ないけれど、自分の気持ちを大事にして、ここにいない好きな人も受け入れて、ここにいる好きな人と三人で生きていこうと決める。その考えに至るための優しさだったかもしれない、と想うとやっぱり切ない。計り知れない愛と決断力を持つから、愛されるんだろうな。どう頑張っても手が届かないのに、そばに居たい。1対1だとみんな両思いなのに、みんなひとり。そうやって続いていくから、なおさら愛しい。

本編が終わるのと同時に、毎回同じイントロから始まるEDは、同じ歌詞を乗せない。会社の同期とこのドラマについて話したときのLINEを読み返した。「出演者が主題歌も歌ってると、歌とドラマが重なるからいいなって思う」「たしかに。歌詞もドラマとリンクさせて一緒に楽しめるしなあ、毎回違うEDも楽しみ。洒落てて」
本編で描く心情が、歌の中でも生きていて、最後の最後まで楽しめる贅沢さ。それが一曲だけじゃないところが、さらに嬉しい。わたしの人生の中で大切にしたいものが、一気に増えた気がしてる。ここまで隅々までキャラクターが浮き上がる工夫を凝らす情熱さに負けないくらい。

最終回を観てしまえば、完全に終わりなんだなと思うと、とても寂しくて寂しくて、1日置いてしまった。最後の最後までとわ子は振り回されるけど、そんなとわ子を「最高」だと言う元夫たち。わたしから言わせるとあなたたちも「最高」です。最終回らしくない、と思ってしまうほどの爽やかさが、これまでのストーリーの濃さを浮かび上がらせる。

楽しくて切なくて、可愛くてかっこいい。

こんな素敵なドラマに出会えてよかったな。

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